第7話 ヤンヤン、要塞を攻略する!1

「遠くに見えるあれが、プーチーファー山要塞ですか」


 山の中腹に、陸上戦艦やなんか飛びそうなデザインの船がたくさん組み合わさって、要塞と呼べなくもなさそうなものを作っている。


「あれ、明らかにガリア軍? とか言うのの凄く大勢力なんですけど、あれをこのあちこち錆が浮いてるオンボロで攻略するんですか? 無理では?」


 私の冷静な指摘に、整備長が顔をしかめた。


「突撃して死ねって言ってんだよ上は。アホらしい」


「ええーっ、なんてこと! それじゃあ結婚できない!」


「のんきだなあお前は……。いいか、グワンガンには三機のMCしかいねえ。それにこの船自体が十五年前に作られたロートルだ。そいつを技術で勝るガリア軍の、おそらく侵略部隊みたいなのにぶつけるんだ。こりゃ、あちらの戦力を観察する目的だろうよ」


「ひええええ、ひどい~!」


「本当にひでえ。そして俺らが任務を放り投げて逃げるとするだろ。そうしたら今度は反逆者扱いされて殺されるってわけだ」


「ひええええ、もっとひどい~! 軍は横暴すぎでは」


「あっちこっちで環太平洋連合は負けてるからな。とにかく捨て石でも何でも使って攻めたいんだろうよ。せっかく拾った命なのに残念だったなヤンヤン」


「えーん。じゃあ生き残るには、アレを全滅させないといけないじゃないですか。私は平和主義者だけど、仕方ないなあ……やるかあ」


 整備長が真顔になった。


「やれると思ってんのか?」


「スアが強くなったんで、まあそこそこ行けるんじゃないかと……」


「……分かった。お前に全て任せた……!」


 そういうことになった。

 これ、艦長も丸投げしてきた。

 あの人でもこの状況は、どうしようもないみたい。


 それじゃあ、出撃です。

 グワンガンはカブトムシモードに変形していて、角の先端が滑走路になっている。


 ウーコンとサーコンは相手のヴァルクとかいうMCを鹵獲していて、これに赤と青の色を塗って使うつもりらしい。


「せめて敵に打撃を加えてから死ぬっす!」


「犬死にはしないす!」


「死ぬ気じゃーん!! 弱腰だぞ根性入れろ二人ともー!! 腰抜け男ー!」


「ヤンヤン、僕らは上官っすよ!?」


「二階級特進したら次は中尉すよ!?」


「死ぬ前提じゃん! 私はこの仕事から戻って、上等兵に進級するんでーす!」


 ぎゃあぎゃあ言い合いながら、出撃した。

 ちなみに私、整備長に裏技を教えてもらった。


 敵を撃墜しても爆発してなければ、胴体から燃料槽をぶっこ抜けるんだって。

 これを補給すれば、燃料切れを回避して動き続けられるって。

 現実的には無理だけどな、がっはっは!とか笑ってたけど、整備長もうヤケクソでしょー。


 私たちがビューンと飛んでいくと、向こうから迎撃のためにどんどんMCが発進してきた。

 うわあ、どんどん来るなあ。

 とりあえず一機射撃して落としておくね。


「えいや!」


 マシンガンを一斉射。

 三発だけ出た。

 このちょっとだけ出すのが技なのよ……。


 一発目で相手をびっくりさせつつ、射撃位置を確定して……

 残る弾丸はスーッと一機のコクピットに吸い込まれて行った。

 全く同じ箇所に弾丸が連続で当たって貫いて、向こうの機体が大人しくなった。


 スーッと降下していく。


『うわーっ今何やったんすか!!』


「一瞬だけマシンガンを撃っただけだが?」


『なんでそれを正確にコクピットに当てられてるっすか!?』


「マシンガンの揺れってほら、パターンあるじゃん。敵の機体の癖も覚えたし」


 一斉射ずつ、ちょっぴりずつをちょい、ちょい、ちょい、と射つ。

 相手が牽制でマシンガン使ってくるんだけど、ほんとに弾丸も予算も潤沢なところは羨ましいですねえ。

 当てなくていいんだもん。


 その弾薬よこせえ!


『あっあっ、接敵するまえにどんどん敵が落ちるっす!』


『なんだこれ、なんだこれ!? 冗談みたいす!!』


「射撃なんて的に当てるだけなんだから簡単ですよ……」


『何言ってんすかこいつ』


 それでも敵の数が多いので、十五機くらい落としたところで残る二機に接敵されてしまった。

 マシンガンの弾は尽きたよ……!


『ばっ、化け物めえええええ!!』


「失礼なことオープン回線で言うなー!」


 相手が接近専用ナイフを展開して切りかかってきた。

 スアの近接武器は……そんな上等なものありません!


 迫ってくるナイフを、弾切れマシンガンで受け止める。

 カツーンと弾けたところで、相手のコクピットをガーンと蹴り飛ばした。


『ウグワーッ!』


 動きが鈍ってるし。

 ひしゃげたコクピット目掛けて、マシンガンの銃床で二回ぶん殴った。

 コクピットがめり込んで、敵機が動かなくなる。


 そのまま落下していく……。

 そこでマシンガンを奪って、残りの一機を撃っておいた。


 ウーコンとサーコンやられそうだったじゃん!


「何やってんのー!」


『いやいやいや』


『むりむりむり』


 なんか弱音を吐く兄弟は放っておいて、私は掴んだ敵機といっしょに着陸した。

 燃料槽は……あ、ここね!

 ぶっこ抜く。


 さっきの戦闘で消費した分を、これで補給。

 向こうはなかなか次を出してこれないでしょう。

 ゆっくりと作業を進めよう……。


『あっあっ、ヤンヤン! 巡洋艦が動き出した!』


『ヤバいヤバいヤバい!』


「ちょっと待ってて! 補給は急には終わらないからー! あ、これ使えない? バックパック生きてるじゃん。引っ剥がして……」


 敵機のバックパックを剥がして、点火する。

 すると猛烈な勢いで、それはスアごと飛び上がり始める。


 すっごい推力だあ。

 スアの何倍ある?

 新型は違うなあ……。


 潤沢に新型機を使い潰せる環境はいいですなあ。

 でも、すぐに落とされるということはあまりいい男は乗っていなかったに違いない……。


 私は残念な気持ちで飛翔する。

 上昇を開始していた飛行巡洋艦の直上まですぐに到達した。


 なんか対空砲みたいなのがバリバリ飛んでくる。

 ハハハ、こんなのに当たる人はいないでしょ。


 私はこれをちょいちょい避けながら、巡洋艦の艦橋目掛けてバックパックを放り投げた。

 スアをやすやす持ち上げるほどの推力が、何のウェイトも無いまま、すっごい速度で突っ込んでいく。


 それは私の狙い通りに対空砲の射線をくぐり抜けると、そのまま艦橋に突き刺さった。

 大爆発。


「よっしゃあー!」


 飛行巡洋艦が巨体を傾がせ、急速に落下していく……。

 それが陸上戦艦に突き刺さる様子を、私は特等席で眺めながら……。


「ガリア軍はイケてる旦那様候補がいなかったのかも知れない……」


 そう呟いたのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る