第18話 ヤンヤン、偉い人との会食に呼ばれる!

「ヤンヤン、残念なお知らせだが」


「ひい」


 副長がまた不吉な知らせを持ってきた。


「軍の高官との会食にだな……」


「ひいい行きません」


「高官の秘書が凄い美形で」


「行きますぅ」


 そういうことになってしまった。

 私のよそ行き洋服が威力を発揮するぞお。


 まあ、元村娘で現在上等兵な私と、偉い人の秘書までやっているイケメンだと全然高嶺の花的なアレだと思いますけど!

 けど!

 目の保養くらいしてもいいではないですか。


 こうして、高そうなお店に案内された。

 その土地の料理じゃなく、華国料理店なのね。

 私の見た目は割りと華僑寄りなのに、ホホエミ王国っぽい服を着てるので店員の人には不思議そうな顔をされた。


 私は艦長のお付きみたいな感じ。

 そしてそれに対するのは、偉い人。


 おお、なんか丸いおじさんだ。

 大変な時代なのに太っているということは、いつも美味しいもの食べてるんだろうなあ……。

 そして秘書だというイケメンは……。


 いた!

 ちょっとウェーブした髪で、泣きぼくろがある美形!

 すらりとした体型で背も高い。


 かっこいー!

 問題は……。

 この人が、アオザイを着てる美女だったことで……!


 うおおおおおのれええええ副長おおおお騙したなああああ。

 めちゃくちゃかっこよくても美女じゃダメじゃん!


 なんか私を見てウィンクしてくるし!

 ドキドキするけど、私は至ってノーマルなんでお応えできません!


「彼女がグワンガン隊のエースというわけか?」


「はい。彼女の活躍で我が隊は何度も危機を救われました」


「ほお。まだ尻の青い小娘のようだが」


 なんだってー!!

 丸いおっさん、失礼が過ぎる。

 蒙古斑は消えてますー!


「閣下、その発言はちょっと」


「いやあスマンスマン。がっはっは」


 秘書の人にたしなめられて、豪快に笑う丸いの。

 んもー。

 こんなのが上にいるんじゃこの支部はダメダメですわね!


 それにしても、支部の偉い人にガッツリ注意できる秘書とは……。

 艦長がちょっと私を見て、意味深に頷いてきた。

 いや、どういう関係性だか分からないってば。


 そういう意味では私はお子様であるかも知れない……。


 あっ、華国料理は美味しかったです。

 高級ですねー。

 美味しいということ以外、何が凄いのかさっぱり分からない。


 艦長はずっと、丸いのの話に相槌を打ってるばかり。

 丸いの、自慢話しかしないじゃない。

 なんだこれは。


 艦長というのも大変なんだなあ……。


「ほうほう、では、彼女は新型の操縦経験が無いと? 確かに優秀でも、旧式しか操縦できないのでは支部直属にするのは難しいな……」


 おや?

 思った以上に話が進んでいたみたいだ。

 

 どうやら私がエースですよー、という話をしつつ、実は彼女にはこういう弱点がありまして……みたいな話運びにしていたらしい。

 丸いのもこれには納得。

 というかこの丸いやつ、何も考えてないのでは?


 私の中で、完全に丸いのの評価が底辺まで落ちた。

 この支部も長くはありませんなー。


「閣下、ちょっと失礼します」


 秘書の人が立ち上がった。


「おお、トイレか」


「閣下」


「ウグワーッ」


 秘書の人に額をチョップされ、のけぞる丸いの。

 どういう関係なんだ……!!


「ヤンヤン上等兵、一緒に行こう」


「えっ!?」


 いきなり誘われて驚く私。

 艦長が私に、「この人の階級は大尉だぞ」と囁いた。

 うわーっ!!

 背筋が伸びる私!!


「はっ! ご一緒します!!」


 権威とか権力にはとことん弱いのだ!


 で、一緒にトイレかと思いきや。

 お店の大きなトイレの化粧台前で、彼女が色々聞いてくる。


「グワンガン艦長の話、嘘だろう? 君、何にでも乗れるんじゃないか?」


 ボーイッシュな喋り方!

 くうーっ、女を誤解させる罪な女だなこの人。


「い、いえー。私はもう、へっぽこで……」


 私が言い訳したら、なんか私を挟んで壁にドンと手をついてきた。

 うおーっ、綺麗なお顔が近い!

 近いィーっ。


「謙遜する子猫ちゃんだ。今日、訓練所にやって来た上等兵が凄まじい技量を発揮し、支部最強の教官であるロアン中尉と完全な互角の勝負をしてみせたと言う情報が入っていてね」


「あ、あはははは」


「その誤魔化し笑いを事実認定だと判断しておくよ」


 ひいー。

 き、切れ者だあ!!

 今まで周りにいなかったタイプ!!


「それから、技術部から上がってきた報告によると」


 まだあるの!


「グエン支部を悩ませていた、ガリア軍のプーチーファー要塞……。あれが自滅したという報告なんだけれど。うちの閣下がグワンガン隊を威力偵察に向かわせたはずなんだよね。あれは、いたずらに戦力を損耗するだけだと大批判を浴びたんだけど……」


「ひぃー」


 どこまで分かってるんだこの人ー。


「もしかしてあれは……いや、ここは聞かないでおこうかな。君はどうやら、己の実力を知られたくないらしい。それに……私も信じられないんだ」


 なんか私の目をじっと見つめてくるぞ。

 怖い怖い。


「たった一人のパイロットが、赴任から一ヶ月でおよそ三十機のMCを撃破し、ガリア要塞まで攻略したことになる。そんなこと、例え記録からはそう判断するしかなくても信じられるものじゃない」


「ふ、不思議デスネー」


「ああ、不思議だ。だが、私は環太平洋連合に救世主が現れたとも見ている。私はツィン。子猫ちゃん、君の船に、私からの直接連絡が可能なアドレスを伝えておくとしよう。期待しているよ」


「ひいー、あ、あまり期待しないで下さい」


 私の言葉が冗談だと思ったようで、彼女ははっはっは、と爽やかに笑うのだった。

 ひええ、婚活から遠ざかりそうだああ。


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