何奴都々逸

「三千世界の鴉を殺しぬしと朝寝がしてみたい」

「立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花 」

「恋に焦がれて鳴く蝉よりも鳴かぬ蛍が身を焦がす」


 ふむ、と、書き出して、文字数を数えながら、とんとことん、と、ペンを叩く。普通なら言葉をひたすら飛び散らせ、そこから選んで書き出すのだろうが、自分にはどうにもこうにも、そういう試行錯誤では。正直にそういうと、何故かイキってるだのなんだのと言われる。出来ないことを出来ないまま、出来ることをできる限り伸ばすのがどうしていけないのだろう。型破りを目指している訳でもない。というか、型があるなら教えて欲しい。その方が楽なはずだ。

 まあそれも、自分なりに見ていて、ふむ、と、思い至っただけの「イキリ」なのかもしれない。


「三千世界の信者を敵に同担ともと聖書でBL談義」

「立てば迫害座れば勉強駆け抜けゆくはビッグサイト」

「神に焦がれて鳴く羊より泣けぬ涙に鼻が利く」


 やっぱりしっくり来ない。自分だって物書きだから、厨二病は通ったのでそれなりに漢字は強い。強いが、やはり彼女と自分が違うと思うのは、ベースの出力が違う。


 やっぱり、二人いないと出来ないもんだ。

 いやいや、それでもやっぱり、なのだ。


「千年王国の羊を尻目にぬしへきを語りたい」

「至れば幻座らば地蔵歩く姿はブクロ系」

「神にかぶれて説く教えより鳴かず飛ばずのコピ本が欲しい」


 ごろんごろん。

 ごろんごろん。


「他人の家でなにやってんの?」

「おかえり。」

「ん?都々逸か?なんかに使うの?」

「うん。」

「…。まあ、やりたいことは何となくわかった。」

「作れる?」

「選択肢が少ない。俺ならこうする。貸してみ。」


 点がいくつも叩かれた紙の、大分大きな余白部分に、壁を机にしてさらさらと全く違う都々逸を書く。


「ほい。じゃあ俺寝るからそこどいて。例の緊急の仕事終えた後にほっぽり出された仕事終わらせて、徹夜の上にこの時間までからあげクン二粒しか食ってねえ。気持ち悪ィ。」


 そりゃミニマリストの家にスケジュール長めに滞在したらそうもなろうな。

 時間を確認すると、13時だ。多分徹夜で仕事を終わらせた後に、ろくに休みもせずにバスと電車を乗り継いで来たのだろう。

 持ち帰ってきた荷物を見てみると、牛乳と豆乳が1本ずつと、餅が1キロに、ノリが一袋。

「おお!」

 と、ずっと食べたがっていた麺類が入っていた。食材、GETだぜ!

 そうと決まれば話は早い。どうせ今も倒れ込んだはいいものの、空腹と疲れで吐きそうなはずだ。黄色いラーメンなんてこっちに来てから食べただろうか? マシマシで作ってやろう。


「…、読めよ、バカ。」


 読んでみやがれ品位は無いが信者に見えない神を書く

 刺さった証拠にゃお前のへきが来年秋の新刊で出る

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