第46話 ヤンヤン、後ろに続かれる!
時はわずかに戻り、陸上戦艦グワンガンの艦橋。
艦長席の横に設けられた特別席に、リー元帥が座している。
「……これ、きちんと固定して耐ショック用クッションもされてるが、基本パイプ椅子じゃないの?」
「ハハハ、これしか無かったのですよ元帥」
「本当……? 貴様、我輩に嘘言ったらこの戦争終わった後で牢にぶち込むからな」
「……元帥、この戦い、勝つおつもりなんですな?」
「うむ。そうでなければ我輩は尻尾を巻いてグエン共和国支部へ逃げ出しているところだ。日国支部でもいいな。だが……我輩はここにいる。なぜだと思う?」
「この船なら生き残れると?」
「そういうことだ」
「か、艦長! コサック軍が一斉に飛行を開始! 総攻撃が始まります!」
「あの数でか!? 同士討ちが恐ろしくないのか! おのれ、なんという連中だ……!!」
「オペレーター、我輩の声を通信に載せろ」
「あ、は、はい元帥!」
リー元帥は声を張り上げる。
「全軍、ここが正念場である! 飛行準備! 突撃せよ!! 環太平洋連合の命運はこの一戦にある!!」
戦争とは、それが始まる前に行われる下準備が九割である。
戦闘行為はそれまで行われてきた準備の結果に過ぎない。
コサック軍は全土から兵士をかき集め、MCを大量生産して戦いに臨んだ。
対して、環太平洋連合は技術も資材も散逸しているため、現存する機体を集めるのでやっとだった。
勝負の趨勢は見えている。
普通は、だ。
だが……。
元帥の号令よりも早く飛び立った機体がいる。
虎縞のMCだ。
他の先走ったMCを諫めるかのように、あるいは彼らがコサック軍と接触する前に何かをしようとしているのか。
それはすぐに知れる。
虎縞のMC、スア・グラダートを迎撃しようと射撃したコサック機は、次の瞬間には数機がまとめて行動を停止している。
スアが手にしているライフルが火を吹いたのだ。
コクピットが火を吹き、落下していくコサック機。
それを盾にしながら、スア・グラダートが敵軍左翼に食いついた。
蹂躙が始まる。
コサックの黒いMC群が、凄まじい勢いでその数を削られていく。
左翼軍が小さくなっていく。
スアの攻撃が止まらない。
弾切れになったライフルを投げ捨て、敵から奪った銃を的確に連射する。
あるいは敵の燃料槽を慣れた手付きでもぎ取り、自らの燃料槽と交換する。
気がつくと、頭上のMC群の中に道ができていた。
そこだけポッカリと切り開かれた、安全地帯が。
「行くぞ、艦長。我輩の勘が、最も安全な場所がそこだと告げている」
「ふむ……! 私は軍学校で、勘などという不正確なものに頼るなと叩き込まれたものですが……。あなたは華国本部が落とされた時も、連合の度重なる敗戦の時も、常に前線から真っ先に生還された。それを恨めしく思った時もある。どんな時も死なない。それがあなただ。……だが」
ポプクン艦長が腕を振るった。
操舵手に指示を下したのだ。
「決して死なぬあなたが、今この船にいることが何よりも心強い……! グワンガン、進め! 全速前進! 目標、コサック艦!! 道は虎が切り開く!! 我らが虎に続けーっ!!」
「アイサー!! 全速! 前進!!」
グワンガンの巨体が、猛烈な勢いで動き出した。
さらには、支部で取り付けた推進装置が作動する。
グワンガンの尾部がバキバキと音を立てて展開し、現れたのは巨大なブースターだ。
これが火を吹いた。
通常のグワンガンの速度は時速40kmほど。
それが60kmまで加速する。
この姿に、コサック軍は驚愕したようだ。
自分たちの陣形を切り裂きながら、格闘型陸上戦艦が突っ込んでくる。
時代遅れの代物。
近づかねばろくに攻撃もできぬ骨董品。
だが、核爆発にも耐える外殻を備えた、寄らば必死の怪物。
止めねばならない。
コサック軍がグワンガン目掛けて殺到する……!
そこに、虎が立ちふさがった。
先陣が虎……スア・グラダートに切り崩される。
次陣が次々に行動力を失い、落下する。スアをやり過ごした者も、虎に背中を見せた瞬間に撃ち抜かれて爆発した。
そうしながら、虎は前進を止めない。
たった一機のMCが、コサック軍を押し戻していく。
いや、コサックも止まらない。
彼らには前進しかないのだ。
しかし、コサックは虎が作り出す前進する壁を抜けることができない。
すなわち……猛烈な勢いで、コサック軍の数が削られていく。
『旗艦を狙っている!! 正気か!! 正面突破で旗艦を! 止めろ! 旗艦を守れ!!』
『突破できない! なんだこの虎は! ウグワーッ!!』
『す、推進力喪失! 落下、落下する! ウグワーッ!?』
『武器を奪われた! どうやってウグワーッ!!』
コサック兵の悲鳴が、彼らの通信に響き渡る。
ついにはコサック軍陸上戦艦が砲撃を開始した。
友軍機が頭上にいようと関係ない。
我が身を守るためならば、それすら巻き添えにする。
友軍の砲撃に巻き込まれ、少なからぬコサック軍MCが爆散した。
何発もの砲弾はグワンガンに命中する。
だが、止まらない。
核爆発にも耐え、至近距離での陸上戦艦同士の激突に特化するとはどういうことか。
MC運搬能力をわずかしか持たず、最高強度の装甲のために速度や汎用性も捨てた陸上戦艦がどれほどのものなのか。
それを、コサック軍は身をもって知ることとなった。
『吶喊します! 進行方向にいる友軍機はご注意下さい! 吶喊します! 進行方向にいる友軍機はご注意下さい! とっかーん!!』
戦場に響き渡る大音声のアナウンス。
冗談としか思えない言葉と同時に、グワンガンの三本角がコサック軍旗艦をガッチリと捕えた。
自分に倍する大きさのある巨大な陸上戦艦を、グワンガンがぐっと足を踏みしめながら持ち上げていく。
純血連邦最大級と言われる陸上戦艦は今、初めて地上から離れた。
自重に耐えきれず、コサック軍旗艦がきしみ、たわみ、装甲がねじれて剥落する。
グワンガンは敵艦を高らかに持ち上げて、ついに立ち上がった。
そして……背中から思い切り倒れ込む。
持ち上げられた陸上戦艦は、戦艦二隻分の高さから、一機に地上へと叩きつけられることとなった。
陸上戦艦による、地上最大のバックドロップ……!!
この一撃により、コサック軍旗艦は完全に沈黙したのだった。
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