第6話 ヤンヤン、噂になる!

 北欧純血連邦、その一派閥がガリア軍である。

 環太平洋連合の一刻、ホホエミ王国方面へ進出した彼らは、ただ一隻で森林を耕していく陸上戦艦を発見した。


 ガリア軍はこの陸上戦艦を攻撃。

 相手は甲虫型への変形機構を持つ旧式。

 モーターキャバルリー積載数は最大で四機。


 対するのは、飛行巡洋艦三隻と、MC十二機。

 勝負にもなるまいと思われた。


「なぜ敗れたのか?」


 ガリア軍が山中に築いた要塞にて、鋭い声が響き渡る。


「環太平洋連合の機体は全て、連邦のMCのダウングレードである。数だけを揃えた寄せ集めだ。その数も、度重なる敗戦で揃えることは叶わなくなってきている。我ら連邦の勝利は近い。そんな時に、この大敗戦はどうしたことだ!? 十二機のMCが全滅! パイロットの生存数も三名のみ! 一体何があったというのだ!」


「そ、それが……。ご覧頂いたこの機体……我々はタイガーと呼んでいますが」


「タイガー……? アルバトロス型の鹵獲機ではないか」


 ガリア軍が擁する、機甲師団。

 その中でも飛行巡洋艦と、それに配備されたMCは新型揃いである。


 これらを迎撃するために陸上戦艦より発進してきたのは、やはり前時代兵器のノック。

 連邦のアルバトロスを模倣して作られたと思われる機体だが、装甲は脆弱。

 唯一勝るのは旋回性能のみ。


 ましてや、問題の鹵獲アルバトロス級など。

 三世代は古いではないか。


「なぜだ。なぜ敗れた!」


「え、映像を御覧ください」


 怒声を張り上げる、ガリア軍幹部は、機体が捉えた戦闘の映像を目にすることになる。

 連合のノック三機を易々と撃墜したガリア軍。


 残るは旧式の陸上戦艦のみ……。

 だが、そこから一機の虎縞MCが猛烈な勢いで飛び出してくる。


 あの推力は、アルバトロスのそれではない。

 だが、それ故にアルバトロス型の構造では推力を支えられまい。

 遠からず燃料切れか、あるいは空中分解する。


 そんな危うげな状態な機体が、射撃を回避しながら一機に対して肉薄。

 武器を奪い、翼を蹴り壊した。

 そればかりではなく、辛うじて飛翔する機体を足場にして、悠然と立ち上がったのである。


「な……なんだ、あの挙動は……」


「映像を解析した結果、あの機体は戦闘中に二十回、空中分解しているはずです。ですが、分解する動きを知り尽くしたとしか思えない挙動で、それを防ぎ、その不規則な動きを防御に転用……」


 映像に分析された結果の説明が添付される。


「つまり……空中分解しながら、それを空中で再構成し、その度に挙動をキャンセルして戦闘を継続したということか!? 馬鹿な、そんなことができるはずがない」


「全てのパーツが可動しています。FM弾頭では狙いを付けることができません……! 我が軍の攻撃は全て回避され、逆にタイガーの攻撃は命中……!」


 次々に撃ち落とされ、あるいは新たな土台にされていく新型機たち。

 ヴァルク……鷹の名を冠する彼らが、まるで腕利きの猟師に狙われた獲物の如く次々に翼を失って落下していく。


 これを見た飛行巡洋艦は、慌てて回頭した。

 その直後に、十二機のヴァルクは全滅。


 最後に映像を残した機体の眼前にタイガーが迫り、全てが途切れた。


「新型ではないのか?」


「その可能性はあります。アルバトロス型の装甲で偽装した、連合の新型……。いや、奴らにこんなものを作る技術など……。カラードどもにそんな力は残っていないはず……。それに、こんな狂気に満ちた機体が運用できるはずがない!」


「敵を侮るな。起こったことが真実だ。だが、所詮は一機のMCに過ぎん。戦況を変えることなどできはするまい……」


 ガリア軍はこう結論づけた。

 そして敗北の原因を、敵新型のデータ不足ということにした。


 敵陸上戦艦の居場所は分かっている。

 慌てて叩く必要もない。


 それは、あまりにも楽天的な考えだったが……神ならぬ彼らに、タイガーがやがて与えてくるであろう、恐るべき被害を想像することなどできないのだった。


 ※



「暇ですねー。平和ですねー」


 本日の訓練から帰ってきた私。

 なんかスアの動き、安定してる感じがする。

 違和感~。


 今までジャンク品みたいなMWにずっと乗ってたもんね。

 せっかくなので、鹵獲した敵機の部品を色々取り付けてもらうことにした。


「ヤンヤン、これはちょっとアンバランスですよ」


「そうそう。ユニバーサルデザインって言ってもこんなゴテゴテしたバックパックじゃまともに動けなくない? 推力と推力が喧嘩するよ」


「え、でも超スピードが出そうじゃない? やってくださいよー」


 仕方ないなあ、とスアを強化してくれる整備の人たち。

 優しい~。


「ま、ジャンクっつうかガラクタみたいなMCで船を守ったトップエース様だからな。一般的にはデタラメにしか見えねえ機体でも、ひょっとしたらひょっとするかも知れねえ。何せ、船にはお前一人しか戦力が無いんだからな」


「整備長話が分かる~!」


 敵の新型の弾薬を回収できたのは大きかった!

 しばらく弾には困らなそう。


 撃墜するたびに部品が手に入るし……。

 次の襲撃来ないかなー。


 それに、敵のパイロットの中に凄いイケてる男の人とかいそうじゃない?

 旦那様候補……!

 早く来い、早く来い!


 私は次なるスアとの出撃を心待ちにするのだった。


 そんなある日。

 本部との連絡が回復する。

 連合本部はこちらからの報告をろくに聞くこと無く、命令だけを一方的に叩きつけてきたらしい。


 それは……。


「プーチーファー山の中腹に設置されたガリア軍要塞に攻撃せよ……だとぉ……? こっちは陸上戦艦一隻だぜ! バンザイアタックしろって言ってるようなもんじゃねえか!」


 整備長が怒りの声を張り上げている。

 どうやら新たな出会いが近づいているみたいなのだ!

 

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