第16話 ヤンヤン、訓練に参加する!

 スアが徹底的にメンテナンスされるらしいので、その間私は暇になってしまった。


「上に挨拶に行くか? ヤンヤンの話を聞きたい人間は上層部に幾らでもいるぞ。そして政治利用される」


「い、い、いやですぅー!」


 副長が洒落にならないお誘いをしてきたので、お断りしておいた。

 冗談じゃない!

 そんなやり方で有名になったら、結婚が絶対遠ざかるじゃないかー!


 私は平々凡々と、ちょっとイケてるくらいの旦那と結婚して普通の幸せな家庭を築いて、子どもを五人くらい産むのが人生の目標なのだ……。

 いや、よく考えたらイケてなくても真面目で健康であればいい……!


 つまり!

 私がパイロットとして活躍できることは、私の人生の目標とあまり関係がない!


 ううう、いらぬ才能……!


「なら、暇つぶしに訓練参加してきたらどうだ? 我がグワンガン隊エースの威力を見せつけてやれ。ここで手抜きして大したことないと侮られる手もあるぞ」


「あ、なーるほど……」


 副長、なかなか悪どいことを考えている。

 支部の偉い人との会見は、今のところ艦長に全部任せてるらしく、「俺はこの後、艦長をねぎらうためにお姉さんがいるお店を探さないといけないんだ。じゃあな」と去っていった。

 あけすけに何でも話す人だ。

 私も一応、年頃の女性なのだが?


 整備場から外に出て、訓練所まで歩いていった。

 ここは郊外に向かって大きく伸びている。

 MCを使った訓練ができるようになってるんだね。


「あのう」


「おお、なんだ」


 兵士の人が入り口脇のベンチに座っていた。

 階級章から曹長だと分かる。


「実は私、MCのパイロットで、訓練場を見学したいなって」


「ほうほう……上等兵か。ってことは見習いだな? いいだろう。俺は女性全般に優しいんだ……案内してあげよう」


 兵士の人が立ち上がった。

 私をちゃんと女性扱いする人、久しぶりに見た!

 感激しちゃうなあ。


 訓練場では、環太平洋連合の制式機であるノックがわあわあと動き回っていた。

 お遊戯かな……?


「どうだ、先輩方の動きは! まるで人間みたいに機体を動かしてるだろう! あれが支部が誇るエリートたちだぞ」


「ええ……」


 あんなん、うちのウーコンとサーコンレベルじゃん……。

 えっ、まさかウーコンとサーコンってエリートだったりするの?

 二人とも曹長だから、そう言われてみるとそうかあ。


 私が絶句しているので、曹長はすっかり感心されているものだと思い込んだらしい。

 得意げに色々喋ってくる。

 技術力では純血連邦に一歩足りないが、そこを技量と熱意で補っているとかなんとか。


 技量……?


 向こうで訓練に区切りがついたパイロットたちが、昼間から酒を飲んでるんですけど!

 熱意……?


 まあ私もあんなもんかあ。


『おいポンチャック曹長! 何をガキを訓練所に連れ込んでるんだい!』


 なんかめちゃくちゃ大きな女の人の声がしたぞ。

 見上げると、ノックが降りてくるところだった。

 おー、あれは割りとマシな動きをしてた機体!


 ノックが降着姿勢で着陸した。

 つまり、四つん這いになった姿勢ね。


 コクピットからハシゴが伸びてきて、でっかい女の人が降りてきた。

 背丈もでかい。

 胸もでかい。


 お、おのれー。


「ロ、ロアン中尉! 彼女はMC見習いで、訓練所を見学したいということでしたので案内をしておりました!」


 直立不動になる曹長。

 ポンチャック曹長というのかー。


「ふうん」


 ロアン中尉はヘルメットを外す。

 すると髪の毛がわっさーと中から出てきた。

 そうかあ……乗るときってヘルメットするんだなあ。


 私、作業服にノーヘルで今まで乗ってたよ。

 グワンガンの設備って何気によろしくないのでは……?


「何を初めてヘルメット見るみたいな顔をしてるんだい」


 初めてなんですが。

 ウーコンもサーコンももっと雑な、ハーフヘルメットだったよね……?


「上等兵! あんた、名前は?」


「あ、は、はい! ヤンヤンです!」


「ふうん、華僑かい」


「父が華僑なんですが母ともども虎に襲われて死んでますねー」


「ハードな人生を送ってきたみたいだねえ……。じゃあさっきそこを通っていった虎縞の機体は」


「あっ、私のです」


「えっ、その境遇でなんで虎なの……?」


「虎、強いなーと思いまして」


 ロアン中尉が不思議なものを見るような目を向けてきた。

 なんだなんだ。


「じゃあ上等兵、訓練に参加して行くかい? あの不良どもは今日はもう使い物にならんだろうし」


 酒盛りしているパイロットたちを指し示す中尉。

 確かに。

 酔っ払ったパイロットが区画をまるごと弾丸で薙ぎ払ったとか言う話もあるもんね。


 飲んだら乗るな、乗るなら飲むな。

 これは環太平洋連合MC乗りの規則らしい。


 とりあえず、私を練習機に乗せてくれるらしいので、ここは上官の厚意に甘えることにした。

 いやあ、訓練つけてもらうなんて、マクフィー少尉以来だなあ。


 そこら辺で降着姿勢になっているノックに乗り込む。


「あんた! パイロットスーツは?」


「あっ、支給されてませーん」


「ええっ!? ヘルメットは!?」


「ノーヘルですねえ」


「死ぬよ!? おい酔っ払い! ヘルメット貸しておやり! こら、ヘルメットに酒瓶を入れてるんじゃないよ!」


 ロアン中尉が酔っ払いの尻を蹴り上げて、そのパイロットがウグワーとうめきながら転がって虹色のものを吐いた。


「はい、ヘルメット! 今そこの水道で洗って、タオルで拭いておいたから! でかいと思うけど、紐で固定しな! スーツがないのはまあ仕方ない」


「ほーい」


 こうして私、初ヘルメットで訓練機に乗り込むことになったのだった。

 いざいざ、支部のMC訓練!

 上手に弱そうなキャラを演じるぞぉ……。



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