第11話 ヤンヤン、友達を作る!

「~~~~~!!」


「言ってる意味はよく分からないけど、機械はそっちがいじってくれるのね。オッケー。私も難しいこと分かんないし!」


 私は立ち上がると、暴走しているMWの操縦桿を握った。

 地元の人にはどいててもらう。


 おー、ブレーキが利かなくなってる!

 よくある、よくある。

 分解寸前のポンコツを乗りこなしていた私にとって、こんなことは日常と一緒だ。


 ということで、でたらめに動き続けるMWを何にもぶつからないように誘導する。


「どいてどいてー! はい、危ないからねー!」


 飛び出してきた子どもをジャンプで躱し、びっくりして立ち止まったおばあちゃんを片足跳ね上げて避ける。

 その間に、黒い肌の彼女は操縦席の下に潜り込み、何かいじっている。


「!!」


「分かった!」


 何か言ったけど、これはタイミング的に止める準備ができたってことだろう。

 私はMWを空き地に突っ込ませた。

 ビルがあった跡らしいところを機体は突っ切り、向こう側の道路に飛び出す……というところで、ガクンッと暴走が止まった。


 MWが倒れ込む。

 乗っていた地元の人が放り出されて、「ウグワー!」とか叫ぶ。

 彼は私の狙い通り、空き地を囲んでいたトタン板に飛び込んだので無事だった。


 うんうん、良かった良かった。

 彼女も操縦席の下から出てきて、現状を確認した。

 そして満足気ににっこり笑う。


 言葉は通じないけど、私と彼女でサムズアップし合った。

 うーん、心は通じるものだ!


 その後、彼女を連れてウェーブ姐さんたちに合流。

 冷たいお茶で乾杯したのだ。


「言葉が通じたらもっと色々話できそうなんだけど……でも、仲良くなれたからいっか!」


 私が満足していたら、彼女は自分を指さして「マリーヤ」と名乗った。


「あ、私はヤンヤン。ヤンヤン!」


「ヤンヤン!」


「マリーヤ!」


 二人でウェーイ、とハイタッチする。


「若い子はすぐ仲良くなるわねー」


「ウェーブさんも若いでしょ」


 そんな二人の言葉を聞きつつ、私とマリーヤはすっかり友達になったのだった。

 南部大陸同盟にもいい人がいるじゃないか。


 帰りに副長たちと合流した。

 副長は私を見るなり、


「可愛くなったじゃないか。町ではさぞかしモテたんじゃないか?」


 ハッとする私。


「し、しまった……。町を堪能したり、同年代の友達に夢中で婚活の事を完全に忘れてた……!!」


 私が頭を抱えたら、他のみんながわははははは、と笑うのだった。

 く、くそー、子供扱いされてしまうー!!


「まあ機嫌を直せ。軍曹に頼んで、今日の夕食は豪華にしてもらうからな。なんだと思う?」


「なんです?」


 ちょっとむくれて聞き返す私。

 副長はにんまり笑った。


「具沢山のグリーンカレーだ。米も新米だぞ」


「えっっっっっ!? ほほほほ、本当ですか!? やった……やったーっ!!」


 ごちそうに飛び上がって喜ぶ私。

 他の人達はみんな、これを見てニヤニヤするのだった。

 し、しまった!

 子供扱いされて喜んでしまっているーっ!!



 ※


 南部大陸同盟に所属する、ガザニーア共和国軍。

 緑の軍服に身を包んだ彼らは、コムラータ郊外に陸上戦艦を停泊させていた。

 彼らの船は、海を渡ることもできる。


 わざわざ南方大陸からここまでやって来たのだ。

 兵士たちは交代交代で羽根を伸ばすつもりだった。


 あまりに故郷から離れた土地であったために、彼らはコムラータのルールを知らない。

 軍服で威張り散らして歩き回る彼らは、すっかり鼻つまみ者になっていた。


「なんて雰囲気の悪い町だ」


「中央大陸の町などこんなものか!」


「俺たちを誰だと思っている! ガザニーアの軍人だぞ! モンテロ大統領直下の兵士なのだ!」


 そんな彼らは夕刻、暴走するMWに仲間を撥ねられ、大怪我をさせられてしまった。

 なんということであろう。

 これは自分たちガザニーアへの攻撃なのだ!


 彼らはそう考えた。

 怒り心頭になり、船へと戻る彼ら。

 様子がおかしいことに、整備兵が気付いた。


「どうしたのですか? 機体は整備中ですが」


「攻撃された! 誇り高きガザニーアの戦士を愚弄されたのだ! 外なる大陸の連中に分からせてやる! ガザニーアを怒らせた報いというやつをな! 大統領閣下も分かってくださる!!」


 兵士のリーダー格であった男が、怒り心頭で吠えた。

 彼は、ガザニーア永世指導者、モンテロ大統領の甥である。

 気に入らない者はその場で銃殺する、独裁者の威光を嵩に着た、危険極まりない男だ。


 今日も自分を見て顔をしかめた外国人の男女を見て、怒りを覚えて撃ち殺そうとしたところにMWの突進を喰らって危うく轢かれかけたのである。

 しばらく腰を抜かした彼は、己の情けない姿を見られたことに耐えきれず、コムラータを火の海にせねばならぬと考えたのである。


 アホである。


 だがそのアホは権力と武力を持っていた。

 かくして、ガザニーア軍は中立都市であるコムラータへの攻撃を敢行することとなる。


 この様子を、少女戦士マリーヤが覚めた目で見つめていた。


「ガザニーアのルールが世界のどこでも通用するわけじゃない。痛い目を見るといい。出撃の要請があるなら、出てあげないこともないけれど」


 彼女はそれだけ呟くと、整備が終わった自機を確認に行った。

 今日は面白い人と出会えた。

 暴走するMWに飛び乗り、止めようとする人。


 乗っていた現地の男性を助けようとするところに善性を感じた。

 きっと彼女とは仲良くなれるだろう。

 もう会う機会は無いだろうが。


「ねえ、ゴモラー」


 彼女が見上げるのは、陸上戦艦の最奥部に鎮座する巨大なMC。

 赤と黒の二色に染められた巨体は、サバンナの様々な獣を組み合わせたような形をしていた。


 ゴモラーはまるで自らの意志があるかのように、その双眸を輝かせた。


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