第22話 有銘と総理大臣
三人は国立中央図書館、受付の前にいた。
平日の午前中ということもあり人は
読書スペースは
「誰に言えばいいんですかね?」
「さあ、誰でもいいんじゃないか」
「いいわけないでしょ、バカ」
「あー、バカって言った! バカって言う方がバカなんだぞ! バカ!」
そんないつも通りのやり取りをここに来ても続けていると一人の人が近づいてきた。
「何かお困りですか?」
柔らかな笑顔で話しかける男性は不自然なほど顔が整っており、無駄な肉が一切ない
「いえ、あの……」
彼方がどうするべきか言い
「これを持ってるから、あそこにある奥の部屋に入れて欲しいんだが」
そう言って男性の目の前に右手でしわくちゃの紙を突き付け、左手で奥の部屋を指差す。
男性はその紙を受け取り確認すると、一度目を細め彼方達ひとりひとりを審査する。
「…………なるほど。了解しました。ご案内いたしますので、少々お待ちください」
審査に通ったのか、男性はそう言い、受付の後ろの方に下がっていく。
「あの人で本当に大丈夫かしら?」
「大丈夫だ。あの人、しっかりしてそうだったから」
「ただかっこよかっただけでしょ」
「…………まあ、それも一理ある」
「それしかないでしょ」
女性がイケメンに弱いのはどんな世の中でも変わらないらしい。
数分後。
男性が落ち着いた様子で戻ってきた。
「お待たせしました。こちらにどうぞ」
男性に連れられて通された部屋は目的である受付の奥の部屋ではなかったが、よく海外の映画か何かで出てくるような格調高く
壁紙は歴史の教科書で見たような色合いと柄、
明らかに場違いな場所に彼方と田所は驚きと戸惑いを隠せないが、有銘は、ふふん、と鼻歌を歌っている。非常に上機嫌だ。
「こちらにどうぞ」
男性が手際良く椅子を引く。
有銘が嬉々として座り、その向かい側に
右と左で正と負、陽と陰。
何かしらの悪いことをしないと大富豪にはなれないという都市伝説を信じている彼方にとって、この部屋は不気味のなにものでもなかった。男が去ってから物音ひとつしない空間で不安だけが
「これから何が始まるんですかね?」
「変なデスゲームとかに参加させられないわよね?」
「そんな無茶苦茶なことは」
彼方はそう口にして気づく。
――……今の今までがだいぶ無茶苦茶だったではないか。今更無茶苦茶なことが起きないと言い切れるだろうか……。
「…………ないですよね?」
「まあ、そうなったらそれはそれで面白いよな」
一貫してわくわくしている有銘が言う。
「今だけはあんたのメンタルを少し分けて欲しいわ」
そこに映っていたのは現内閣総理大臣、
「こんにちは。モニター越しの
そう言って画面越しに頭を下げる。
「全然いいぞ」
それを軽く有銘がいなす。
「ふっ、有銘君は昔と全然変わらないな」
「うそ、昔より綺麗になっただろう」
「いや、変わらんよ。今も昔も綺麗だ」
「そう? もう、照れちゃうな」
「がっはっはっはっ」
「がっはっはっはっ」
獅堂と有銘が同じような笑い声を上げる。
テレビでしか見たことのない人物とリアルタイムで会話をしていることが彼方は信じられなかったが、それ以上に総理大臣と有銘がまるで
「――ちょ、ちょっと、あーめ、ねえ、あーめ!」
田所が豪快に笑う有銘を小声で呼ぶ。
「ん? 何だ?」
「あんた、獅堂総理大臣とどういう関係なのよ⁉」
「どういう関係って……こういう関係だけど、なあ?」
有銘が獅堂の方を向くと、獅堂もそれに対し笑顔で答える。
「うむ。こういう関係だな」
「がっはっはっはっ」
「がっはっはっはっ」
再び高らかに笑い合う。
二人にしか見えない糸のようなものがそこには
「と、まあ、冗談はさておき、有銘君は私の
「「…………姪⁉」」
彼方と田所が同時に声を上げる。
有銘は、うんうん、と深く頷く。
「もう亡くなってしまったが、私の弟が有銘君の父親でね。だから、有銘君をおぶったことだってあるし、何ならおしめだって替えたことがあるんだよ」
彼方と田所は開いた口が
総理大臣と直接話をすること自体日常ではないことなのに、その身内がこんなにも近くにいたとは普通思いもしない。
「なんでそんな大事なことを隠してたのよ!」
「隠してなんかないぞ。
有銘が胸を張る。
「……っく……私としたことが、不覚!」
田所が
獅堂が、こほん、とひとつ
「えー、改めて、内閣総理大臣獅堂剛彦だ。そっちの悔しそうに顔を赤くしてるのが
「いえいえ、そんなことは
上品に口を抑えながら
「……そんなこと絶対思ってないくせに……」
「あーめ、しっ!」
田所が口に人差し指を当て、有銘を
それを外から
この部屋に彼方達を案内したイケメンはいつの間にか獅堂の後ろに控えている。
そんな光景に小さく
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