婚活・ロボ戦記~目指せ最強の旦那さまゲット! だけど最強パイロットが私だったので詰みました。あーあ~
あけちともあき
第1話 ヤンヤン、戦場に立つ!~いや婚活が目的なんですけど~1
陸上戦艦は気楽な職場。
日に三回、厨房でシェフのお手伝いをすればいいんだもんね。
「おいヤンヤン! やめろ! 料理に手を出すな! ああ、そいつはパクチーだ! ケーキに入れるんじゃない!」
「あっ、すみませんシェフ」
「シェフじゃねえ! 俺はポットム軍曹だ! あのな、軍はコックも軍人なの! 軍曹って呼べ」
「はい、シェフ軍曹」
「シェフが名前みたいじゃねえか!」
うちの厨房のシェフは、ちょっと怒りっぽいけど面倒見がいい。
料理が全然できない私を、調理補佐として根気よく育ててくれているからだ。
お蔭で、私はサラダくらいならどうにか作れるようになった……。
まだ火を任せてもらえないけど。
「掃除をすれば格納庫の開閉装置にモップを挟んで故障させるし、オペレーターの真似事をさせたら将軍にタメ口聞いてバチクソ切れられるし、機関なんか怖くて関わらせられねえよ! だが人手不足だ。この厨房なら一番お前の被害が少ねえからな……」
「はい! 置いてくださって感謝してますシェフ!」
「シェフじゃねえ! よし、ケーキ出来上がりだ! 持ってってくれ! みんな甘味に飢えてるからな!」
「はいシェフ!」
「シェフじゃねえ!」
ポットム軍曹はムキムキマッチョのスキンヘッドで大変強そうだ。
あと十歳くらい若かったら私の婚活の対象になってたかも知れない。
故郷に奥さんと娘さんもいるそうで、戦争が終わったら二人を連れて旅行に行きたいとか言っていた。
そういうのフラグって言うんでしょ。
じいさまたちから教わったもん。
「しかし、あいつをなんだってモーターキャバルリー(MC)に乗せたりしたんだ、少尉は? さっぱり分からん。パイロットなんざ、一番難しい仕事だろうがよ」
最後にシェフのぼやきが聞こえた。
そう。
私は調理見習いのついでに、MCの操縦を教えてもらっている。
つまり、パイロット見習い……いや、見習い候補の補欠の予備心得……くらいのポジション。
マクフィー少尉という上官が、特別に私に操縦を教えて下さったのだ。
この人がもう、イケメンですらっとしてて、まあまあ若くて凄腕のパイロットなのだ!
目下私の旦那様候補ナンバーワンだが、当然のように艦内の人気も高い……。
おのれ、マクフィー少尉はやらんぞ……!!
パイロット見習いも、実は私が猛アタックを仕掛けたから、彼がいつもみたいな困った笑顔を浮かべて教えてくれているというのが正しい……。
つまり、脈があるということだ。
明白だね。
さて、この焼き立てケーキを、まずはマクフィー少尉に届けようじゃないか。
いつも船と私を守ってくれてありがとうございます!という極上の笑顔とともにお届けする……。
フフフ、完璧だ。
艦内の他の女たちよりも私は一歩……いや何歩もリードすることだろう。
途中、鏡面のように磨き上げられた窓ガラスで身だしなみをチェックする。
ボブカットの黒髪。
割りと白い肌。
ちょっと細いけど猫っぽくて可愛いと思っている目。
よしよし。
胸や尻は大したことないが、きっと育つだろう。
未来に期待だ。
つまり私の可能性は無限大。
マクフィー少尉、お買い得ですよ……。
ガタガタと揺れる戦艦の上を、スキップ混じりに格納庫まで向かう。
陸上戦艦の乗り心地は最悪だ。
慣れないと確実に酔うし、三半規管が弱い人は絶対に乗り込めない。
さらに、変形して戦闘形態になるとさらに地獄のような乗り心地になる。
幸い、私は三半規管が鋼でできていたので秒で慣れた。
揺れの中で、ケーキを落とさない完璧な足運びとスキップ!
ははは、格納庫へ向かうこの足取りが、私を人生のゴールインへと運んで行ってくれるわ!
そんなところへ、鳴り響く艦内放送。
『これより当艦は戦闘態勢に入ります! 総員、耐衝撃姿勢! 陸戦グワンガン、バトルモード!』
「マジかー!!」
私は慌てて格納庫に滑り込んだ。
周囲の装甲板がギチギチ音を立てて変形していく。
戦艦の後部が畳み込まれて、上に被さる……。
あっ、六本足が展開してきた。
これから揺れが十倍くらいになる歩行モードが来る。
ケーキはもう駄目かも知れん。
『グワンガン、スタンディング! 続いて迎撃を! ノック、発進態勢どうぞ!』
私の目の前で、格納庫が変形した。
MCが通るための通路が開いていき、その先はカブトムシの角みたいになった滑走路。
飛び出してきたのは、モーターキャバルリー(MC)のノック。
この船に三機だけある、まともに使えるロボット兵器みたいな?
それが猛烈な勢いでぶっ飛んでいった。
轟音、爆音。ああー、耳がバカになる~!
風に煽られて、私がよろける。
ケーキ群が空を飛ぶ。
「あーれー! 私のゴールインへの近道ぃ~! さよなら、ケーキィィィィ! やっぱりパクチーとか入れて重くしておけばよかったかもー!」
ノックが三機連続で飛んでいった後で、私はぺしゃりと地面に倒れた。
真横に落っこちたケーキは着地失敗してペチャッと潰れる。
「なんだ、いたのか小娘。危ねえから発進シークエンス中に格納庫入ってくるんじゃねえ!」
整備長の怒鳴り声が妙に遠くから聞こえた。
近くまでやって来て、無惨な姿になったケーキを見下ろして、彼は肩をすくめた。
「なんでえ、ケーキ持ってきてたのか。マクフィーならもう出撃したぞ。今回の戦いは……ちと厳しいかも知れんな」
良いお年の整備長が顔をしかめている。
なんだなんだ。
何を縁起でもないことを言っているのだ。
「マクフィー少尉ならかっこよく敵を倒して戻ってきて、そして私のプロポーズを受けてくれるに決まってるじゃないですかあ!」
「後半お前の願望じゃねえか!」
そりゃあもう、私は婚活中ですから。
狙った獲物は逃さない!
なるべく!
だが……。
そんな私の耳に、悲しいお知らせが届く。
『ノ……ノック一号機、撃墜! あっ』
艦内放送が慌てたようにぶつ切りになった。
「オペレーターのお嬢ちゃん、慌ててスイッチ間違ったな? だがこれは……。やべえ、やべえぞ」
「ノック一号機……それってマクフィー少尉の乗機では……?」
マクフィー少尉が撃墜!?
私の旦那様筆頭候補が!?
いや、まだ一人しかいないけど!
「整備長!」
私は勢いよく立ち上がった。
「な、なんだ」
「私、マクフィー少尉を助けに行ってきます! 練習機乗ります!」
「お前、バカか! そんなもんで練習中のお前が出ても……おい! おーい!」
私は格納庫の中に飛び込む。
そこの一番奥に鎮座しているのは、私専用の練習機。
敵軍から鹵獲されたひと世代前の機体を、ペンキで塗ったやつ!
「行くよ、相棒! マクフィーを助ける!」
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