職業病というより経験値
野ばらは、自分の発言が嘘だと思われるのが嫌いだ。それこそ、「ホントならそんなに怒る必要なあのに(笑)」なんて言われても仕方がないほどに。
「統失。」
「あたり。」
理由は簡単で、野ばらも病気がちだったため、実の所身体は大分ボロボロだ。気合いで生きているとはまさにこの事で、数値上は問題がないはずの百合愛とは対照的に、野ばらはいつ倒れ付してもおかしくないという。
野ばらがそれでも倒れず、生きていくのは、一重にその心身に、日本社会への怒りがあるからだ。
と、言うと、大体の人間が鼻で笑ってくる。いい歳して、ということだ。
野ばらも百合愛も、世間ズレしているのはまさに、そこである。
「陰謀論者。」
「あたり。」
「陰謀…いや違う、自然派思考の漢方中毒。」
「チッ、引っかからなかったか。」
野ばらにとっては、世界とは自分の周りのことであり、世界とは日本のことである。国際平和だの国境のない地図だの、そんなものは野ばらにとって意味をなさない。
野ばらから見た世界は至って単純だ。
敵か、無害か。
有害と無害ではない。敵と味方でもない。それは何も知らないで育った野ばらが唯一身を守ることの出来る防具だった。
「こいつはうつに見せかけた人格障害、それでこっちは、コンビニ心理学を齧った頭でっかち。」
「あー! 全員正解だ、ちくしょう!」
「ハハハ、目元で見抜くことが出来なくても、言動で分かるぞ。」
「なんでだ! なんで密かな裏設定まで見抜くんだ!」
「それは日本を舞台にした小説で、日本人が関西人キャラと東北人キャラを見分けられるようなもんだ。」
「ぐー!」
「という訳で、もっと隠してから読ませてくれ。」
そう言って、野ばらは満足そうに、原稿用紙の束を戻した。コロナのせいで、テーブルが無くなったため、野ばらは勉強ができず手持無沙汰だ。
原稿を戻された公募勢の作家仲間は、うなりつつ言った。
「そういえば、一人暮らしおめでとう。塩梅は?」
「毎日借金を返すためにあくせく働いてるよ。督促状やら最速の自動音声がとまらねえ。」
「そんなんで良く家を出ることにしたな。」
「いやぁ、自然派ママも認知症一歩手前も陰謀論者も気分変調症という名の気まぐれ屋もいないってサイコーだぜ!!」
「うーんこの。」
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