インプットも大事なお仕事です

 今までの特典の総集編が貰えるらしいので、と、野ばらに誘われ、映画館へ行った。

 村の建物はともかく、列車の背景がまんま、田舎だった。

 感涙の観客たちに先に席を立って貰ってから、ゆっくりと席を立つ。傍らで杖を着いているはずの彼女の方が、足腰がしっかりしている。

「大丈夫か?」

「………。」

 答えようとすると、胸が苦しい。

「…クリームソーダでも作るか。明日給料日だし。さくらんぼないけど。」

 肩に縋るようにもたれかかると、さすがはと言ったところで、バカップルのような身のこなしで自分を支える。

 野ばらの自宅に帰ると、先程までの苦しさは嘘のようだった。立ってるだけで邪魔なので、いそいそと家主用の大きな椅子に坐る。苦しさはないが、大量が尽きているのはわかる。

「ほい。」

 まだ道具の揃ってない家で、マグカップに透明なしゅわしゅわするものと、業務スーパーのお徳用レディボーデンが載っている。何故ボックスアイスでは無いのかというと、冷凍庫に入らないからだそうだ。

「わりぃな、大人のクリームソーダだと言うことで。」

 カンパイ、と、言うのでそれに応える。氷結とアイスクリームは、冬の夜に応えるかと思ったが、そんなことはなく、寧ろ身体が解れるのを感じた。

「2時間集中して、疲れたか?」

「尊かったから胸が苦しくなった、とは、流石に言えないかなぁ。」

「苦しくなったの、どこ?」

「おなか。」

「確かに言えねえな。」

 アイスクリームをちょんちょんと続くと、氷のないクリームソーダはマグカップの中でクルクル回る。

「それにしても、良いリョナだったね。」

「どこが1番興奮した?」

「大粛清のシーン。野ばらは?」

「俺は戦闘シーン全部。あそこだけくり抜いたニコニコ動画出ねえかな。コメント欄の悲鳴と一緒に見たい。」

「とりあえず夏コミの本はよろしくね。」

「大丈夫だ、冬コミの新刊予約ならポチッた。」

「行動が早い。」

 ふふふ、と、まだ笑う声に力が籠らない。苦しさはないはずなのに。

「ねえ、野ばら。」

「なんだ? 百合愛。」

 飲むペースが早いな、と、自分の空になったマグカップを見ている。

「あの二人をモチーフにしたシチュボかけるよね?」

「ん? ああ、BL方面のはないから、まあ、何とか男性向けで書くよ。」

「女体化かぁ。」

「腐女子は推しがヤッてる壁になりたいんであって、受けを犯したい訳ではない。」

「言えてるー。」

 その時、スマホのバイブがなった。

「お、ボスからだ。ちょっと喋ってくる。すのこ敷いて休んでな。」

「はーい。」

 Bluetoothを耳にかけて、野ばらは2階の仕事部屋に行った。すのこの半分、自分の分の布団の上に転がり、映画のシーンを少し思い出す。


 封印タブーを犯して駆け抜けているのは自分なのに、私達はタダの友人以上の関係なのに、負担はいつでも、普通にんげんの野ばら方が多い。

 同じ『はみだし者』ではあるけれど、教会しゃかいを新しく作る、その中心は野ばらだ。


 せめて、彼女よりも素晴らしい小説を、翻訳を、知識と答弁を鍛えよう。

 私の武勇伝が、野ばらの「自慢話」になるなら、それだけで「百合愛わたし」のことは分かる。


 それこそ私には、じょうしきの目と妖怪しんこうの目があるのだから。野ばらのくれた、この目にも早く馴染まなければ。

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