第12話 ヤンヤン、防衛隊のイケメンと出会う!

 カレーとお米をたっぷり食べて、デザートの濃厚なドライフルーツなんかも食べて、まったりとしていた私なのだ。

 後はシャワーを浴びて寝るだけ……。


 町にも行けたし、可愛い洋服も買えたし、友達はできたし、最高の1日ではないか。

 きっと今日はいい夢見れそう。


 だが、そんな私の思いは、服を借りた方のオペレーター、おチビさんの放送によって成就しなかったのだ。


『戦闘が開始されています! コムラータの町にMCの数多数! 南部大陸同盟、ガザーニア共和国のMCと思われます! 中立地帯だぞあいつら正気かあ!!』


『ガザニーア共和国と言うと、東部の首長国から武装の供与を受けている首輪付きの犬だな。身に余る力を得て調子に乗ったか』


 副長の辛辣な言葉も聞こえる。

 えーと、これはつまり……。


 私の部屋のドアをノックする音。

 外には、ウーコンとサーコンがいた。


「出撃っす!」


「やっぱりぃ」


 シャワーはお預けになりそうなのだった。

 パイロットというのは性に合った仕事だけど、こうやって緊急の呼び出しがあるのはつらいなあ。


「うちには三人しかパイロットがいないすからね」


「少尉死んじゃったもんねえ……」


 ぶうぶう言いながら作業服に着替える。

 ウーコンとサーコンはパイロットスーツがあるけど……今は洗濯中なのでやっぱり作業服。

 これは布地が厚くて、なんだかんだ安全なのだ。

 ちょっと動きにくいけどね。


「私もパイロットスーツほしー」


「それには支部のある大きな都市に行かないといけないっすなー」


「そこで正式にパイロットとして登録しないと」


「うええ、めんどくさい」


「お仕事としてのパイロットはめんどくさいもんすよー。特に環太平洋連合は書類関係多いから。形式主義なんす」


「だーから上の判断が遅くて北欧純血連邦に負けまくってるっすねえ」


 難しいことを言う人たちだなあ!

 私はそんなのはどうでもいいから、仕事をさっさと終えてシャワーを浴びて寝たいよ!


 ということで、スアに乗り込む。


「おう、ヤンヤン。お疲れさまだな。今回は防衛戦だから、町に恩を売るために出撃するようなもんだ」


 さっきまで酒を飲んでいたらしい整備長。

 酔いで赤い顔をして説明してくる。


「燃料がもったいないからな。歩いていけ、歩いて」


「MCって歩けるの?」


「バックパックに補助車輪つけりゃ歩けるんだよ」


「か、カッコ悪い!」


 とことこ歩くと、背後からガラガラ音がする。

 車輪が回ってるう。


 ウーコンとサーコンも同じらしくて、彼らは当たり前みたいにヴァルクを歩かせている。

 シャープでかっこいいMCなのに、補助輪つけてとことこ歩いてる様はなんとも間抜けな……!


 滑走路の横から地面に降りて、とことこガラガラと移動する。

 おおーっ、町が燃えている……。


「皆さん! 協力ありがとう! ありがとうございます!! 敵MCは新型らしく、かなり強力です!! 気をつけて! お気をつけて!」


 なんか、四角いMCの上に立った男の人が拡声器で叫んでいる。

 あっ!!

 あの人、結構イケメンじゃない!?


「ね、ねえねえウーコン、サーコン! あの人誰かな……」


「あー、コムラータ防衛隊の人っすね」


「コムラータ防衛隊のMC、コムジャックすね。旧式だけど耐久重視で、頑丈なのがいい機体すよ」


「フーン。かっこいい……! ちょ、ちょっと私挨拶してくる……!」


「あっ、惚れたっすなあれは」


「惚れっぽいすよねえ」


 うるさい!

 チャンスを逃さないだけなのだ!

 私はコクピットハッチを開けて、スアの拡声機能をマックスにした。


 ハッチを開けたのは私の顔が見えるように。

 拡声機能をマックスにしたのは……。


「あの! 今からこの騒ぎを収めて見せますから!」


 私の声を届けるためだーっ!


「!? き、君は! そうか! 戦ってくれるのか! !? まだ年若い女性じゃないか! 大丈夫かい!? いや、こう聞くのは失礼だね! 君もまた、町を守ろうとしてくれる立派な戦士の一人だ! 手を貸してくれてありがとう! 感謝する!」


「はい! 私はヤンヤン! ヤンヤンです!! あなたのお名前を教えて下さい!」


「僕はアクバット! 君たちで最後だな! ともに行こう! そして町を守ろう、ヤンヤン!」


「はぁい!」


 よし!!

 第一印象はバッチリだろこれ。


 こうなれば、アクバットと一緒に歩く道のりも楽しい。

 とことこ、ガラガラ移動にもいいところがある。


『~~~~~!!』


『ウワーッ!! 敵の新型が!!』


「あっ、私がやります私がやります」


 町を襲っていた、ナントカ共和国のMCがこっちに向かってきた。

 アクバットあぶなーい!


 暗い中でも狙いを付けやすくする、曳光弾がどんどん近づいてくる。

 このままではアクバットに当たってしまう。

 だけど向こうも光を放っているから、めっちゃ見えやすいんだけど。


「うりゃ!」


 マシンガンをちょっと撃った。


『ウグワーッ!?』


 当たった!

 空のMCの一部が、小さく爆発する。

 うわ、真っ黒なMCなんだ。


 これはやりづらいなあ。


「ごめんね整備長! 車輪をパージ!」


 後ろ蹴りで、車輪の部品を蹴っ飛ばした。

 それだけで、スアを支えていた補助輪が外れる。

 軽くなった機体は、バックパックのバーニアを吹かすと簡単に浮かび上がった。


『~~~!! ~~~~!!!!』


 外国語で叫びながら襲いかかってくる向こうのMC。

 私のマシンガンで銃を吹っ飛ばされて、残る手でぐねっと曲がった剣を引き抜いている。

 剣が赤く光っているのは、あれは熱で相手を斬る武器なんだと思う。


 いちいち高級っぽい武装を使う機体だなあ!

 私は飛び上がりつつ、腰にぶら下げた得物を引っこ抜いた。

 これ、ガリア軍から回収した手斧ね。


 金属の一枚板から削り出された、シンプルだけど頑丈なやつ。

 これで、相手の真っ赤に熱した剣を一瞬だけ反らしてっと……。


 攻撃をやり過ごしながら、私は相手の腰のあたりを蹴る。

 ちょっとだけ、敵MCのバランスが崩れた。


 私は蹴りを戻す動きで体を回転させ、振りかぶっていた手斧を叩きつける。

 狙いはコクピット。

 ガツンと一発、いいのが入った!


『ウグワーッ!!』


「あ、怯んだ怯んだ! えいえい!」


 マシンガンを捨てて、相手の機体の腰アーマーを掴みながらひたすらコクピットをぶん殴る。

 斧だから、殴るたびに凄く食い込む。

 これは効率がいいなあ。


 もう相手のMCは動かない。

 私はこれを地面に引きずり落とした。


「ウーコン、サーコン、武装解除して。使えそうなのあるんじゃない?」


『任せろすー』


『うちのトップエースは頼りになるっすなあ』


「本当はあんたたちも頑張んないとなんだからね!」


 と、そこへアクバットのMCが駆け寄ってくる。


『凄いなあヤンヤン! 君は強いな! 本当に凄い……凄いパイロットだ!!』


 えっ、そうですか?

 えへへへへ!

 これは彼の中で私の評価、かなり上がっちゃったかなあ。


 婚活大成功だなあ……!

 私は勝利を確信した。

 戦闘じゃなくて、別の戦いのね。


「じゃあこんな感じでやって来るので、全部終わったらあの、その、一緒に御飯を……」


 もじもじとデートのお誘いなどをする私。

 初デートだ……!


『あれなんすか』


『でっか!!』


「えっ、なんかいる?」


 私が横を見たら、町を砕きながらめちゃくちゃ大きなMCが姿を現したところだった。

 MCの口みたいなところが開き、ギラギラ輝き出す。


「やばそう! アクバット、回避回避ー!」


『いやいや、全て君たちに任せていたら我らコムラータ防衛隊の名折れというもの! 僕もやれるところを見せてウグワーッ!!』


 ぶっとい光の束がズドンと来た。

 アクバットが光の中に消えたぁ!

 うーわー!

 私の、婚活~~!!!


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