第21話  ヤンヤン、放浪の旅に出る!

 戦いが終わったら、なんだがザーザー言う音がスアの中に響き渡った。

 なんだなんだー!

 新手の攻撃かな?


 私が警戒しながら、落とした機体から燃料槽をぶっこ抜いていると……。


『聞こえる? 子猫ちゃん。私だ。ツィン大尉だ』


「うおおっ、大尉!? ば、ばかな、この機体は一人乗りのはず……」


『グワンガンの整備部の方々に、通信機を取り付けておいてもらったのさ。戦闘中は敵の妨害電波で通じないけれどね。この様子だと、どうやら君は敵軍を撃破したようだ。しかも、完膚なきまでにね』


「は、はあ。相手が数に任せて油断してきたので割りと楽勝でした……」


 コサック軍よりも、前に戦った巨大MCから分離してきた中型MCの方が遥かに強かった。

 だってあいつ、簡単にコクピットを狙えないんだもの。

 面倒くさい相手だから、もう会いたくないなー。


『はっはっは。連合本部を攻め滅ぼしたコサック軍を、一部隊に過ぎないとは言え楽勝とは……! 君はまさしく、常識の埒外にいるな。私の見込んだとおりだ』


「は、は、どうも……」


 イケメンで俺様な物言いだなあ。

 この人が男だったら、猛烈にアタックしちゃうのに。


 私がアタックしようとした男は今まで二人くらい死んでるからなー。

 美男子薄命。

 美男子風美女は普通に生きるのだ。

 無情なり。


『この通信は、グワンガン艦橋にも届いている。応答できるのは君だけだがね。さあ、現状を説明しよう。ワダルクミン少将が内通者である証拠が得られた。これより軍の監査機関は、ワダルクミン少将を軍事裁判に掛けるべく動く予定だ。それで暫くの間、グワンガンは戻ってこない方がいいだろう』


「えっ、それはまたなんでですか!?」


 グエン共和国、若い人がたくさんいたから、絶対私の旦那様になりうるイケてる男もいるはずなのに。


『君たちがワダルクミンの指令を受けて出発し、今現在さしたる損害も受けていないからだ。つまり、コサックと組んで狂言行為を行っていたのではないかと疑われることになる』


「ば、ばかなーっ。それじゃあ共和国戻れないじゃないですかー!」


『ああ。馬鹿な話だ。だが人間は分かりやすい話に飛びつき、真実を蔑ろにするものだ。故に、真実が明らかになるまで、グワンガンはグエン共和国周辺を巡る遊撃部隊として活動を頼みたい。済まないが、食料、燃料は現地調達で頼む。環太平洋連合はボロボロだ。純血連邦も、南部大陸同盟も、連合に所属する国々を狙って動き出している。グワンガンはそんな侵略者たちに、一撃を浴びせる大いなる切り札として活躍すると私は期待しているよ。特に君だ、ヤンヤン上等兵』


「期待するのやめてもらっていいですか……!」


『期待している!』


「いやーん!」


 通信が切れた。

 なんたることだ!!

 私は!

 MCの操縦が得意だが!

 スアを操って戦っているのは仕事だからやってるだけなのだ!


「おおお……別にこれにこだわりも矜持もなくて、ただただやられるのが嫌だから一方的にやっつけているだけなのに……!」


 世の中はとにかく私に婚活をさせてくれないらしい。

 おのれーっ。


 私はぷりぷりと怒りながら、グワンガンに戻っていった。

 そうすると、整備部の人達がやんややんやと喝采して出迎えてくれるではないか。


「ヤンヤンありがとうな! これでまた補給用の資材がたっぷり手に入ったぜ!」


 整備長がニッコニコだ。


「ただ、流石に資材が多すぎるからな。ちょっとみんなで戦艦一つバラして、資材運搬用の荷車を作ろうって話になっててな」


「ははあ、それでテンションが高い……」


「ヤンヤンはまるで親族が死んだみたいな意気消沈ぶりじゃないか」


「こう、運命がことごとく私の婚活を邪魔するので……」


「今まで立ちふさがる運命をみんな蹴散らしてきただろうが。また蹴散らせばいい。運命ってクソッタレなやつを全部ぶっ倒したらいい男が出てくるんじゃねえか?」


 私、ハッとする……!

 整備長いいこと言うなあ!

 さすが年の功だ。


「なるほどー。ポジティブじゃなきゃいい男も来ないですよねー! あ、じゃあスアの整備お願いします! 私、シェフのお手伝いしてきますねー!」


「おうおう! ヤンヤンはよく働くから偉いよなあ。それに比べると……」


 ウーコンとサーコンが堂々と戻ってきた。

 戦艦の近くでじっとしていたから、ヴァルクは無傷だもんね……!


「整備長、この人たちはなんか遠くから攻撃する用の武器がいいのではないですか」


「MCで狙撃するとFM弾の的だぞ? まあ、前線出てもこいつらなら的か……」


「ひでえっすよ!」


「だが言い返せないす」


 なんだかんだで今までの凄い戦いを、上手く隠れたり気配を消したりしてやり過ごしてきた二人だもんねえ。

 とにかく、どんな装備を用意するにせよ、コサック軍の一部隊ぶんの資材がまるごと手に入ったのだから問題ない。

 しばらくここで荷車を作りながら部品をより分け、ひっくり返った陸上戦艦から食料なんかを回収して過ごすらしい。


 うーん、うちの部隊、自由だなあ……。


 こうして、正式に基地に帰ってくるなと命令されたグワンガン隊。

 艦長は実に清々した表情で通信機のスイッチを切った。

 切っちゃうんだ!


 シェフ謹製の祝勝フライドチキンを持ってきた私は、驚きと、まあこの艦長ならやるだろうね!という気持ちでいっぱいになった。


「これからどうするんですか艦長?」


「そうだなあ……アチチ」


 揚げたてフライドチキンをかじりながら、艦長はちょっと考える。


「華国のコサック軍基地を見に行くか。迎撃が出てきたらヤンヤンに蹴散らしてもらって、ちょこちょこ嫌がらせしよう」


「うちの部隊、自由だなあ……」


 しみじみと思ってしまうのだった。


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