第43話 ヤンヤン、総司令官の護衛に(勝手に)任命される!

 いよいよ華国基地だぞーと思ったら、向こうからわらわらとMWの大群が出てきた。

 あれ?

 華国の旗を建ててる。


『我輩だ! 環太平洋連合本部のリー元帥だ!!』


「元帥ー!!」


 ついに一番えらい人が来た!

 コサック軍総攻撃来たる!! という情報を受けて、一目散に逃げ出した華国の人たち。

 艦隊が来るのをずっと待ってたらしい。


 緑色の服を着た、ブクっと太ったおじさんだった。

 この人、わざわざ艦隊を止めさせて、偉そうに歩いてくる。


「エースがいるというではないか! 誰がエースなのだ?」


 艦長たちや艦隊指令が嫌そうな顔をした。

 嫌われてるのかな?

 あ、いや、これは偉い人に何か進言して責任を取りたくない顔だ!


「いや、エースなんてそんなものは我が艦隊には……」


 艦隊指令がようやくそれだけ言った。

 ここで、なんかパイロットの中からシュババッと出てきた人がいる。


「元帥! あの女がエースです! あいつですあいつ!」


 艦長たちや艦隊指令が物凄い顔をしてこのパイロットを睨んだ。


「ほう……」


 リー元帥とか言う人が、ニチャア……と笑った。

 その直後、なんか私を見てブルッと震えた。


「な、なんだか一族を皆殺しにしてきた天敵を前にしたみたいな感覚がしたが気のせいか……」


「えへへ、そんなことしてませんよう」


 私がヘラヘラ笑ったら、また元帥がゾッとした顔をした。

 その後、私から顔をそむけながら、


「わ、わ、我輩の護衛に任ずる! コサックどもから我輩を守れ!」


 そういうことになってしまった。

 元帥がいなくなった後、艦長と整備部の面々が駆け寄ってきた。


「あの元帥よく感じ取りましたね」


 整備長の言葉に、艦長がうなずく。


「野生の勘みたいなものでギリギリで命をつなぐのがとにかく上手い男なのだ。どんな負け戦でも絶対に生還するし、本部を強襲されても必ず脱出する……。あいつの地位を嵩に着た一族はなんだかんだで全員死んだが、あの男だけは何があっても死なない……!」


「すげえ」


「絶対殺すウーマンのヤンヤンの対極みたいな男だな」


 わいわいと盛り上がる。


「えー、それで私はどうすればいいんです? あのおじさんの後をついていく?」


「いや、あの男、嗅覚だけは本物だから……」


 艦長が意味深な事を言った。

 そうしたらその直後のこと……。

 うちの船に元帥が乗ってきたんだけど?


「うおおっ!? 古い! 狭い! 我輩がこ、こんな老朽艦に……!」


 乗り込んできて早々にぶつぶつ言っている。

 この人、とにかく生き残るセンスが抜群らしいんだけど……。


「ええい! 秘書だと!? 側近だと!? こんな狭い艦で我輩につきまとうつもりか! 他の艦に行け!! は? 配膳くらいこの艦の連中でもできるわ!! 去れ去れ!!」


 あー、部下の人を追っ払ってしまった。

 せっかく元帥が乗ってきたので、私はシェフにお茶を淹れてもらった。


「元帥、お茶でーす」


「おお、エース手ずからお茶とはな! がはははは、もてなしというやつだな……」


 元帥がお茶を受け取って飲もうとしたところで、グワンガンがゴゴゴッと動いて発進した。

 お茶ごとずっこける元帥。


「ぐわーっ!!」


 ほどほどぬるかったので火傷してないけど、元帥はお茶を頭から被った上に、食堂から格納庫までゴロゴロ転がって行ってしまった。

 あっ、整備士の人たちがワーッと集まってきて棒で止めた!

 ……モップだあれ。


「うぐわーっ! わ、我輩は元帥だというのにモップでー!! うっ、だ、だが許す!! カッとなって罰したら後々戦況に致命的なことになりそうな気がする!!」


 元帥、8秒くらい待ってから立ち上がった。


「アンガーマネージメント、アンガーマネージメント……!!」


 なんか呟いてる。

 そしてこっちまでやって来た。


「元帥、タオルです!」


「おお、済まんな……!!」


 タオルで顔をごしごし拭く元帥。


「なんで元帥、こんなおんぼろ船に乗ってきたんですか」


「長年元帥をやっていた勘だな。我輩、戦争でまともに勝ったことはないが必ず生き残って元帥まで上り詰めた。我輩の命を繋いできたこの勘は信じることにしているのだ……」


 元帥、大昔にコサック軍に本部を強襲された時から今の今まで、ガリア軍に負けて敗走したり南部大陸同盟に滞在先を強襲されて逃走したり、様々な状況で生き残ってきたらしい。


「それから貴様伍長だろう。元帥にその口の利き方なんなの」


「はっ、済みません済みません」


「まあいい。エースなんだろう。許す。我輩とこの船をしっかり守るのだぞ……。……って待て! エースがどうして伍長なのだ!? 曹長からスタートだとしても噂に聞く戦果では尉官になっていて当然だろうが!」


「昇進する機会をしょっちゅう逃しまして……」


「そんなことある?」


 元帥が唖然とした。

 それから、うーん、昇進させるかあとか呟いている。

 少ししたら、ツィン少佐も乗り込んできた。


「元帥! 御身の近くにワダルクミンの息が掛かったスパイがいたはずですが……」


「おう、ツィンか。彼奴らならば手柄をちらつかせて、バトーキン自治区に向かわせたら戦死したわ」


「そ、それはまた……」


 なんか裏のある話をしている……!


「御身の護衛に私がグワンガンに同乗いたします。最少人数でしたら問題ないでしょう?」


「うむ。貴様なら構わん。……それから、なぜエースが伍長に? ……おい貴様、名前はなんだ?」


「あ、はい。ヤンヤン伍長です! 昇進ですか! 昇進ですか!?」


「うわあ、グイグイ来るな。そうだな、いつまでもエースが伍長では様になるまい。ここは特進させて少尉にしよう。おい、少尉の階級章を……なに、無い? じゃあいつまでも作業着を着せているんじゃない。制服をだな……なに、無い!?」


 ということで。

 私は伍長の階級章をつけた少尉になったのだった。

 制服はまだ作業服のままなのだった。


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