第43話 有銘のいない日々~part2~

 彼方かなたは病院を出て一週間ぶりの家に帰宅した。

――――ギシッ……ギシッ……。

 たたみを踏むたびにきしむ音が鳴る。

――――ヒュー……ヒュー……。

 どこからか入ってくる隙間風すきまかぜが寒い。

 リュックサックを玄関に置き、キッチン兼洗面所で手洗いとうがいをする。

 こんな時でも習慣となっていることが出来てしまう自分が少し嫌だった。

 そばに付けられた鏡でふと自分の顔を見る。

 そこに映った顔は別人のように変わり果てた自分の顔だった。

――こんなにひどくなってたなんて気づきもしなかった。確かにこれじゃ、有銘さんを心配させちゃうだけだな。

 窓から夕陽ゆうひが差し込む。

 赤色ともオレンジ色とも形容しがたい色が畳まれた布団と丸テーブルしかない部屋全体に広がる。

――ああ、もう夕方なんだな。

 時間の感覚はおろか今日が何日で何曜日なのか、彼方は分かっていなかった。というより、そんなことを考える余裕もなかったという方が適切かもしれない。

 その後、彼方は共有の風呂で体を洗い、部屋に戻る。

――この部屋は何も変わっていない。しかし、なぜだろう。いつも生活して何も感じないはずの部屋が、今日はやけにさびしく感じてしまう。なぜだろう……。

 彼方がそう考え自問するが、答えは明らかだった。

 現実逃避をするかのように畳まれた布団をき、横になる。

 ピークに達していた疲労のせいか、目を閉じるやいなやすぐに眠りにつくことが出来た。

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