人の家で喧嘩するな

 馴染みの居酒屋に、アフガニスタン人がやってきた。無粋とは思いつつも、百合愛は聞かずにはいられない。

「アフガニスタンということは、シーイーですか?」

 するとそうだと言う。百合愛が「大変だったね。」と、声をかけて、「神様の作った大事なものを壊すな!」「人の家で西部警察するな!」「私たちの故郷エルサレムに乾杯!」と、いうと、アフガニスタン人はよほど嬉しかったらしく、手を握って涙ながらにキスをした。その行動が、中東の人々の感謝だと知っているので、百合愛は動じない。

 このアフガニスタン人が、百合愛らがカトリックだと知るや、お互いに勉強したいと言ってくれたものがから、百合愛はノリノリである。

「私の尊敬するシシャ皇帝、みんな守った。だから、私も友人を守る。電話番してくれたら、お昼ご飯、出してあげる。」

 イスラム教、もといアブラハムの宗教にとって、「食事」とは最も神聖で、「親友」「同胞」を表す言葉である。野ばらがいつも、どんなに腹を空かせても、サービスのチャイしか飲めないことや、いい加減下町情緒に限界が来ていることを、マスターも感じていたらしい。


 原稿と支払いで精神をすり減らしていた野ばらが、もたれかかって泣ける人がいて、本当によかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る