第10話 ヤンヤン、都会に降り立つ!

 町の近くには、ずらりと各国の陸上戦艦が並んでいる。

 飛行巡洋艦はないけど、それは当たり前だ。

 あんなブルジョワな乗り物、環太平洋連合で持ってる国なんか華国と日国くらいしかない。


 華国は全部コサック共和国に落とされたらしいので、つまり今は日国にしかない。


 みんな戦艦から降りて、それなりにおめかしして町に入る準備をしている。

 私もだ!


 私としては、生まれて初めての町。

 村より大きな場所、初体験。

 一体どんなところなんだ……!


「ヤンヤン、町はね、舐められたら終わりよ。化粧もオシャレもバッチリ決めて行くのよ! えっ、制服以外は野良着しか持ってないの?」


「はい……」


 しょんぼりする私。

 オペレーターのウェーブさんは、ウームと唸った。


「町でおしゃれな服を買うしかないわね……。行くわよ!!」


「はいっ、ウェーブ姐さん!」


 そういうことになった。

 軍服だとすぐ戦争みたいなことになってしまうということで、私は背格好が近い三人目のオペレーターのおチビさんに私服を借りた。

 このご恩は忘れません……!!


 グワンガンは家族みたいなところだなあ。

 私の第二の……いや、第一の故郷だ。


 ウーコンとサーコンは敵襲に備えて船に残るらしい。

 二人とも「町ぃぃぃぃ」「遊ぶチャンスぅぅぅぅ」と大変嘆いていた。

 お土産買ってきてあげるからね……。


 その他、整備士と機関士、そして副長が町に行くことになった。

 食料などを買い付ける予定らしい。


「ヤンヤンのお陰で、ガリア軍の金が手に入ったからな。これで美味いものをたっぷり買えるぞ」


 船のモーターワーカー(MW)を二台駆り出して、みんなで乗っていくのだ。

 コムラータは、オレンジ色の町だった。

 砂色のレンガで作られた町並みのあちこちから、オレンジに塗られた布が垂れ下がっているのだ。


「おしゃれー! これが大都会……!!」


「中くらいの町よ、これ」


「私の村の百倍くらい発展してます」


「うん、それはそうね」


 ウェーブさんが頷いた。

 私は大都会を前に興奮が抑えきれない。

 MWに乗っていなかったら飛び出してしまったことだろう。


「ヤンヤン、ウェーブさん、買い物行くんだろ? 行ってきなよ。MWは俺が操作しとくから」


 救いの神あり!

 機関士の人がMWを担当してくれるそうだ。

 後は女二人だと危ないからと、整備士さんが一人護衛についてきてくれた。

 ありがたい~。


 みんなの暖かさが身にしみるぜ……。

 そしてこの町、日向が暖かいどころか死ぬほど暑いぜ……。


 三人で日陰を移動する。

 今が比較的暑い時間らしくて、人通りは少なめらしい。


 みんな家の中や、店の中で涼んでいる。

 私たちも手近な茶店に避難した。


 茶店!?

 お茶と甘味を出すだけで商売していけるの……!?

 未知の世界……。


 ひさしで陽の光から守られた、屋外の席に通される。

 ドキドキしながら待っていると、ガラスの入れ物に満たされた茶色い飲み物がやって来た。

 こ、これは冷やしミルクティ……!?


 氷が浮かんでいて、見ているだけで涼しくなる。

 ストローを使って飲んでみると、これがもう、天にも昇るような素晴らしい甘味!!


「ああ~昇天する~」


「ヤンヤン早いわよ! まだ喫茶店でアイスティ飲んだだけじゃない!」


「何にでも感激するから見てて楽しいなあ。こんな純粋な娘がガリア軍を単騎で壊滅に追い込んだなんてなあ……」


「しっ、あまり大きな声で話したら、どこで誰が聞いてるか分からないわ」


「あ、そうだったそうだった」


 私はもう、ミルクティの甘さで脳みそが痺れてしまい、必死でごくごく飲んだ。

 付け合せで出てくる焼き菓子も信じられないくらい甘い。

 ああ、都会の味がする……。


 しばらくそうしていると、ゆっくりと日が傾いてきた。

 なんだか涼しくなってきたみたい。


 じゃあ動こうかという事になり、私たちは様々なお店が並ぶ辺りを冷やかして歩いた。

 甘い香りがするお香とか、媚薬の効果があるはちみつとか、えっちなことをする時に効果があるというオイルとか……。


「ヤンヤン、変なものばかり見つけるのねえ」


「やはり将来の旦那様を見つけたら、絶対モノにしておきたいですからね……」


「見つけた後のグッズばかりじゃない。今はまず、見つけるための衣装を買わなくちゃ! 艦長からヤンヤン用のお小遣いを預かってきてるから。お姉さんがカワイイ服を選んであげる」


「ほんとですか!? じゃあ、ここは一つ、殿方を悩殺するようなセクシーなのを……」


 そこで選んでもらいました。

 ひらひらっとしたオレンジ色のワンピース。

 おおお、足が出ている! セクシー!


「うん、カワイイカワイイ」


「かわいいなあ」


 ……セクシーではない……?


「ヤンヤンにまだセクシーは早い」


「そんなあー」


「でもカワイイわよ」


「それなら、まあ……」


 ウェーブ姐さんほどの人が仰るなら……。

 その後、私は甘い香りのお香だけ買って帰ることにした。


 町、堪能した……!

 絶対また来よう!


 そう思って通りを戻っていくと……。

 こちらをジロジロ見る一団がいた。

 なんか緑色の軍服を着てる……。


「うわっ、南部大陸同盟だ。中立地帯で軍服着るかよ、普通」


「ああやって周りを威嚇してるのよ。しょうもない連中だわ」


 整備士さんとウェーブ姐さんの話が聞こえたのか、何人かが怖い顔をしてこっちに歩いてくる。

 あ、なんかよく分からない言葉で怒鳴りだした。


 これを、南部大陸同盟の中にいた小柄な人が止めようとしている。


 だが、そこに……。


「うわーっ! 暴れモーターワーカーだー!!」


 という声が聞こえた。

 大通りを横断しようとしてた南部の人たちが、走ってきたMWに撥ねられる。


「ウグワーッ!?」


 吹っ飛んだー。

 それよりも、暴走モーターワーカーは大変では?

 私の村でも、よく暴走していたなあ。


「た、助けてくれー!!」


 町の人らしき男性がモーターワーカーにしがみついている。

 止められないみたいだ。


「ちょっと私、止めてきますね!」


「あっ、ヤンヤン!」


 ウェーブ姐さんの声を背に走り出す。

 MWは、電柱にぶつかったり、露天に突っ込んだりしてスピードが落ちてきている。

 もうちょっと遅くなったら跳び乗れるなあ……。


 と、そこへ、銃を射つ音がした。

 MWの関節が火を吹く。

 よし、動きが遅くなった!


 駆け寄り、飛び乗る!

 そうしたら、別の方向からも飛び乗ってきた人がいた。


 あっ、南部の制服の……。

 黒い肌の女の子。


 彼女は私を見て、目を丸くした。


「暴走MW、止めちゃおう!!」


 私は呼びかける。

 すると彼女はちょっと笑って、頷いた。

 誰だか知らないが、一仕事やってしまおう。


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