第8話 ヤンヤン、要塞を攻略する!2

「あ、落ちた巡洋艦っていうのが、他の巡洋艦に突き刺さってますー。爆発、爆発、爆発ー」


『オープン回線でやべえこと言ってるっす!』


『ヤンヤン、それ挑発! 挑発だから!』


「えっ、でもこれ、敵と味方の回線をどうこうとかそういう機能なくって」


『あるっす!』


『ヤンヤン説明してた時寝てたす!』


「ご、ごめんなさーい」


 私が謝っている足の下では、何隻もの飛行巡洋艦が爆発したりしてボロボロ崩れていく。

 空を飛ぶために軽くしているから、色々脆いんだなあ……。


 陸上戦艦が慌てたように動き出す。


『本艦は只今より吶喊いたします。ご注意下さい! 本艦は只今より吶喊いたします。ご注意下さい!』


 あっ、私たちの船がのしのし山を登ってきている。

 ちょうど、陸上戦艦の逃げ道を塞ぐ形だ。


 ガリア軍の陸上戦艦は新型。

 運搬力重視で、四足歩行の動物型に変形する。

 今回のは……亀型かあ。


 戦艦や巡洋艦も、ずっと同じ形をしているとFM弾の的になるので、戦闘時はこうしてバトルモードに変形するらしい。

 他にはどんな形になる船があるんだろう。

 そんなことを考えていたら、スアの燃料も少なくなってきたみたいだ。


 私はグワンガンの背中の上に着地した。

 ウーコンとサーコンも降りてくる。

 ずっと後ろで逃げ回ってたから、二人とも無事みたいだ。


 生き残るのは大事ね!


『ヤンヤン、衝撃来るっすよ! 掴まるっすー!』


「えっえっ、どこに!?」


『おんぼろだからどこにでも突起が出てるっす! どこでもいいっす!』


「あーい!」


 適当な装甲板にスアの手を引っ掛けた。

 そうしたら、ちょうど向こうの亀さんとグワンガンが衝突したところだった。


『陸上戦艦が自ら突撃するのは、機動力も低いから現実的ではない……と言われるようになって久しいす』


「どうしたのサーコン、いきなり」


『だから新型陸上戦艦は大砲を装備して、突撃用の衝角なんかは取っ払うのがセオリーす。だが、このグワンガンは違うす! 何せくっそ古いオンボロなんで、衝角が当たり前みたいについてるす! これを整備長が改造して滑走路っぽくしたのがあれす』


「あー! 私たちが飛び立ったの、間に合せの滑走路だったんだ! 滑走路ってみんな不安定でガタガタしてるんだなーって思ってた」


『本物はちゃんとあんなふうに平たいっす』


 ウーコンのヴァルクが指さしたのは、亀さんの背中から伸びてる平たい滑走路。

 あー、飛び立ちやすそう……。


『吶喊します。ご注意ください! とっかーん!!』


 オペレーターさんの声が響き渡る。

 逃げようとする亀さんは、大砲の仰角が下方から来るグワンガンに向けられずオロオロ。

 ついにうちの大きなカブトムシに掴まってしまった。


 三本の角が亀さんを見事にキャッチして逃さない。

 古い船の衝角は、やたらと頑丈らしい。

 

 ジタバタする亀型陸上戦艦を……。

 グワンガンが二本の足で立ち上がり……山の麓にぶん投げた!


 物凄く大きな亀が、背中から地面に落ちてちょっと弾んだ。

 そしてボロボロと部品が落ちてくる。


 あっ、あちこちから火を吹いた。


『普通、戦艦はぶん投げられて背中から落ちる事を想定してないすからね』


『乗組員はみんなミンチっすねーこれは。いやあ……嘘のようっすけど勝ったっすねー』


 さっきまでオペレーターさんが喋ってた回線から、艦橋でみんなが大喜びしている声が聞こえる。

 あっ!

 ビールの瓶を開けた人がいる!

 プシュって言った、プシュって!


「ずるいずるい! 私も宴会する! えーと、スア、戻りまーす!」


『戻るっす!』『戻るす!』


 ぎゅうぎゅうと押し合いへし合い、無理やり甲板から格納庫に戻っていく私たちなのだった。

 あー、戦闘に使ったから滑走路があちこち曲がってる!

 これは飛び立つの大変そう。


 だけど、それは後で考えよう。

 今は宴会だ!

 

「無事に戻ってきたか! いやあ、勝ったな! よくやった! お前本当に凄いな!」


 整備長がご機嫌でそう言った後、整備員たちとお酒の缶をプシュッと開けた。


「かんぱーい!!」


「ずるーい!!」


「おうヤンヤン! その辺に機体を置いといてくれ! 酔いが覚めたら整備するからよ! ああそうだ! コック長からつまみ作ってもらってくれ!」


「わ、私パイロットなんだけどー!」


「この間までコック見習いだっただろう」


「そりゃあそうですけどぉ!」


 でも、シェフに美味しいお料理作ってもらうのは賛成だ。

 私はスアを降着態勢にすると、コクピットから飛び降りた。

 四つん這いの姿勢なら、お腹についたコクピットと床はかなり近いのだ。


 厨房に飛び込んで、「シェフー!」と声をかける。

 すると、シェフは猛烈な勢いでお料理をしていた。


「シェフじゃねえ! だが祝勝会だ! 今日はシェフでも許す! おらヤンヤン、料理運べ! 艦橋に格納庫に機関室、みんながつまみを待ってるぞ! 届けられるのはお前だけだ!」


「うっす、がんばる!」


 その日の私は、ちょっとだけコック見習いに戻り、船のあちこちにお料理を運んで歩いたのだった。


 艦橋では……。


「艦長ー! さっきの吶喊でまた通信機器が壊れたんですけどー!」


「ほっとけほっとけ! 俺たちにバンザイアタックの命令をするバカに連絡なんざしなくていい! 後で酒でも飲みながら直しゃいいんだ! おお、ヤンヤン一等兵……いや、上等兵! おめでとう、昇進だ!」


「ほんと!? やったー!!」


 格納庫では……。


「いやー、少尉……もとい大尉が生きてたらこの大勝利を見せたかったっすねえ」


「あの人、生前は負け戦しかしてなかったすからねえー」


「ヤンヤンを育てた少尉に乾杯! そして俺たちの勝利の女神? 勝利の小娘に乾杯!」


 小娘言うなー!

 そんなこんなで、陸上戦艦グワンガン、山の中腹でカブトムシ形態のまま、乗組員全員が行動不能になるまで飲みまくったのだった。

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