第29話 ヤンヤン、恨み言を言う!

「あと少しで落とせたのにー!!」


「お前さんよりもパイロットとして弱くていいのか? というか相手はMCじゃなくて馬に乗ってたんだろ?」


「いいんですよー。向こうは政治家なので……!」


「ははあ、そういう強さでいいのか」


 整備長が顎を撫でている。

 うん、私の中で大きく妥協できるラインを広げた。


「しかしまあ、スア・グラダート改の初陣はまずまずだったな。相手はまともに飛びもできない半端者の集まりだったのが玉に瑕だけどなあ……。全然データになりゃしねえ」


「弱かったねー」


「ヤンヤンの前ならそうだろうよ。で、どうだった?」


「スアはすっごく強くなってますねー。反応速度だと0.5秒くらい速くて、タイミング合わせたら一息でトップスピードになる感じ」


 これならこの間の、南方大陸同盟の黒いMCにも楽勝であろう。

 新しいデータが欲しいねーという話をしてたら、頭上を飛行駆逐艦が通過していったみたい。


 なんかこっちに向けてピカピカと船尾の明かりを点滅させてくるけど……。


「ありゃ、船の通信装置が死んでるからモールス信号を送ってるんだな。原始的な手段だな。えーと、なんだ? 止まってろ? 事情を聞きたい?」


 もうそろそろ、バトーキン自治区からそれなりに離れたところのはず。

 まさか私たちが謎の華国軍壊滅に関連してるとは夢にも思うまい……。


「そりゃそうだろ。普通、環太平洋連合のトップエースがほんの数時間で華国のMCを壊滅させてるとは思わねえよ。艦長が入れ知恵したおかげで、戦闘の状況は全く分からないだろうしな……」


 飛行駆逐艦は、ゆっくりとグワンガンの横に着陸してきた。

 降りるだけで結構かかるのね。


 ウーコンとサーコンが駆逐艦を迎えるために、ヴァルクを出してきた。

 こう言う時に仕事をする人たちなのだ……。


「ちなみに駆逐艦にはMCを積むスペースが一機分しかないっすよ」


「それに連合の技術力だと、純血連邦の飛行巡洋艦をパクっても駆逐艦までしか作れないすよねー。カッコつけて駆逐艦って名乗ってるすけど速度も小回りも全部巡洋艦に負けてるから飛行客船みたいなものす」


「ひえええ」


 圧倒的じゃないですか。

 そりゃあ、連合は純血連邦に負けまくるよ!


 ちなみに南部大陸同盟は大半の国がまともにMCすら作れない技術力らしいけど、聖地や東方の首長国たちが純血連邦とやりあえるくらいの技術力を独占してるんだって。


 この間の黒いMCはそこ製だろうね。


 あっ、駆逐艦(自称)から金ピカのノックが降りてきた。

 そして空を飛ぶ……わけではなくて、後ろについた車輪でゴロゴロ走ってくるなあ。


 コクピットのところが観覧席みたいになっている。

 偉い人が乗ってる?

 唯一積まれてるMCが戦闘できないようになってるのダメダメじゃない?


「うちの連合はほら、権威主義っすからねえ」


「戦えるよりも、身内から見て偉そうなのが大事すなー」


 ちなみに飛行駆逐艦(自称)の艦長は、中佐らしい。

 なるほどー。

 うちの艦長(少佐)よりも偉いのね。


 だからふんぞり返ってる。

 滑走路に機体がえっちらおっちら登ってきたので、そこで艦長同士のやり取りになっている。


「ちょっと僕らも向こうで艦長に箔をつける感じで横に立ってくるっす」


「ほんじゃ。ヤンヤンは隠れてるすよー」


「ほいほい」


 あの二人、危険がない任務には率先して飛び込んでいくなあ。

 私はと言うと……。


 そーっと滑走路を覗きに出掛けていく。

 あっ、オペレーターの三人もいる!

 メガネさん、ウェーブさん、おチビさんが全員勢ぞろいだ。


「あらヤンヤン、やっぱり興味があるの?」


「そりゃあもう、偉い人がどんな話をしてむちゃくちゃな仕事を押し付けてくるのかとか……。いざとなればスアでバーン!」


 オペレーター三人娘さんたちがけらけら笑った。


「うるさいよ!」


 いけない、飛行客船の中佐に気付かれた!


「ポプクン少佐! 貴様の船の教育はどうなっているのだ!!」


「いやあ、申し訳ありません。何せ、本艦は捨て石にされたり囮にされたり、遊撃任務と言われて放置されたりしているもので、支部のしきたりにはとんと疎く」


「ぬぐぐぐぐぐ! ポプクン少佐! 貴様、その態度はなんだ!! 俺は中佐だぞ! お前より偉いんだぞ!」


 大変なマウントを取ってくる中佐の様子があまりにもダサいので、ドッと受ける私とオペレーターさんたち。


「うるさいよ! 見世物じゃないよ! 散れ散れ!!」


 私たちみんなで、スッと影に引っ込み、すぐにまた顔だけを覗かせた。


「なんかやな感じね」


「仕事できないという概念が服を着て歩いてる感じ」


「あれは男としてもないわー」


「婚活の対象にもならないなー」


 中佐は気を取り直したようだけど、完全にうちの艦長は話のペースを掴んでいた。


「まあ、私が支部に戻れば昇進しますがね」


「な、なにっ」


「華国のコサック要塞を撃破したのは誰かお忘れですかな? これが記録です……」


「ぬ、ぬうーっ!!」


 艦長から何か受け取ったらしき中佐、歯ぎしりをする。


「この受け渡しの記録はそちらの駆逐艦で撮影されていることと思いますが、できる限りミスなどしてこの記録を紛失されぬよう……」


「わ、わ、分かっている! くそっ! 不快な男だ! 俺はもう去るぞ! 覚えていろポプクン!!」


 なんか凄くダサい捨て台詞を言って、中佐は去っていった。

 何をしに来たんだろう……。


「多分あれ、面倒な任務をまた押し付けに来たんだと思うけど、頭に血が上がって忘れちゃったのね」


 ウェーブ姐さんの的確な人物観察!!

 なるほど、そこまでが艦長の計算だった……。


 それに、華国軍壊滅に関しても何も聞かれずに済んだ。

 一旦飛び上がると、飛行駆逐艦は物凄いエネルギーを使うんだそうで。

 また降りてくることはまずないだろうという話だった。


 金ピカのノックは、コロコロと船まで戻っていく。

 あっ、途中で中佐が落っこちた。

 ウグワーッとか叫んでいる。


 MCのコクピットからはみ出した観覧席は、さぞや不安定だろうからなあ……。

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