第35話 ヤンヤン、モテる!

 可愛いミニミニMWを追いかけ回した後、副長の買い物の手伝いをした。

 食材をどっさりカートに入れて、これを袋詰してMWに詰め込む……。


「おっ、手伝うよ手伝うよ」


「俺が俺が」


「我が我が」


「えっえっ! 三人も年頃の男性が!!」


 私は衝撃を受けた。

 私を囲んで三人の男がいるなんて初体験だ。

 ウーコンとサーコンと整備長に囲まれたことはあるけどあれはノーカン。


「ええー、いいのー?」


「重いでしょ」


「女の子の細腕にこの量は酷だ」


「俺マッチョだから任せて」


 こ、これは……!

 これはまさか……!!


 私、モテてる……!?

 すげええええ!

 町、すげえええええ!


 私は感動した。

 いや、荷物なんかカートからMWまでせいぜい50センチの距離を移動させるだけなんだけどね!


「じゃあその、お願いします~」


 思わずニヤニヤしちゃう自分の表情に張り手をかましてから微笑みに変えて、殿方の厚意に甘えることにした。

 いやもう、パワフルパワフル。

 うちのウーコンやサーコンの2倍位のパワーがある。


「ねえ君、この後暇?」


「うちこない? うちヤギいるんだけど」


「ヤギのミルクのミルクティでいいかな」


「あ、あ、ご相伴にあずかります~」


 副長が笑顔で、行って来いとうなずいたので、私は三人の男子についていくことにした。

 三人はお互いに牽制しあっていて、なんかこうですね、女子にモテたい! というオーラを感じるわけですよ……。


 ガツガツしてる!

 こんなの初めて!


 私はすっかり嬉しくなってしまった。

 誰かの家に行くというのはフェアではなかったらしく、夜は酒場になるらしいお店のテラス席でミルクをごちそうになった。


 うおおお久々のヤギのミルク美味しいー!


「ヤンヤンはどこ出身なんだい」


「あっ、ホホエミ王国の田舎です」


「そうなんだ。そこにはいい男いなかったの?」


「おじさんとおじいちゃんばかりで……だから結婚するために村の外に出たんですよー。結婚してくれる男の人を探しています!」


「「「な、なんだってー!!」」」


 三人の男子がガタッと音を立てて立ち上がった!

 うおわー! 声まで揃ってた!


「つまりこれは俺たちに目がある……!?」


「いける、いけるぞ!!」


「外国の女子捕まえたら超イケてるもんな……!!」


 闘志を燃やしている……!

 がんばれがんばれ……!

 だが私は一人しかいないからなあ。


 ここはもったいないが、君たちの中から一人を選ぶことになるのではないか……。

 私は面接する人の目になった。

 今まで限りなくゼロだったのに、突然三人になるのが悪いのだよ……。


「私、この町がどういう町なのか知らないんだ。色々教えてもらえると嬉しいな」


 さあ、どう出る!!


「ここはね、ヤギのミルクとチーズが名産品で超うまい」


「えっ!? ミルク凄く美味しいんだけど、チーズも美味しいの!? 食べたい!!」


「よし! すみませーん! 彼女にチーズを!!」


 あー、もう好き好き!!

 かなりポイント稼いだよ!!


 他の二人がうおおお、と対抗心を燃やす。


「この町は今、山賊と戦ってて! 南部大陸同盟の軍人が落ちた奴らで! そいつらを俺たちがあの武装したMWでですね! 俺なんかこの間一機を追っ払って!」


「えっ、MWで!? それはすごい! 死ななかったのすごい」


 私はとても感心した。

 それはポイント高いなあー。


「お、俺はMWいじれるよ! あの武装も戦場に落ちてるの回収して、俺が取り付けたんだ!」


「えっ、整備できるの!? それはスゴイ技だなあ……!」


 私は驚いてしまった。

 MWはユニバーサルデザインじゃないんだから、MCの装備取り付けるのかなり凄いよ!

 ポイント高いなあ。


「うむむむむ、三人ともポイントが高い……わ、私には審査できない……!」


 何という贅沢な悩みだろう!!

 その後も三人からの猛烈なプレゼンを受けて、私は唸るばかりだった。

 くっそー、凄い男たちだ……!!

 選べねえ!!


 私は優柔不断だったり、かなりハードルが低いからかも知れない……!!

 悩みの縁にいる私だったが、そこに救いの手というか、選択するためのチャンスみたいなものが訪れた。


 それは……。


「山賊だー!!」


「山賊がまた攻めてきたぞー!!」


「防衛隊、頼むーっ!!」


 通りの向こうから声がする。

 私を囲んでいた三人がハッとした。

 お互い視線を交わし合う。


「山賊め! 許せねえぜ!!」


「俺のMWで仕留めてやるぜ!!」


「新装備を試す時が来たようだな!!」


 彼らはかっこよく駆け出した。

 私にかっこいいところを見せる気だな!?


 よし、ではその勇姿を拝みに行こう……!!

 私はそう決心した。


 幸い、乗っていたおじいさんが腰をぶっ壊したので空いている、という武装MWが一台あった。

 おじいさんがぐぬぬぬ、と自宅の前で唸りながら、腰に色々ぐるぐる巻きにしながらMWを見上げていたのだった。

 おずおず声を掛ける私。


「乗せていただいても……」


「えっ、お嬢ちゃんが乗るのかい?」


「はあ、一応グワンガンではパイロットをやってるので」


「あっ、そうなんだ! じゃあいいよ! 山賊どもを追っ払う手伝いをしてくれ! 良い働きをしたら、特製のチーズあげるよ!」


「本当ですか!? やったー!!」


 なんていい町だろう。

 素朴だけど、みんな私に優しい……。

 天国かも知れない。


 この天国、守りたい……!!

 私はやる気まんまんになり、防衛隊に続くことになるのだった。


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