第28話 ヤンヤン、入れ知恵をされて反逆する!

「艦長、ヤンヤンが勝手に出撃しようとしています! また華国軍に攻撃を仕掛けたとなると、連合内での国際問題に……!!」


「ふむ!」


 陸上戦艦グワンガン艦長、ポプクン少佐は柔軟な男だった。

 それでいて、悪知恵にも長けている。

 そして仲間たちを守る義侠心を持っていたが、それは同じ艦の人間にしか適用されなかった。


「ヤンヤン、よく聞け」


『艦長ですか!? 止めたってダメですよ! 私はあの精悍なイケメンのアヤンガを助けに行くんで!』


「止めはしない。ヤンヤン伍長が気分で解放した華国だ。気分で華国軍を壊滅させてる権利がある」


 ええ、本当にぃ? という目で艦長を見るオペレーターのウェーブ。

 艦長ポプクン、至って真面目だった。


「だがいいかヤンヤン! これだけは聞け!」


『な、なんですか!』


「まず華国の通信装置をぶっ壊せ。連絡できなくなったらどう蹂躙しても構わん! 通信装置は中継機を積んだMWがいるはずだ。そいつを破壊し、次に奴らの頭である主席の親戚を叩け。残りは烏合の衆だ。いや、司令官がいても奴らは烏合の衆だが!!」


「か、艦長~!!」


 グワンガンの通信装置はあいにく、完膚なきまでに破壊されており、修理の目処もたっていない。

 なのでこれはグワンガンとスア・グラダート間のみでだけ行われるものとなる。

 録音機能などというものは、旧式であるグワンガンにもジャンク品であるスアにも無いのだ……!!


『了解!! アドバイス感謝です艦長! 一人も逃しません!』


「いいぞいいぞ。俺たちを手駒のようにこき使い、自分たちはクソの役にも立たず、コサック軍を前に真っ先に逃げ出した恨みを俺は忘れていないからな! 行けヤンヤン! 存分にやれ! ああ、それから華国の機体は独自の規格を使っているから、奴らの装備は使い物にならん。燃料を節約して行け」


『はい! 行ってきます!』


 元気が返事が聞こえて、グワンガンの横をスアが追い越していった。

 省エネのため、陸上走行である。


「あー、知らない。私知らない」


 ウェーブ女史は何も聞かなかったことにした。


 ※


 私は大変いいことを聞いたので、それを実行すべくバリバリとスアを走らせていた。

 自治区までは遠くないもんね。

 すぐに到着する。


 そして艦長に教えてもらった中継機搭載のMWを発見したので、即座にフルオート射撃で破壊した。

 おお、爆発した爆発した。


『敵襲!?』


 振り返る前に華国のMCはバンバン撃ってバックパックを爆発させておく。

 使えないか、使うのに余計な改修が必要な機体なら壊しちゃった方が早いですからね!


 六機くらいが待機してたのを一呼吸ほどで全部壊したので、そのまま爆発を避けて突き進む。

 ちょっと前に、呆然とした顔をした男がいる。

 大型の客車型MWがいて、そこから身を乗り出して双眼鏡を覗いていたみたい。


 だけどいきなり背後が爆発したので、慌てて振り返ったのだ。


 中には偉そうな人が乗っていて、慌てている。

 あれかな?

 あれでいいか。


 フルオートでバリバリ撃った。

 うんうん、機体ごと原型を留めていない。

 

 そろそろライフルの弾が心もとなくなってきたので、後ろに繋いできた荷車から新しいカートリッジを取り出した。

 ガチャッと接続。


「いやあ、まさか飛ばずになんとかなると思わなかったよね。今まで戦った相手の中で一番練度が低いんだけど」


 コロコロと町中を走りつつ、華国軍機を見つけたらパカパカ撃つ。

 気付いたんだけど、彼らのバックパックは性能そのものは悪くないみたいだ。

 コサックのとノックのをコピーして合わせたみたいな作りをしていて、使いこなせるなら高性能。


 誰も使いこなせていないので、みんな地上をもたもた走りながらあちこちを撃ってるのだと思う。

 飛ぶ自信が無いのでは……?


 私の射撃はほとんど、彼らのバックパックに突き刺さる。

 タイヤ付きのMCが振り返るのはかなり大変だから、そうしようとするととても無防備になるのだ。

 だから戦場では振り返らず、そのまま前傾姿勢になって速攻でバックパックに火を吹かせて飛ぶのが鉄則になる。


 飛ばないんだよなあこの人たち!

 かと言って、見落としたらこういう弱い軍隊ほど悪さをしそうな予感がする……。

 しらみつぶしにしないとね。


 私は都市の隅から隅までを走り回り、持ってきたカートリッジが無くなるまで掃討して回った。

 一時間半くらいで、華国のMCは全滅したと思う。

 最後までワンパターンで攻略できた。


 トータルしてめちゃくちゃ練度が低かった。

 支部に逃げ込んだあの人たち、まともに訓練してなかったのでは?

 そう言えば、訓練所で華国の人を見たこと無かったなあ……。


 なんか支部でも特別扱いの人たちだったらしいんだけど……。


「ありがとうー、虎の機人!」


 あちこちの窓から顔を出した、自治区の人たち。

 みんなが手を振ってくれる。

 私もスアの手を振り返した。


 いやあ、人の役に立つのは悪くないですね……。


「さあ、晴れてアヤンガに会いに行かないと! 待っててね、私の旦那様ー!」


 がーっとスアで走っていったら、見えてきました、庁舎が。

 私を迎撃するために、庁舎を襲っていたMCも全部出尽くしていたみたい。


 そこには華国軍の影も形もない。


「君がやってくれたのか! 誰なのかは知らないが……!」


 アヤンガがいる。

 うおおー、粉砕したぞ、私に関わったイケメンがすぐ死ぬみたいな現象を!


「私私! 私ですよー!」


「ヤンヤンなのか!? 君がこの機体で華国の奴らを!? ありがとう……!!」


 こ、これは……!!

 スーパープロポーズタイムでは!!


「ここはやはり結婚……」


「待ってくれヤンヤン……!! まだ華国を退けたばかり。俺はまだ、人並みの幸福を手に入れるには早いんだ……!! これからこの国は新たな歩みを……」


 というところで、自治区の外側をガガガがガーッとグワンガンが走っていく。

 聞こえるのは艦長とウェーブさんの叫び声だ。


『ヤンヤン! ヤンヤン! 戻れーっ! まずい! 支部の飛行駆逐艦が様子を見に来る! 今華国に潜んだ大尉の部下からの狼煙(のろし)があってな! 戻れ!!』


「ひえーっ! 艦長このタイミングでですかー!?」


『戻ってヤンヤン! スアがいたら巻き込んじゃうから!』


「なんたることーっ!! うぎぎぎぎぎ、キープ! キープします!! また来る!!」


 私は心で血の涙を流しながら撤退したのだった。

 うおおおーっ、私の婚活の前には障害があまりにも多すぎる……!!




 

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