第9話 ヤンヤン、徴発する!

 大人たちがみんな二日酔いの状態で、陸上戦艦グワンガンが動き出した。

 一回山から滑落して、壊れていたガリア軍の戦艦にぶつかってやっと止まったりしたけど。


 ついでに敵艦から色々使えそうな資材を失敬したのでむしろセーフ。


「シェフ、ガリア軍の戦闘食まぁまぁうまいですねー」


「シェフじゃねえ! そうだなあ。連中、世界中から資材を略奪して回ってるからなあ。ほれ、世界中の保存食が」


「あー美味しそう。ホホエミ王国の保存食なんて言ったら豆じゃないですか」


「米だってあるだろ!」


「なんか臭いんですよー!」


「薬に漬けてあるからなあ」


 それに比べて、ガリア軍の缶詰、とても美味しい。

 このトマト缶というやつも凄くいい。

 撃破してよかった、ガリア軍。


 流石に私たちは仏様を信じる国の人なので(ホホエミ王国住人の94%)、死体に手を付けるのはやめておこう。

 その他の燃料や、MCの部品や弾薬を根こそぎいただく程度にしておいて……。


 機関部の人たちが最後に、向こうの陸上戦艦の生き残ってる動力を暴走させて爆発してもらうことにした。

 これはハナビと呼ぶらしく、日国の血が入っている機関長曰く、縁起物だとか。


「オーライ! オーライ! はい、敵艦が米粒より小さくなった。この辺りまで来たら爆発しても平気だから。あ、原子炉だからちょっと影響あるか! まあ大丈夫、多分! はい、爆破!」


 機関長がリモートのスイッチをポチッと入れた。

 しばらく何も起きない。


 私はスアに乗って、甲板の上で機関長の後ろに控えてる。

 爆風が来たらこの人を守るためだ。


「機関長、なんか何もないんですけど」


「向こうの船もでかいからなあ。爆発は起きてるけど外まで影響が来ないんだろ。あ、ほら見ろ、膨らんできたぞ」


「ほんとですか? うわー、ほんとだー」


 スアのカメラをズームにして確認する。

 なんか赤く光りながら膨らんでいってる。

 その直後に、ガリアの戦艦が大爆発を起こした。


 ものっすごい衝撃波とか風が来る。

 私は慌てて機関長をガードした。


「わははははは! タマヤー!!」


「機関長がなんか叫んでる!」


 いつも狭い空間で仕事をしているから、こういう開けた場所で作業ができるとテンションが上がるみたいだ。

 ちなみに戦艦グワンガンは、どっしりとしたカブトムシモード。

 衝撃波を受けても全然平気でずっしり立っている。


「案外船は平気なんですねえ」


 しばらくしてから聞いてみた。


「あ? なんだって?」


 外で爆発を聞いてた機関長、しばらく耳がおバカになってるっぽい。


「すっごい爆発でしたけどー! グワンガン、大丈夫、なんですねー!!」


 マイク音声を最大にして叫んだ。

 すると、機関長がわっはっはと笑う。


「そりゃそうだ! この船はギリギリ、核ミサイルでガンガンやり合う可能性があった時代を想定してるからな! 自動小銃レベルのFM弾で核ミサイルが撃墜されるようになって、あの技術も陳腐化した! ま、こいつは本体が核シェルターみたいなもんだ! とは言っても原子炉を内蔵してるんだけどな!」


「ふんふん、船にも歴史ありなんですねー」


「あ? なんだってー!?」


 とにかく機関長は満足したみたいなんで、また機関室に送り届けようっと。

 格納庫に戻ってきたら、たくさんの部品をウーコンとサーコンがMCを使ってより分けていた。


 整備長がわっはっはと笑っている。


「これは当分、整備の資材に困らんな! いやあガリア様々だ! それに、どれもこれもお行儀よくユニバーサルデザインと来たもんだ。華国やらチャイ国はそいつを無視して、独自規格で作るからなあ。よく戦場で換えパーツが切れて立ち往生してるわい」


「あ、つまりそれって……華国とかチャイ国のMCと当たったら、部品を壊してやれば簡単に戦えなくなる……?」


「そうなるな」


 いいことを聞いてしまった。

 いつか役立てようっと。


 こうして、後始末を終えた私たちは移動を開始した。

 私の「婚活するなら町がいい! 町! 私を都会に連れてって!」という要望を、艦長が聞いてくれたのだ。


 艦橋に呼び出された私。

 移動形態になったグワンガンが快調に進む様が、正面の大きな窓ガラスから見える。


「一番の功労者のお願いを聞かないわけには行かんからな。ボーナス代わりだ」


「ボーナス……?」


「ヤンヤン、お前もしや金銭授受をしないような地域でずっと暮らしてた……?」


「村は物々交換でしたねー」


 村の外は知らないことだらけだ。

 私なんか、グワンガンに乗せてもらってから戦闘二回やっただけで、人間が住んでる場所になんか一度も立ち寄っていない。


 陸上戦艦に乗ってる人の数、村人とどっこいか少ないくらいだしなあ。


「では次の目的地は、ヤンヤンの希望に沿うことだろう」


「どこなんですか?」


「コムラータという都市だ。問題はここが、南部大陸同盟との境界線にある中立都市だということだが……」


「ははあ」


 南部大陸同盟、ガリア軍が所属してる北欧純血連邦、私たちのホホエミ王国がある環太平洋連合。

 この三つが、世界を股にかけて争う勢力なのだ。

 それぞれの勢力内でも国同士は諍いを起こし合ったりしてはいるんだけどね。


 南部大陸同盟はオイルという動力があるらしくて、これが強いんだとか。


「じゃあなんか、あちこちからいい男が集まってそうですよね!」


「ヤンヤンは楽天的ねえ」


 オペレーターの人が笑った。

 戦闘前の女の人とは違う人で、戦っている最中もずっと寝てた凄い人だ。


 オペレーターさんは、メガネでロングの人、小柄で豪快な人、ウェーブヘアのお姉さんっぽい人の三人。

 この人はウェーブのお姉さん。みんなからウェーブさんと呼ばれてる。

 他は、メガネさんとおチビさん。


「よーし、じゃあお姉さんが町を案内してあげる。遊び方とか男の口説き方も教えちゃう」


「本当ですか!? や、やったー!!」


 私の行先は希望に満ち溢れているぞー!


「やれやれ、敵がたむろしてる火薬庫みたいな場所だってのになあ。ま、いいか」


 艦長は深く考えるのをやめたようだった。


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