第25話 ヤンヤン、何度目かの運命の出会いをする!

『グワンガン隊、お手柄……どころの話じゃない! やり過ぎだ。お陰でワダルクミン追求どころではなくなってしまった』


 ツィン大尉からの連絡が大変複雑な感情を抱いてらっしゃいそうだった。

 スアのコクピットに作られた通信機から聞こえる声に、いつもの余裕がないぞ。


「えっ、やっちゃいけない系でしたか!」


『いや、いい。いつかは必ずやらねばならないことだったからな。だが、それは今では無いというか、本来不可能なはずだった……! それを君がやってしまった。これがどういう意味か分かるか?』


「????」


『その間は分かってないという間だな! つまりだ。華国奪還がスタートすることになったということだ。君たちグワンガン隊はこの作戦への参加をすることになる。……とは言っても、コサック軍連隊が壊滅しているのだから、連合上層部のお歴々が手柄を立てるためだけの話になるだろうがな……』


「はあはあ。つまり私たちは楽ができると」


『結果的に楽になるだろう。君たちはミコシだ。これは日国の言葉で、上に担がれるお飾りというような意味だ。飾りを戦わせることにはなるまい。だが、裏では君たちに接触し、自らの勢力に引き込もうとする連中が次々現れる。厄介だぞ』


「ひええええ」


『私からの忠告は……。君たちお得意の、通信機の故障でも起これば厄介事からは遠ざかることができるだろうということだ』


「な、なるほどー」


 と、ここまで来たところで、ブツンと通信が切れた。

 こ、これは一体~!!


 後で聞いた話では、ここまでを理解した艦長と副長が、二人で斧を握って通信機を破壊したんだそうだ。

 これで支部との連絡は物理的に取れない!

 グワンガンは晴れて自由です。


 我らが陸上戦艦は、華国方面から90度直角に進行方向を曲げ、華国は元バトーキン自治区と呼ばれていたところに向かった。

 ここは北欧純血連邦が侵攻してきてから、次々に内通者が出てあっという間に攻め滅ぼされたんだよね。

 ここにいた人たちは連邦についたはずだけど……。


 随分寂れてますねえ……。


「やっぱコサック軍が攻めてくると貧しくなるっすからねー」


「連邦は色の付いた肌の連中を見下してるすからねー」


 ウーコンとサーコン!

 私が帰ってきてからしばらく気配を消していたけど、ほとぼりが冷めたと見てまた活動を始めたか。

 でも、色々詳しいのはありがたいのだ。


「そうなんだー。何言ってるか全然分からないし、分かる前に全部やっつけちゃうから分からなかったよ……」


「それはヤンヤンがおかしいっすねー」


「向こうからしたら見下してる色付き肌に完膚なきまでに壊滅させられて一矢報いることすらできないの、最悪の屈辱すねー。こちらからすると超気持ちいいす」


「ウーコンとサーコンも頑張ろう!」


「僕らはほら、後方支援っすからね! グワンガンを守らないと!」


 あっ、二人とも逃げた!

 頑張る気がないなー!


 さて、バトーキン自治区に降り立った私。

 MWを駆って、ガッチャンガッチャンと町中を走る。

 これは……私の故郷よりもちょっとだけ都会なくらい……つまりど田舎!


 お年寄りしかいないのでは……!?

 私は危惧した。


 だけど心配はいらなかったみたいだ。


「止まれ!」


 なんか威嚇射撃でバキューンと鳴った。

 でも私はすっかり銃の気配とか音とか理解しきっているので、これが空砲だと一発でわかった。


「なんですかねー」


 無視してガッチャンガッチャン走らせていたら、慌ててその辺りの建物からわらわら人が出てきた。

 男女色々いるなあ。


「お、おいこら止まれー!!」


 なまりのある華国語だ。

 私は父が華僑なのでまあまあ分かる。


「盗賊かも知れないので止まらない!」


「違う違う! コサック兵だと思ったんだ! あんた連合の兵士だろ! ……兵士? 作業服……兵士じゃない……?」


 あっ、疑問を感じたな。

 私は軍服が支給される間もなく支部を旅立ったので、未だに整備の人たち用の一番小さい作業服を着ているのだ……。


「あっ、軍人です。パイロットです」


 パイロットだと言ったら、みんな一瞬緊張が走ったあと、すぐに緊張が解けた。


「ははは、冗談が上手い」


「なるほど、連合の兵士が走り回っているってことは、コサックは撤退したみたいだな」


「やった! 俺たちレジスタンスの勝利だ!」


「というか、通信を傍受したらこっちにあったコサック軍の基地が壊滅したとか。連合そんなに強いのか……?」


「華国の連中が戻ってくるんだろ? あいつらだってコサックと一緒だ! 俺はまだ戦うのを止めない!!」


 なんか内側で盛り上がってますねえ。


「私はそっち方面は関係がないので通過しますねー」


 ガッチャンガッチャンとMWで通過していく。


「あっこら」


「めちゃくちゃ度胸がある女だ!!」


「恐怖という感情が無いのか」


「まるでこっちの弾が少ないから、威嚇射撃ができないことをよく知っているかのようだ……」


 やはり。


「任せろ! 俺が彼女を止める!」


 おや?

 なんか凛々しい声がした。

 その直後、パカラッパカラッと音が聞こえる。


 こ、この足音は……。

 振り返ったら、馬だった。


 馬に乗って、精悍な顔立ちの青年が追ってくる。

 正直言って、かなり私の好みだ!!

 おいおいおい、いきなり目的達成しちゃったよ!


「待て! 待ってくれ! 詳しい話を聞かせてほしいんだ!!」


「あっ! はい!! 詳しい話を教えまーす!!」


 私は俄然やる気になったのだった。

 うおお運命の出会いなんではないかこれはー!!


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