第20話 共通点~part2~
「じゃあ、まずは私からするわね」
「
田所がコーヒーを一口含む。
「じゃあ、次は私だな」
「現場はJR
「はい。僕の方はですね――」
それに続いて彼方も事件の概要を説明した。
次に各々がその事件の気になったところを話していく。
大きいところは警察が全て調べており、調書を読めばある程度の情報を
そんな中、田所が作った資料に彼方の目が留まる。
心臓をぎゅっと
血流量の増加とともに体温が上がっていくのが感じられる。
遠くに置かれたジグソーパズルの
「田所さん、ひとつ気になったのですが……」
「ん? 何かしら?」
「この『Sprinter』っていうのは、
「あらっ、そうよ。よく知ってるわね、こんな古くてマイナーな曲。私でも名前くらいしか知らなかったのに」
田所が
彼方の年代で知っている人はほぼほぼ
「いえ、僕も知りませんでしたよ。この事件を調べるまでは」
その瞬間、田所の目が大きくなる。
「……まさか、彼方君の方の事件でも流れたとか?」
「はい。サビだけですけど、事件が起こる直前に流れたみたいです」
「おーい。何の話だ?」
キッチンから巨大なプリンを持ってきた有銘が入ってくる。
彼方が有銘に『Sprinter』のこと言うと、有銘は、ああ、と声を
「『Sprinter』なら、私の事件でも流れてたみたいだな。駅のアナウンスを
その事実を聞いて彼方は
――未解決事件の中から犯行の手口が不可解という理由だけで
そう思ったのは田所も同じで、すでにパソコンで何かを調べている。
「――あったわ。唯一、反逆の狼煙のことを調べられる場所。それは」
「国立中央図書館ですよね」
田所の言葉を
「あら、すでに知っていたのね」
「はい。ちょっと気になったもので調べたんです。それで、そこに実際に行ってみたんですが」
「そこには何もなかった、と」
プリンを
「……はい」
「……そうなのね」
一度目を伏せ、残念そうにコーヒーを
「ただ、そこでひとつ、遠くから視認することは出来たのですが、近寄ることが出来なかった部屋がありまして」
彼方があらかじめ印刷してあった図書館の案内図を広げる。
「ここです」
そして、彼方が示したところは図の中で何もないところだった。
「ん? ここ? 何もないけど?」
「そうです。図には書かれてません。しかし、そこには確かに部屋がありました」
彼方が一日をかけて図書館中の
「その部屋、怪しいわね」
うーん、と彼方と田所が悩む中、有銘が
「その部屋って受付の奥のところにある部屋か?」
「はい。肉眼でちらっとしか確認できませんでしたが、あそこには確かに部屋がありました」
「ああ、その部屋だったら、私、入ったことあるぞ」
「ぶっ⁉」
「本当ですか⁉」
田所が飲んでいたコーヒーを吹き出し、彼方が思わず声を上げる。
「うん。でも、あそこ入るのに総理大臣の許可が必要だから、ほぼほぼ誰も入れないんだ」
「……それ、本当なの?」
「本当だぞ」
「……
「……ですね」
田所と彼方の顔が
友達のお菓子を一つ貰うのとは訳が違うのだ。簡単に総理大臣の許可が貰えるはずなどない。
しかし、それは同時にそこに真実が隠されている可能性が高いという証明でもあった。
「え? どうして?」
有銘が本気でなぜか全く分からないような高い声を上げる。
「どうしてって……はあー、あんた、状況分かってる?」
「むー、失礼な。分かってるぞ。その部屋にこの体質を知る手がかりが眠ってるかもしれなくて、その部屋に入りたいってことだろう」
「簡単に言うけど、じゃあ、そこにはどうやって入るのよ? 総理大臣に事情を説明して、はいそうですか、で入れてくれわけないじゃない」
「そうなんです。そこなんですよね、問題は」
彼方と田所が
手がかりとなりそうな事がまさに目の前にあるのに、それを
彼方は事の重大さに直面し、改めて恐怖する。
――
彼方の中に
それは心の周りをうねうねと動く
「それなら確か、あっちに……」
そんな彼方を
相変わらずプリンを口一杯に頬張っているが、それを一度置き、ぱたぱたと足音を鳴らして行ったと思ったら、一枚の紙を持ってすぐに戻ってきた。
そして、その紙をテーブルの上に広げる。
しわくちゃになってはいたが、そこに書かれていたのはまさに彼方と田所の求めていたものだった。
『通行許可証 内閣総理大臣
「ほら、これ。
その紙をよく見ると、確かに
どんな
「…………あんた、何者なのよ?」
「ん? 小さくて可愛くて評判の
有銘が口にプリンをつけたまま、彼方の持つどら焼きに目をきらきらさせる。
彼方と田所が互いに顔を合わせ、深い
――体が小さくて顔は人形のように整っている、
彼方が有銘のことを考える。
有銘のことを含め、まだまだ分からないことは多く謎は残されているが、彼方にもう疑いや迷いはなかった。
――そんな人が僕を必要としてくれた。化け物と
有銘を信じる気持ちと閉ざされた道を歩くことが出来る
それだけが今の彼方にとって何よりも大事なことだった。
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