第37話 ヤンヤン、賞金を受け取る!

「おお……俺のMWが山賊共を撃退したんだなあ!! お嬢ちゃん、あんたすげえなあ! ありがとうありがとう!!」


 おじいさんにめちゃめちゃ感謝されてしまった。

 だが私は放心状態だよ……。


 男子たちがみんな私を恐れ多いって、距離を取ってしまったのだ……!

 な、なぜなのだー。


「ヤンヤン……いや、ヤンヤンさんは本当に強い……!!」


「こんな凄い人の隣に今の俺じゃ並べねえ……!!」


「強くならなければ……!」


 そんなー。

 ううう、己のパイロットの才能が憎い。


 しょんぼりしながら、町の人達の大歓声に見送られる私なのだった。

 ふと気づくと、なんか町で見た整備できる男の人が副長のMWに乗ってるんだが……?


「おうヤンヤン! こいつ整備ができるんだってな? 貴重な人材だからその場で雇った」


「な、なんですとー!!」


「ヤンヤンさん、よろしくお願いします! スバスといいます!!」


「こ、こちらこそ末永く~!」


 希望は!

 潰えていなかった!


 整備兵になるならなかなか死なないだろうしな……。


「俺もヤンヤンさんに負けないパイロットとして大成してみせますよ!!」


「戦場に出てはいかーん!! 絶対死ぬから!!」


「!?」


 私たちのやり取りを、副長が爆笑しながら眺めているのだった。

 賞金がもらえるぞという話になり、艦長もやる気になったようだ。


「支部にはどれだけ遅れて到着しても構わんからな。よし、受け取りに行こう。またコムラータに行けばいいんだろう?」


 こうして、グワンガンは世界の屋根をゆったり迂回し、山間の道を通ってコムラータの町へ向かった。

 そこには南部大陸同盟の陸上戦艦もおり、町の大きなホールみたいなところで賞金の受け渡しがあった。


「ま……まさか環太平洋連合の方々がやってくださるとは。ありがとうございます。奴らはガザニーアの名誉に泥を塗りましたからね」


 ちょっと眉がピクピクしている黒い肌のおじさん。

 ガザニーア共和国の偉い人らしい。


「モンテロ永世大統領からの感謝状もございます」


「ありがとうございます。お役に立てたようで光栄ですと、大統領閣下にお伝え下さい」


 艦長がにやりと笑った。

 そして、偉い人と艦長が握手する姿が写真に収められた。


「あれ、悪い利用の仕方されませんかね」


「されるかもだが、金がもらえるからな。それに何があっても、ヤンヤンをけしかけて企みごと粉砕してやる」


 副長が艦長と何かボソボソ話し合ってる。

 私の名前が出ていたような……。


 コムラータの町では何があろうが絶対襲って来るまい、ということで、手に入れた賞金で豪遊した。

 ……とは言ってもコムラータなので、グエン共和国の支部があった街ほど凄いレストランはなかったのだけど。

 でも地元のお料理美味しいー。


 そして船に残っていたスタッフと交代。

 みんなが豪遊するのをグワンガンで待つことになった。

 スバスさんが一生懸命仕事を覚えているのを、遠くで眺めながらニコニコする私。


 賞金はとにかく多かったので、みんなで豪遊しても一割くらいしか減っていない。


「こいつで部品やら消耗品を多めに仕入れよう」


「機関部にもちょっと分けろや」


「俺一人で厨房切り盛りはさすがに面倒だからあと一人料理番を増やせ」


 船の中の幹部が集まってきて、取り分でわあわあ言っている。

 シェフ一人だけであれだけの仕事やってるの本当に凄いなあ。

 あの人、異常に料理作るの手際がいいんだよね。


 その後、船内で一番暇をしているのは誰だという話になり、ウーコンとサーコンが手伝いに回ることになった。

 えっ、つまりパイロットが全員厨房と兼務!?


「ヤンヤンの仕事ぶりから考えると厨房を手伝ってるのがおかしいんだがな!」


 とシェフ。

 でも私、厨房の手伝いをしてると無心になって落ち着くからなあ……。

 真っ先にまかない食べられるし。


「な、なぜ僕たちが手伝うっすかー!?」


「俺らはパイロットすよ! 船を守ってるす……」


「お前らこの一ヶ月撃墜数ゼロだし飛んですらいねえじゃねえか」


 艦長に言われてぐうの音も出ないウーコンとサーコンなのだった。

 見る人は見ているのだ……!


 こうしてお金を手に入れた私たちグワンガン隊。

 のんびりのんびり、ゆっくりゆっくりと支部に戻っていくことになる。


 艦長の計算では、一ヶ月くらい掛けて戻るつもりだったらしいのだけれども……。

 計算外が起こってしまった!


 途中で別の任務についていた陸上戦艦が合流してきたのだ。

 陸上戦艦ガンガルム。

 グワンガンより型が新しい船がすぐ近くまでやって来て、光のモールス信号で連絡をしてきた。


「ぐええ」


 甲板にいた私とオペレーターのウェーブさんと副長。

 特に副長が、踏まれたヒキガエルみたいな声を漏らした。


「どうしたんですか副長」


「あの船はな……おせっかいな艦長が乗ってるんだよ……。よりによって、通信機が故障してるようならこちらから資材を回すので修理手伝う、と連絡してきやがった」


 それはつまり……。

 艦長と副長が狙っていた時間稼ぎがここで終わってしまうことを意味していたのだ!


 戦艦ガンガルムが近づいてくる。

 グワンガンがグレーとモスグリーンみたいな色をしているのに対して、向こうは茶色。

 輸送能力に優れた船で、ゾウムシ型に変形するらしい。


 そして!

 船の横合いにある扉が開いて、艦長服姿の人が姿を現した!

 それがなんと、若いイケメン!


「久しぶりです先輩! そしてグワンガン隊の皆さん! 自分です! ハオシュエン大佐です!」


 うわーっ!!

 う、運命を感じるーっ!


 ……感じるか……?


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