いつも閉店間際に来る人
「MOTTAINAI、素晴らしいわね〜。」
バスの中で、おねだりして買ってきたお菓子を見ながら、るんるんと百合愛は言った。
「食うなよ。」
「食べないよー!」
「…古いな、このやりとり。」
HAHAHA、と笑いながら、野ばらはボロボロの『くまちゃん』と描かれたがまぐちを覗いた。何のかんのと25周年の、1000円の財布は、汚れに汚れ、フチはほつれてボロボロだ。それでも野ばらは、「これが1番使いやすいから」と手放さない。財布は新しいものを使った方が金回りが良くなるらしいが、これほど愛されている財布なら、大丈夫だろう。
「そんなに苦しかった? 現金。」
「いや、お前が心配する程じゃないよ。明日から田舎帰るから、その時に色々貰ってくるわ。」
「挟さんちに泊まるんだっけ。」
「うん。」
「フードロス」ということで、信者なら無料で使える教区バスに乗り、運動と気分転換を兼ねて隣の教区まで来たものの、現地でお気に入りのお菓子である『こわれ』を買い占めた結果、すっからかんになってしまった。まあ、この『こわれ』があると、仕事が捗るし、百合愛も筆がノるし、買えるなら買えるに越したことはない。いつも空洞カヌレとこわれしか買っていないが、あんまりにも定時を過ぎてから到着するものだから、すっかり店主にも覚えられてしまった。
久しぶりに定時前に行くことが出来たので、褒められたし、お客さんとも少し話すことが出来た。野ばら以外殆ど口を聞かないことが多い百合愛にとっては、良い刺激になる。当たり前のことを褒められて喜ぶのは、田舎で言うところの「足りない子」のようだが、褒められたり喜ばれたりしたら、誰だって嬉しいものなんじゃないだろうか、と、百合愛は思う。
「ん?」
ふと、野ばらがスマホを操作した。
「仕事?」
「うん。…うんん!?」
「どうしたの?」
「…納期が3日後の正午だ。」
「3日後って、こっちに帰ってくる日だよね?」
「うん。」
バスが東京教区の境目まで来たので、2人は降りた。そして大急ぎで野ばらが画面をフリックする。
「桜桃子ォ!! 緊急の仕事が入った! パソコンとネット環境整えておいてくれ! あと今夜行くから!」
『はーい。気をつけてね。』
ミニマリストの家って不便だなぁ、と、百合愛は今日中に聞き終わらないと行けないzoomの録画を聞いていた。
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