第4章

第21話 瑠璃の過去

 小波瑠璃さざなみるりは姉が大好きだった。

 どこに行くにも姉の後ろにピタリと張り付いていた。

 姉は優しかった。

 他の友達をと遊びに行きたい時や一人になりたい時、瑠璃の存在が邪魔じゃまになる時もあった。単純に面倒めんどうくさい時もあった。

 しかし、姉はそんな瑠璃を拒否きょひすることはなかった。

 いつ何時でも自分のことを後回しにして瑠璃のことを最優先に考えた。

 はたから見ても仲の良い姉弟きょうだいであっただろう。

 その関係が崩壊ほうかいしたのは瑠璃が自分の体質に気づいた時だった。

――僕の体質があればなんだって自分のものに出来るんじゃないか。そうすれば僕の好きなようにやることが出来るんじゃないか。にくしみや悲しみのない世界に作り直すことが出来るんじゃないか。

 その思いを姉に話した時。

「瑠璃。悪いことは言わないから止めろ。あなたが傷つくだけで、何にも良いことはない」

「そんなことない! お姉ちゃんだって言ってたじゃないか! 誰も憎まず悲しまない世界が来るといいね、って」

「それは……確かにそう言った。……けど、でも、人が人と生きてるんだ。悲しいかもしれないが、実際にそうなることはまずないぞ」

「そんなことない!」

 瑠璃はそう激昂げきこうし姉をにらむ。

「お姉ちゃんなら分かってくれると思ってたのに、何で分かってくれないのさ! ……お姉ちゃんなんか、もう嫌いだ!」

 そして、瑠璃は両親を殺した。

 それ以来、闇の中にまぎれ姿を現すことはなかった。

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