カネの切れ目がカミのたのみ

 さて、今年始めての月末である。

 いくつかの口座の中身を自分の移動で回転させ、せっせこせっせこと数字を合わせる。

 それにしても、手数料、貴様は本当に許されない。110円は大きい。献金に入れるとしたら100円玉か10円玉と決まっているのに。

「1月はあと18時間…。寝ずにやれば…。いや、2月からの依頼が……。」

 即日振込みの仕事はあるものの、いかんせん野ばらの武器はその圧倒的な『高品質の重量オーバー』である。

『野ばら、売れたよ。作家買い』

 今日来る予定の百合愛から、LINEが入る。作家買い、ということは、いわゆる「全部ください」なので、野ばらの家で荷造りを始める。

「あ、もうこれ在庫なかったんだな…。」

 そろそろ宣伝文句変えるか、と、思っていた時だった。ダイレクトアプリから通知が来る。開いてみて―――悲鳴を上げた。

「野ばらどうしたの!?」

 直ぐ側まで来ていたらしい百合愛が慌てて飛び込んでくる。

「か、か、かねが、おかしい…!! お金配りおじさんなんか応募してないのに!!」

「…それって、18010円じゃなかった?」

「うん。」

「ああ、送料がわからないので後から連絡しますって言ったら、忙しいからチップ込めて大きく振り込むって言ってたよ。だからじゃない?」

「いや多いよ! 10円は梱包料だから気にならないけど、一万円のチップは多いよ!!」

「それもこれも、野ばらがYou Tubeとかで宣伝広告してくれてるからだよー。私、マイリスト見せたんだ!」

「Oh...。とりあえず感謝に、お前はサインでもして―――。」

 あ、と、そこで野ばらは、そもそも百合愛がどうして急遽うちに来ることにしたのか思い出した。

「整形外科が始まるまで、アイス食べてよー。」

「あああああああ。」

「2ちゃんみたいな声って本当に出るんだねー。」

 のんきにそう言いながら、百合愛は利き手ではないほうで、冷蔵庫を漁った。

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