「神」というアイドル

 いつまでたっても、逃亡したものは帰ってこない。こうなったら自分でやるしかない。

 幸いにも百合愛は苦痛ではなかった。ただ、テクニックがない。創ることは大抵好きな百合愛だが、感性のままに描くので、理論も型も、全てフィーリングである。伊達にぼっちを極めていないのだ。

「野ばら!」

「あん?」

 それでもうつうつとした気分を隠せないまま、片付けをしていた時だった。今日は野菜の錬金術師の当番の日なので、台所に声をかける。

「今、神さまの声が聞こえた!」

「ほお、なんて?」

 この程度のことは日常茶飯事だし、何なら百合愛の創作は神降ろしとも言えるものなので、野ばらは全く動じず、しゃーこしゃーこと、ダイソーの手動ミキサーを引いている。

「『その通り。お前は尊く奇抜で、面白い』だって!」

 それを聞いて、野ばらは手を止めて振り向いた。

「…神って、『面白い』っていうの? 『愉快』とか『興が乗る』とか、もっと王様っぽい言葉使わないの?」

「そんなこと私に言われても。」

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