ベッド・イン
「どけ。」
「おふん!」
どつかれて起きた。外は真っ暗で、目の前に木材がある。そしてその木材は横に動いている。
「よっこいしょっと。」
「なにそれ。すのこ?」
「おう。床上げを簡単にする道具。」
「???」
すのこがなんで? と、思っていると、誰かが声をかけてきた。
「お客さますみません、お手伝いいいですかー?」
「あ、はーい! すみません!」
野ばらが出ていく。玄関には、ピンク色の布のバッグがある。バッグと言うか、これは布団のようだ。
「おら百合愛! その布団持ってってくれ!」
「はいはい。」
どこに置けばいいのか分からないので、とりあえず部屋の隅っこに置く。なんだか色々と細々したものが増えていた。
「はい、ありがとうございましたー。」
ブロロ、と、車が発進する音がする。タクシーらしい。今度はビニールに包まれた、黒いものが押されてきた。
「どうしたの? 今何時?」
「夜中の2時。今のタクシーのあんちゃんはいい人だったけど、ぜってぇ二度とあの会社使わねえ。二度も道に迷ったせいで終電逃して、ここまで一万近くタクシー代かかった。」
「お金大丈夫?」
「クレカ決済だから大丈夫。支払いは働くしかねえな。ほら、どけどけ。」
どうやら折りたたみのマットレスのようだ。よいしょ、と、すっぽり入る空間に入れ、のろのろとした動きで散乱したものを整えると、あっという間に二人が座って食べられるようなものが出来上がった。
そして、すのこの上に布団を敷く。
「痛くない?」
「このすのこが、折りたたみ式だからな。ちょっとコツがあるけど…ほれ。」
ぐっと野ばらが持ち上げると、ぱこっと布団が折れ曲がって立った。
「おお! 凄い!」
「これなら布団の出し入れが出来なくてもオッケーだ。…よし。」
ぱたん、と、押すと、布団が平らになる。野ばらは載せた布団に入ると、ふわ、と、大きなあくびをした。おそらく寝ている間に、走り回って貰ってきたのだろう。
「百合愛、どうせシェアハウスには外泊許可とってるんだろ? さっさと来いよ。そこにあるから。」
そこそこ、と、指さされた場所を見ると、もう使えないと思っていた百合愛の布団があった。ぱっと顔が輝くのが自分でもわかる。その上で野ばらは言った。
「すのこはダブルベッド用だから、とっとと乗っけて寝ろ。」
「はーい。」
さっきまで寝ていたので、元気だ。よいしょとすのこのもう半分に布団を乗せて、隙間を整えた。
「おやすみー。」
「電気消せ。」
「これだっけ?」
「それエアコン。」
「あ、こっちか。」
ようやく、夜が訪れた。
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