第17話 ヤンヤン、素知らぬ顔で力を見せつける!
実はノック、初めて乗るのだ。
私、ずーっとスアしか乗ってなかったからなあ。
うほー、なんか知らないボタンがちょいちょいある!
それにかなりアナログ入力なスアに比べて、システムが補助してくれる操作部分が多い。
これは……扱いにくいなあ!
よたよたと立ち上がる私のノック。
MCって自力だと二足歩行できないのだ。
なので、四つん這いになってからバックパックを吹かすことになる。
『おっ、見習い、上手いじゃないかい! 初心者はその降着状態からの立ち上がりもろくにできないからねえ……。とにかくこのでかいバックパックが邪魔で邪魔で……』
「ですねえー。重い重い……。あ、エンジン掛かるの早いですねー」
『えっ? あんたの乗ってるのって遅いのかい!? あれ、旧式だったんだねえ……』
「そうなんですよねー。だから全部アナログで動かせるので、割とこう、ピーキーなのばっかり使ってきた私としてはですね、ノックは便利過ぎるというかなんというか……!」
バリバリ、ブリブリと吹かしたバックパックの力で、ノックが飛び立ち始める。
うんうん、めっちゃ動作が軽いじゃん。
扱いづらっ!!
ぶんぶん飛び回ったらだんだん感覚が分かってきた。
「ほうほう、こんな感じなのね……。ああ、やれそうやれそう」
『見習い、あんたどんどん上手くなるね! ノックが初めてって本当かい!? 大したもんだ! おい、曹長! 相手しておやり!』
『へーい! へっへっへ、お嬢ちゃん、先輩が実戦の怖さってのを叩き込んでやるよ!』
げひひひひって感じの笑いを漏らしながらなんか先輩パイロットが訓練に付き合ってくれるみたい。
武器はペイント弾。
水性ペイントなのですぐ落ちるそうな。
「ほんじゃあ先輩、胸をお借りしまーす」
私はブイーンとノックを旋回させた。
『うおっ、急旋回!? えっ、お嬢ちゃん君本当に初心者!?』
先輩曹長の慌てる声がする。
そうですよー。
パイロット歴も浅いですよー。
だがちょっと見ただけで、曹長の動きは覚えた。
ペシッと射撃したら、ペイント弾が一発でコクピットに命中した。
『!?』
『!?』
ロアン中尉と曹長がなんか声にならない声を漏らした。
『く、空中で一撃で当てられた……!? い、いやまさか!』
「ははは、偶然ですよ偶然……ハッ」
私、ここで気付く!!
実力を見せつけてドヤァ……してしまったら、私が凄いパイロットということになり、なんか激戦区に配置された挙げ句さらに婚活から離れてしまうのではないか……。
いや、そうなる。絶対そうなる!!
私は!
今から!
手を抜く!!
「ああ~急にノックの制御が~」
私、迫真のフラフラ飛行。
『あんなにフラフラ飛んで今にも落ちそうなのに安全圏をバッチリ守って飛んでいるの初めて見るねえ……』
『いや中尉! 今がチャンスですよ! うおおー! 俺のペイント弾を喰らえお嬢ちゃーん!!』
「うーわー。やられたー」
『今ペイント弾のところまで移動してこなかったかい?』
「いえいえ、曹長が私の動きを読んでたんですよー! さすがだなーすごいなー」
『そ、そ、そうだぞ! ははは、先輩の実力を見たか!』
完璧。
これで私の実力は隠せたに違いない。
その後も私は、曹長や他のパイロットたちと訓練をして、当てたり当てられに行ったりを繰り返した。
ロアン中尉とも一進一退の勝負をしておいたので、きっと私は大したことない実力だと思われたに違いない。
これで安心……。
「微妙な腕のポンチャック曹長とやっても、支部最強のロアン中尉とやっても互角……!? どういうことなの……!?」
「完全に互角だったよな。一本取っては一本取られてて」
「見てて酔いが醒めちまった……。絶対普通じゃねえ」
「しかも勝つ時は、こっちの実力が異常に上がったような感覚になるんだよな」
「接待力が高い……」
「あの見習い、ヤバくね……?」
おやあ……?
これはマズい空気では……?
「で、では私はここで……」
私はそーっとその場を離れることにした。
ええい、こんな訓練所にいられるか!
私が強いっぽいとか勘違いされて、祭り上げられてしまう!
「期待の新人が逃げるぞ!」
「捕まえろ捕まえろ!」
「待てー!」
「ひいー! こ、こんなモテ方は嫌だあー!」
私は全力ダッシュで逃走した。
誤魔化せた!
私の実力は完全に誤魔化せたに違いない!
私はそう信じてる……!
整備場まで走り続けていたら、他のパイロットの人たちが次々に脱落して行った。
はっはっは、運動不足どもめえ!
私はパイロットの他にシェフの手伝いとかしているので、体力だけはあるのだ!
手伝ってたら毎回味見させてもらえる役得もあるし、厨房からお料理を揺れに耐えながら運ぶだけでいい運動になるもんねえ。
こうして整備場に戻ってきたら、なんだか沢山の人がスアに群がっていた。
「うわーっ、なんですかなんですかー!!」
ダット技術中佐が気付いて、私を手招きした。
「おう、お嬢ちゃん。お前さんの機体がな、デタラメに部品を組み込んでる最悪なバランスの機体なのに、なんであんな戦闘記録豊富で被弾の記録が一切ないのか誰も分からなくてな」
「えっ!? ま、ま、まあ偶然かな。偶然ですよ中佐ー」
慌てて駆け寄り、スアを守るように立ちふさがる私なのだ。
私も!
スアも!
なーんにも特別なことはないのだ!
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