第9話 有銘の憎しみ~part2~
――――ブーブーブーブー…………。
そして、一度小さく息を吐く。
「……タイミングが良いんだか、悪いんだか……」
そう呟き、
彼方には有銘が何をしようとしているのか、さっぱり分からなかった。
――――バンッ! バリンッ!
遠くで乾いた音がしたと思ったら、同時に窓ガラスが割れた。
有銘が握りこんだ右の
その段になってようやく彼方は理解した。
――…………誰かに狙撃された!
それを有銘はおそらく仲間からの連絡を受け、力ずくで防いだのだ。
文字通り己の力によって。
彼方がひとつ
体のいたるところにガラスの破片が刺さっておりそこから血が流れてはいるが、有銘は
有銘の周りには怒りという表現では
普段の
――――トゥルルルルル、トゥルルルルル……。
有銘がスマートフォンを耳に当てる。
「また
語尾は普段以上に強くなり、口調に明らかな
別人が有銘の体に
「……ああ、そうか……分かった。じゃあ、望み通りにしてやる。ただし、余計なことは言うな。いいな⁉」
そう言って有銘がスマートフォンを布団の上に落とす。
「坂田君、君に話があるみたいだ。少し代わってくれ」
――…………話? 一体誰が、なぜ僕に?
疑問符が飛び交う中、スマートフォンから声が流れてくる。
「――おーい、不死身君。聞こえるかい?」
そこから聞こえてきたのはまだ小学生かもしくは中学生くらいの変声期を迎えていない男の声だった。
「……は、はい?」
「ああ、よかった。僕は
人と全くと言っていいほど関わってこなかった彼方にも分かる。
柔らかい声で言う少年の声は有銘と同質の純粋さや軽快さはあるが、同時に
その場の状況や出来事を
人が混乱しあたふたとしている様を外から
そこに
「……その弟さんが僕に何の用ですか?」
「気持ちは分からなくもないけど、初対面でそんなに警戒しないでよ。照れちゃうじゃないか、くっくっくっ……」
体をねめ回されるような気持ちの悪い笑い声が彼方の背筋を通る。
「単刀直入に言うとね、僕は君を助けてあげたいんだ」
「…………助ける?」
「そうさ。君はその体質を出来ることならば消して普通の人になりたいと思っている。そうだろう? 僕にかかればそんなことは簡単さ。僕が君のDNAを少しでも取り込めばすぐに君の力は消える。小指の先くらいの髪の毛でも一滴の血液でもいい。それだけでそんな気味の悪い体質を綺麗さっぱり消すことが出来るんだ。ね? 簡単だろう?」
瑠璃と名乗る少年が何を言っているのか、彼方には全く理解できなかった。
しかし、それでも分かることはあった。
――この少年は信用できない。甘い誘惑に乗ってしまってはいけない。口車に乗せられてはいけない。何かは分からないが、きっと何かもっと危険なことが起こってしまうに違いない。きっと少女の言う〝悪用しようとする集団〟に違いない。
彼方はスマートフォンを持つ手に力を込める。
「いきなり殺そうとしてくる人に、はいそうですか、って協力する馬鹿がいると思いますか?」
「それは悪いと思ってるよ。でも、僕は不器用で頭も悪いからね。君と仲良くなるための方法がそれくらいしか思い浮かばなかったんだ。許しておくれ」
そう言うが、この少年の言葉に乗るのは
「よくも、まあ、上っ面の言葉をここまでぺらぺらと言えるもんだな」
有銘が荒くなった呼吸を戻すこともせず言う。
「そう怒らないでよ。今日は挨拶がしたかっただけだからさ。それに姉ちゃんにしろ、そこの不死身君にしろ、これくらいで死ぬことはないでしょ。僕も含めてだけど皆、この世界じゃ化け物なんだからさ」
「お前に姉ちゃんと呼ばれる筋合いはない! それと私達は化け物ではない!」
有銘が叫ぶ。
「おー、こわいこわい、くっくっくっ……」
それを少年はまるで
顔を見なくても容易に想像できた。
少年は人を小馬鹿にして
「……それと何度言っても理解できていないようだから、今一度、言っといてやる」
有銘が大きく息を吸い込み、外に向かって言う。
「お前は絶対に私がこの手で殺してやる! 私の家族を奪ったお前を私は絶対に許さない!」
「そうかい、そうかい。でも、姉ちゃんに僕が殺せるかな?」
くっくっくっ、と笑う声だけが
「殺してやるさ。…………たとえ差し違えて、私が死のうともな」
そう言う有銘に殺気があることは変わらなかったが、そこには一種の哀れみや悲しみが同居していた。
「……それと、これはお前に返す」
そう言って有銘が細長い銃弾を手に振りかぶる。
そして、窓の外に向かって思い切り投げた。
「……うっ……っつ!」
まさに一瞬。
一秒もしない時間でスマホから声が
「……相変わらず凄いね。腕一本で済んでよかったよ」
「私は殺す気だったんだがな」
普通の人であれば何でもないそれが有銘にかかれば殺傷することが出来る狂気となりうるということを改めて実感させられる。
「とりあえず今日の目的は達成したことだし、僕は帰るね。じゃあ、またね、姉ちゃん、不死身君」
そう言って通話が切れる。
そこに残ったのは重苦しい緊張と
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