因習一族

 村ぐるみで陰謀を働くことを因習村というなら、田舎は「因習一族」である。

 野ばらを桜桃子の車で迎えにいき、そのまま田舎に戻る。

 今日は「おさ」に話をしなくてはならないから、逃れられない。

「おかえりんこ〜!」

「ただいまんこ。」

「おっすおっす。」

「お邪魔します。」

 家の家政婦(正確には違うのだが)、御台所おだいどころが出迎えてくれる。家の中は玄関に至るまで暖かく明るい。

「おかえりなさい、野ばらちゃん、百合愛ちゃん。」

「おっす御台みだいどの。」

「ただいま〜。」

「長は?」

「長なら今テレビみてるわよ。」

「酒は?」

「呑んでない。」

 まあ、野ばらの結婚話のことをするのだから、呑んでいたら失格である。

 ただ、古今東西、親というものは子供にうるさいし、いつまでたっても子供のままなのだ。

 リビングに入ってなるべく明るい雰囲気を保とうと、野ばらはお出迎えの茶色いマルチーズを抱き上げた。

「おお〜! 芝太しばた! 元気だったか〜! よぉしよしよしよし、よぉしよしよしよし。」

「きゃん!」

「おう、おかえり。」

「ただいま、長〜。」

「ただいま。」

「あー、お腹空いた! この匂いギョウザじゃない? 食べていいの?」

「もちろんだよ、3人分頑張って焼いたから、沢山食べて!」

「御台所マジでおだいどころ。いただきまーす! ギョウザなんて家出てから食べてないや!」

「私もー。」

 そう言って、野ばらは下座に、百合愛は上座に座る。桜桃子は「フラワーアレンジメントの手入れがあるから」と逃げてしまった。

「ちゃんと食べてるのか?」

「うん!」

「寒くないか?」

「大長のちゃんちゃんこと、桜桃子の半纏があるからへーき。」

「執筆は順調か?」

「今月でローンが終わったのが2件もある!」

「そうか。」

 大人数ギョウザを食べている間に、シーフード炒めが出てくるので、それも頂く。

「おい、アレがあるだろ。出してやれ。」

「あ、そうだった! 野ばら、百合愛、筋子があるんだよ。大奥様からの。」

「筋子は本家の筋子しか勝たん。」

「ナマモノだけど、飲み物はやっぱり牛乳?」

「うん!」

 美味しい、美味しい、と、2人でニコニコ笑い、近況報告を長めにとる。満腹になってる訳でもないのに、腹が重い。

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