第49話 ヤンヤン、休暇を過ごす!
支部に到着した。
「えっ、リー元帥が勝手に二階級特進!? いやいや、幾ら元帥でもルールを飛び越えていいわけないじゃないですか。ちゃんと審査しますので階級を一旦戻しておきますね」
「えーっ」
神経質そうなおばさんがそういうことを言ったので、グワンガン隊から不満の声が上がった。
だけど、おばさんは一歩も退かない。
「こういうのがまかり通ると、縁故主義や、ごますりが上手い人だけが上に行く世界になるんです。私はそういうものは許しませんので!!」
強い。
この強いおばさん、事務方の頂点であるアヤコ少将。
あらゆる事務と経理、調達とかを支配する彼女に、リー元帥ですら頭が上がらないらしい。
環太平洋連合影の支配者なのだ……!!
まあ、物凄く真面目な人で絶対に不正を許さない代わりに、信賞必罰主義らしいので。
「規定に則り、グワンガン隊には一ヶ月間の休暇と特別俸給を出しましょう。昇進に関しては審査の後になります。追って通達を待つようにして下さい。以上です」
去っていくアヤコ少将。
「こえー」
艦長が呟き、その場に揃った全員が頷いたのだった。
今回は折角お休みをもらったということで、最初の一週間はみんなダラダラと過ごすことにした。
お金はある!
暇もある!
だが!
遊ぶところはそんなにない……。
いや、お金なんか食べるのと着るものに使うくらいじゃない?
幼い頃からたまにラジオが聞ける程度の環境で育ってきたから、衣食以外の欲がないのだ。
物欲がない……。
「えっ、ヤンヤンこのアクセも時計も欲しくないの?」
「ピンとこない……」
「香水とか洗髪料とか」
「うーん」
「爪磨きとか化粧品とか」
「うーん」
私を連れ出してくれている、オペレーター三人娘の人たちが「これはいかん」と作戦会議を始めた。
「ちょっとズレてると思ってたけど、これほどズレているとは……」
「女子の楽しみや喜びを知らない子だわ」
「婚活しか知らないはずだ……」
なんだなんだ!
「ヤンヤンにね、女の喜びを教えてやろうと思ってですね。あ、健全な意味で」
ウェーブさんの言葉に、メガネさんもおチビさんもうんうん、と頷くのだった。
こうして連れて行かれたお店。
なんかオイル塗られてもりもりマッサージをされて、部屋にはいい匂いのお香が……。
私はぐうぐう寝てしまった。
「どうだったヤンヤン?」
「身も心もリフレッシュしたんじゃない?」
「いやー。私、別に肩こりとかしないので普通に寝ただけです」
「わ、若さ……!!」
三人娘がガックリした。
なんだなんだ。
次は美容院というのに連れて行ってもらい、髪の毛をオシャレにセットしてもらった。
おお、これは可愛い!
「でも、シャワーを浴びたらすぐ崩れない?」
「くっ、ことごとく都会的ではない価値観を叩きつけてくる……」
「ヤンヤン、なかなかの強敵ね……」
私としては、グエン共和国にこれだけたくさんのお店があることにびっくりしていた。
食品や洋服を売ってるわけじゃないのに、商売がやっていけるというのが凄いなあ……。
生活の根っこに関わらない商売、まさに余裕があるんだなーって感じだ。
なんだかんだで、環太平洋連合は景気がいいのでは?
「都会に若者が集まるからねー」
「田舎から若者を吸い上げているとも言う!」
「私の実家も田舎だし」
三人娘がわははと笑った。
みんな、旦那さんを見つけない限り一旦でも帰るつもりはないらしい。
そうなるよねー。
「ということで、都会での遊び方は私たちがこの一週間でみっちりヤンヤンに叩き込むから!」
鼻息も荒く宣言する三人なのだった。
「私としては結婚後の家事全般を教わりたい……!」
あっ、三人ともそっぽを向いた!
なんたることだろうか!
この人たちに付き合っていると、もしやお金の使い方ばかりが上手くなるのではないか。
私はハッとした。
「……私はこの後、シェフに料理を習う用事があるので……」
「くっ、ヤンヤン、私たちに先んじようというのね!」
「恐ろしい子……!」
「ええい、私らも町でいい男を見つけるぞー!」
「「「おー!」」」
行ってしまった。
オペレーター三人娘の明日はどっちだ。
グエン共和国支部は、陸上戦艦二隻と、MC50機近くを失ったことで混乱のさなかにある。
パイロットの育成は急務だし、失ったMCの代替機を作る必要が……。
というところで、華国本部近くに大量のMCが転がっていることが明らかになった。
私が落としたコサック軍のやつだね!
なので、陸上輸送艦が艦隊を作って回収に向かったらしい。
大忙しだなあ。
でも、コサック軍をやっつけた今、直接こっちに戦争をしかけてくる相手は当分出てこない。
飛行巡洋艦を持っているガリアも、三隻落とされてからこっちに手出しをしてこないのだ。
噂だと、飛行巡洋艦って陸上戦艦三隻ぶんくらいの値段がするらしいし……。
「ヤンヤン、ついに俺に料理を習う気になったか!」
「はい、シェフ! ……ところで私の他にいるこのエプロン姿のお姉さんは……?」
「俺の嫁だ」
「あっ!! 奥さん呼び寄せたんですねシェフ!」
「シェフじゃねえが、今は非番だ。気にしない。よし、じゃあ俺と嫁がお前に料理を叩き込んでやる! 料理は火と油が命! この使い方はだな……」
こうして厳しい料理修行が始まったのだった!
うんうん、個人的にはこっちのほうが有意義な時間の使い方だよ……!
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