第19話 ヤンヤン、罠にかけられる!
支部では、隔日で訓練とお休みの日があった。
グワンガン隊は基本的に軽く見られてるらしくて、あんまり訓練に呼んでくれないっぽいんだよね。
「今の時代に格闘型の陸上戦艦を割り当てられているくらいだからな。いざというタイミングで使い捨てる気だろう」
艦長は非番なので、昼間から酒を飲みながらそんな事を言う。
「それよりヤンヤン、お前、ツィン大尉から連絡先をもらっただろ。何かあったら、俺と共有しておくように」
「へーい」
「なんだその返事は」
「こないだの会食であまり艦長は尊敬できない気がしてきたんですよね」
「一応俺は上官だからな。階級で言うと少佐だからな。ちなみに本式の陸上戦艦艦長になるには大佐以上でなければならない……」
「ははあ、旧式だから艦長でも艦長やらせてもらえている」
「そういうことだが皆まで言うな!」
すっかり艦長と変な感じに親しくなった私。
だけど、こういうダラダラした日々も悪くない……。いや、良くない。
艦から出られないし、出たとしても訓練じゃん!
なんとか目立たないように目立たないように活動してはいるけど、どうしても注目を集めてしまう……!
支部のパイロット相手、勝たないの無理だよ……!
「なんか任務ないですかねえ」
「縁起でもないことを言うな」
艦長が鼻を鳴らした。
この人は永遠に仕事が来ない状態で、給料だけをもらっていたい人間らしい。
だが、艦長の願いは破られてしまった。
『艦長! ワダルクミン少将から指令が届いています。艦橋までお越しください』
「ぐわああああ」
艦長が天井を仰いだ。
ワダルクミンってこの間の丸い偉そうな人?
艦長は残った酒を一気にあおると、
「今行く!!」
近くにあった通信機にそう怒鳴り、憤然として出ていった。
本当に仕事嫌いなんだなあ。
なんで少佐にまでなれたんだろう。
ちょうど仕事が一区切り付いたらしいシェフが、まかない飯を持ってきていたので聞いてみた。
「艦長はな、若い頃は真面目なエリートだったんだが、華国の大敗戦に参加しててな。ありゃ、噂だが内部から純血連邦を手引したやつがいて、艦長は捨て駒になったという話でな」
「ありゃ」
「それ以来やる気を失ってるんだ。まあ、実力があるってのはガリア要塞攻略の時を見てりゃ分かるだろ」
「グワンガンで相手の陸上戦艦、ドカーンと放り投げてましたね!」
「そうそう。その段取りはお前がやったんだけどな。ほんと、パイロットとしては天才なんだなヤンヤン」
「え、そうですかあ? 褒められるのは嬉しいんだけど、この才能で得したこと全然無いんですよねえ」
「才能があり過ぎるのも問題だあな。お前を利用しようとしてるやつもどんどん出てくるだろ。だがなあ……。俺はどうも、お前の才能は凡人のちっぽけな思惑ではどうにもできない次元の代物だって気がしてるんだよなあ」
何を仰る。
こうしてのんびりしていたら、艦長が上からの指令を受けたらしい。
不機嫌そうな声で、
『グワンガンはこれより、新たな任務につく。華国北方へ向かい、コサック共和国の偵察を行う!』
「げっ、マジかよ……」
シェフが顔をしかめる。
「知っているのですかシェフ」
「シェフじゃねえって! コサック共和国はな、ガリアと組んで華国の本部を攻め落とした連中だ。偵察だあ? こりゃあ、臭い、臭いぜ……」
あまりにひどいニュースのせいで味がわからなくなってしまったらしく、不味そうにまかないを食べている。
食事の時に聞く話じゃなかったなあ……!
乗組員の集合を待って、グワンガンは再び旅立つことになった。
なんかみんな、まるで死にに行くような顔をしている……。
格納庫も完全に、もう戦争に負けたみたいな重い空気。
「なんでこんな空気に?」
「コサック共和国なんて、純血連邦トップクラスのタカ派っすよ。捕虜を取らずに虐殺してくる恐ろしい相手っす!!」
ぶるぶると震え上がるウーコン。
「自分たちもこれでおしまいすねー……。短い人生だったす……」
サーコンがガックリ肩を落とした。
捕虜を取らない……?
私は首を傾げた。
「捕虜を取るルールとかあったの? 私全然知らなくてコクピット直撃ばっかやってたんだけど……」
これを聞いて、ウーコンとサーコンがハッとした。
「そう言えば……。ヤンヤンもまあまあコサックと同じ事をしてるっすな!」
「相手は操縦が下手なヤンヤンがたくさんいると思えば……絶望的す」
またガックリしてしまった。
元気出せー。
そんな感じだと、そこそこ長くなる旅が全然楽しくなくなるのでは……!!
私は心配した。
だが、結果的に心配は杞憂に終わったのだった。
なぜなら、グエン共和国を出てすぐ、華国との国境付近で……。
グワンガンは、凄い数のMCと陸上戦艦に遭遇したからなのだった。
「あ、ありゃあ、コサック共和国の船だぞ!! なんだってグエン共和国までやって来てるんだ! というか、どうしてこんなところで遭遇する!?」
整備長が詳しい!
というか、私以外の人がみんな詳しい!
「勉強になるなあ」
のんきに呟いていたら、向こうの船から声がした。
『我ら北欧純血連邦に牙を剥き、友邦たるガリアに痛打を与えた虎(チーグル)を出せ。その後、連邦に逆らったカラードどもを粛清してくれよう』
「なんか言ってますよ」
整備長が顔をしかめたまま説明してくれる。
「デッドオアダイって言ってんだよ! どっちみち俺等を皆殺しにするってことだ。こりゃあ……罠だ。俺らは最初から、こいつらに捧げられる生贄みたいなもんだったってことか!」
「ひ、ひえーっ、それは大変なのでは……!?」
こんな大ピンチ……ガリア軍とやり合った時以来では……?
あれ?
じゃあ案外いける?
私の考えと、どうやら艦橋にいる艦長の考えは同じなようだった。
『ヤンヤン上等兵、出撃して下さい! あらゆる手段で現状の打破を許可する。艦長からの指令です! あと、ウーコン曹長、サーコン曹長も一応出て下さい。的が散らされるので』
「お、俺たちもー!?」
「死ぬ、死ぬ」
「まあまあ、なんとかなるって。二人とも私の後ろについてきて」
こうして私たちは、罠の真っ只中に飛び込むのだった。
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