harakiri gomen

 野ばらは激怒した。必ずやこの散財無駄の相方に一度理解わからせねばと誓った。

 百合愛は数字が分からぬ。故に、おさかな教会の資金繰りも分からぬ。


「や、やめて、野ばら、落ち着こう?」

「こうするしかないから仕方ないだろうが!」

「危ないよ…ね?」

「せいやぁぁぁぁ!!!」


 思わず百合愛は目をつぶって体を強ばらせた。

 ガァン!!

 ドスッと、包丁の切っ先が、白く硬いものに、僅かに食い込む。


「ぐ、ぐぉぉ…っ。」

「…だから言ったのに。」


 百合愛はくすくすと笑って、包丁を野ばらの手のひらの上から握った。


「こういうのは、体重をかけてね…。」

「止めろ百合愛! 血が出るぞ!!」

「ふんぬっ!!」


 野ばらの手を握ったまま、百合愛は包丁を沈めた。

 そして、1時間ほど経った頃。


「出来た?」

「うん、いい感じかな。」

「お菓子屋さんのお餅なんて、初めてだね!」

「いちばん大きい2升の鏡餅だからな。ご近所さんに分けても多分1年持つぞ。」


 2日かけても、まだ4分の1残っている鏡餅を焼いてみると、意外なほどサトウの切り餅と似たような感じで膨らんだ。

 そして、やはり。


「思った通りだ!! うめえ!!」

「きな粉も醤油もいらないね。おかわりは?」

「だめ。数年前餅の食いすぎで、文字通り糞詰まりになったから。」

「えー!」

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