第2話 出会い~part2~

「ところで、あなたは何者ですか?」

 彼方かなたかばんから予備で持っていた黒縁眼鏡を取り出しかける。

 場所を教室から食堂に移した彼方と有銘あるめは向かい合うように座っていた。誰にも見つからないよう食堂でも端の端の方に陣取り小声でく。

 授業中であることもあり食堂は閑散かんさんとしており、誰かに聞かれることはないのだが、万全を期すに越したことはない、と考えた彼方が半ば強引にここに陣取ったのだ。

「あれ? 私の事知らない?」

「はい。知りません」

「……全く?」

「はい。全く」

 間髪入かんはついれずに答える彼方に有銘が残念そうに肩を落とす。

「……そっか、私もまだまだそのくらいってことか……ちょっとへこむな」

 有銘がそうつぶやき、改めて彼方を見据みすえる。

「私の名前は小波有銘だ。一応、これでも雑誌とかテレビに出てるんだがな。まあいいか。よろしくな」

 そう言い、屈託くったくのない笑顔を浮かべながら有銘が右手を差し出す。

「…………」

 彼方は黙したまま、目の前のコーヒーを口に運ぶ。

 ――この少女にその気がないのは何となく分かる。しかし、先程あのようなことをされたのだ。この右手を掴んだ瞬間、それが地獄への入り口であるかのような闇を勝手に感じてしまうのは当然であり、むしろ不可抗力ふかこうりょくであろう。

 彼方がそう考え、目の前の少女を探るように見る。

 有銘は少し悲しげに眉尻まゆじりを下げ、右手を引っ込める。

 元々和やかな空気ではなかったがより気まずい空気が流れる。どろっとしていて肌にまとわりつくような気持ち悪い空気が彼方と有銘の周りを包み込んでいた。

 しかし、その空気を作り出した当の本人は事も無げにコーヒーを飲み干し、そして、カップを置くと有銘の目を見据え重い口を開く。

「僕が訊きたいのは、そんなことではありません」

「訊きたいこと?」

 有銘が小首をかしげる。

「……はあー、止めて下さい。今更、白々しらじらしいですよ」

 彼方が口唇をきゅっと結び、有銘を睨む。

「…………ん? 悪い。本当に分からないんだが、何のことだ?」

 有銘が小首を先程とは反対側に傾げながら顎に手を当てる。

 ――なぜ私は責められ、追及されている?

 意図してやっているのであれば大した悪魔だが、有銘は本当に分かっていなかった。

 有銘には考えても考えても心当たりが本当に全くなかったのだ。

 彼方は一度目を閉じ、再び深い溜息ためいきを吐く。

、ということです」

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