第42話 ヤンヤン、激辛料理を食べる!
風光明媚な辺りに差し掛かった。
ずっと強行軍だったので、ここで連合のお偉いさんたちが音を上げたみたい。
艦隊はここで休憩していくことになった。
尖った山とか、その間を流れる川とかがある。
山は棒みたいにまっすぐ伸びてるのに、てっぺん辺りがちょこちょこ緑色。
不思議なところだなあ。
グエン共和国と華国の間は不思議な光景をよく見る。
「俺、あの町から出たことが無かったんで、行く先行く先驚きばかりなんだよ」
「うんうん、私もそうだったー」
スバス二等兵とお喋りなどするのだ。
彼は整備長から、スアの整備をみっちり教え込まれている。
あの人、経験と勘でやってるから勉強するの大変でしょ……!
「うちの裏にあった山の方がでかいのに、こっちの山は変な形でなんであるんだろうって思うんだよね。すげえなあ……」
「凄いねえー。時にスバスさん、お仕事はどうですか……」
「いやあ、厳しい……! 町で一番の整備の腕だと自負してたけど、こっちでは俺もまだまだだって気付かされる。整備長はなんか何言ってるか分からない事が多いけど、ダット技術中佐はとんでもない腕だって分かるよ」
「うんうん、そこが将校になれる人とギリギリいけない人の差なんだろうねえ」
「おらあ! 誰が万年少尉だ! 叩き上げで尉官になるってのはすげえんだぞ! そらそら! スバス、休み時間は終わりだ! スアは連合の命綱なんだからな! 整備のやり方ってものを叩き込んでやるぞ!」
「ひいーっ、お手柔らかにお願いします!」
「が、がんばれーっ」
整備長、経験と勘で整備するけど、それでスアは上手く行ってるからまあまあいいのでは。
こう、私に近づいたイケメンは死にそうになる運命にある気がするので、スアをみっちり整備してもらってみんなを守らねばなのだ。
バトーキン自治区ではそれでイケたしね……!
そんなことを考えていたら、死ななそうなイケメン大佐がお誘いに来た。
「やあヤンヤン! どうだい? 町で麺でも食べようという話になっているのだけど」
「えっ、ハオシュエン大佐の奢りだったりしますか……?」
「無論だとも」
「行きまあす」
裕福なイケメンもいいものだ……。
私は過去に感じたイケメン警戒の意識をスパッと忘れて、彼についていった。
他に、七人のイケメンパイロットも一緒だ。
「我々もごちそうになります!!」
「なんだと!? 男は奢らないぞ……!!」
「大佐! 太っ腹なところを見せて下さいよ!」
「我々のやる気は大佐の男気次第なんですよ!」
「くっ……仕方あるまい。全員、俺の奢りだ!」
「やったー!!」
ということで、イケメン七人と私は奢りになった。
なお、ウーコンとサーコンもご相伴に与ろうとしたのだが、これは大佐に真顔で断られた。
やって来たのは、町で一番大きいっぽいお店。
大変繁盛している。
「あっ、ロアン中尉! ポンチャック曹長! その他の人!」
みんないた。
「おやエース様じゃないかい。実はね、コサック軍が来るってんで、みんな逃げ出しちまってるらしいのさ。お蔭で大きな店しか開いてないってことなんだよ。で、ここの麺がもう……」
「ひぃーっ」
なんか悲鳴を上げているポンチャック曹長。
浅黒い顔が真っ赤になっている。
「もしかして辛い?」
「辛い! 辛い辛い!!」
凄く辛いらしい。
だが、私はフッと笑った。
「私の生まれたホホエミ王国はとっても料理が辛いんですよ! だから平気です!」
そしてやって来た真っ赤な麺!
ひき肉とネギが入っていて、やっぱり赤いスープからは豊かなゴマの香りが……。
「美味しそー!」
大佐に七人のイケメンたちも、同じ麺料理を頼んだ。
同じ料理を食べて団結を深めるんだとか?
ガンガルム組と私は船が違うんだけどなあ。
でも、戦場だと一緒になるかもだし、まあいいか。
私たちは食べ始めた。
「ひぃーっ」
みんなで辛くて悲鳴を上げた。
辛いだけじゃなくて、美味しくはあるんだけど、唇と舌がビリビリするんだよねこれ!
私のは少なめだったんでなんとか平らげて、水をごくごく飲んだ。
うほー、水おいしー。
そして苦戦するイケメンたちを眺める私なのだ。
ははは、綺麗な顔の男たちが赤くなりながら麺を食べている光景はゾクゾクするなあ。
すると、私の肩をポンポンと叩く人がいる。
見上げたら美形!
だけどめちゃくちゃ見覚えがある。
「やあ子猫ちゃん。ここの麺は辛いのに、よく平らげたね。唇が真っ赤になって、いつもより色っぽいかな?」
「ひぇっ、ツィン少佐!」
「なんで悲鳴あげたの……?」
あっ、ショックを受けている。
それはもう、あなたに関わるとろくなことがないからです!
「じゃあ甘い冷茶を奢るよ」
「あっ、ついていきます……」
私はモノに弱いのだ!
「ず、ずるいぞ少佐! 彼女は俺のゲストだ!」
「ははは、麺を食べ切れていない大佐殿は、目の前の料理を平らげてから追いかけて来て下さい」
ツィン少佐は笑いながら、私を連れ出すのだった。
辛みでビリビリ言っている唇と舌が、冷たく甘いお茶で癒やされる……。
美味しい~。
「ヤンヤン伍長。恐らくここが最後の休息だ」
突然シリアスな事を言うツィン少佐。
振り返った彼……じゃない彼女は凄く真面目な顔をしていて、まっすぐに私を見つめてくる。
くっそー、男だったら間違いなく私のモテ期だったのに。
いや、もしかしてモテているのか……!?
さっきの大佐と七人のパイロット全員イケメンじゃなかった!?
私は……恵まれた環境に慣れ始めているのか……!?
うおおお、正気に戻れヤンヤン!
お前は自分の中の基準を爆上げして、どんな男を見てもときめかなくなるつもりか!
自分の頬をペチペチ叩き始めた私を見て、少佐がちょっとポカンとした。
「ま、まあ自分に気合を入れるのはいいことだと思うよ。君も今までのような心構えでは、本気のコサックをどうこうするのは難しいだろう。恐らく……」
なんかまたもちゃもちゃ言い始めた。
この人、声が低めでかっこよくて、女だと思ってないとキュンと来るので大変危険なんだよね。
やられんぞー。私は男が好きなので、女性には落とされんぞー。
つまり要約すると、この後のコサック軍との大戦争でみんな死ぬ可能性があるので、ここで精一杯楽しもうとしているんだそうだ。
な、なるほどー。
もしかしてイケメンから夜のお誘いが来たりするかも?
平時の私であれば大喜びであろう!
だけど!
死ぬ可能性がある男はいかん……。
お誘いがあっても戦いが終わった後まで全部保留にしておこう……。
そして勝った後に選べばよかろうなのだ!
ふふふ、自分の賢さが怖くなってしまうな。
むふふ、と笑う私を見て、少佐がまた首を傾げているのだった。
なお、夜のお誘いとかは全然なかった。
全然!!
くっそー!
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