第24話 ヤンヤン、愛機を休ませる!
「あー、ダメだなこりゃ。むちゃくちゃやり過ぎたな」
整備長が困った顔をしている。
「はあ、ダメですか」
「ダメだなあ……。とんでもねえ偉業を達成したのは間違いないが、スアにはもう無理なレベルの行為だったわけだ。一機で二百機落とすとか頭おかしいからな……。そもそも、こいつはあれだ。純血連邦の旧式を鹵獲したやつだ。多少ガタが来てたんだよ」
「あー」
私は目の前のスアを見上げた。
いつものように、格納庫に鎮座しているスアは、何も変わらないように見える。
だけど整備長いわく、中身はガタガタになってもう使い物にならないらしい。
なんということでしょう。
我ながらあんな長い搭乗は初めてだったけど、スアにとっても無茶だったのかあ……。
「ごめんねスア。私がカッとなったばっかりに」
虎縞の愛機は何も言わないけど、でもなんだかちょっと満足げに見えた。
自分の引退戦になる戦いで物凄いことをやってのけたからだろうか。
「……だが、それは機体の本体部分だけの話でな。装甲とコクピットは使える。それにスアの制御系にはヤンヤン、お前の動きが叩き込まれてるんだ。こいつは連合にとって、とんでもない財産だぞ。使いこなせるやつがいるとは思えんが」
「えっ、どういうことです?」
情報量が多かったので、細かいところをご説明いただいた。
つまり、アルバトロスという機体だった部分は全部ダメだけど、外側の装甲とコクピットが無事ということ……。
「俺がさっき言ったじゃねえか! 話を聞けよー」
「あーすみませんすみません。んじゃあ、機体は……あっ! コサック軍のを使えば!」
「そうだな、それで行くか! 散々戦って、あいつらの機体の癖は分かってきただろ」
「もう覚えましたねー」
自分で動かすのはまた別かもだけど。
こうして、スアは一旦バラされて、新生スアとして生まれ変わることになったのだった。
整備の人達に混じって、油まみれになってバリバリ仕事をしていると、艦長がニコニコしながら歩み寄ってきた。
「ヤンヤン! よくやってくれた! いや、よくぞやってくれた! クソコサックどもを皆殺しに! いやあ、素晴らしい! よくやってくれた! 俺の中にあった胸のつかえがスーッと取れた」
「あんな笑顔の艦長初めて見た」
「コサックども、連合を追っ払ったから完全に油断してやがったんだな。お陰でヤンヤンが懐まで入り込むことができたってわけだ。やる気がなかったヤンヤンがどうしてやる気になったかは不思議だが、詮索しないでおこう……。そうだ、戦時昇進でヤンヤン、お前は今日から伍長だ! ヤンヤン伍長、これからも励んでくれ。……いや、遊撃任務なので何に励むかと言うとなかなか難しいが。ああ、これは俺のポケットマネーだがあとで手を洗ってから受け取っておいてくれ。なに、礼はいい! わはははは! とてもいい気分だ!」
去って行ってしまった!
なんだなんだ。
そうしたら、やっぱり油で真っ黒な整備長がやってきてニヤリと笑った。
「艦長、異常に機嫌が良かったな。人生に刺さってた魚の骨みたいなのが全部抜けたからな」
「そうなんですか?」
「そうなんですかって、お前さんがやったんだろうが、ヤンヤン! 艦長は華国の連合本部をコサックどもに攻め落とされた時にトラウマを負ったって話だろうが。そのもとをお前さんがギタギタにやっつけたんだ。スッキリするに決まっているだろうが」
「そんなもんですかねえ」
「そうだよ。ま、ヤンヤンはまだ若いからわからんだろう。というかお前、うちのエースパイロットなんだから整備兵に混じって作業しなくていいんだぞ」
「いやー、なんかついノリで……。スアはうちの子ですしー」
「ほう」
なんか嬉しそうな顔をする整備長。
「ま、うちとしては素人が邪魔しなきゃいいんだ。難しいことはすんなよ? だがまあ、ユニバーサルデザインってのは楽だな。別の機体の部品でもパチパチと簡単に合わさっちまう」
眼の前では、スアのコクピットブロックと装甲板が転がされていて、これから中身になるコサック軍の機体が組み立てられていた。
おお、みるみるできていく……。
むしろスアから部品を外す方が大変だったよなあ。
新生スアは前よりも少しだけ大きくなった。
整備長がアドリブで、コサック軍の機体にガザニーアの機体のいいところを付け足して、ここにノックの部品を組み合わせているわけだ。
「面白いもんでな。機体の基本性能ならコサック軍のがピカイチだ。だが、バックパックが凡庸だ。優れた機体性能が泣くな。しかもコサック軍は画一的な運用をすることで、機体の良さを殺している。それに対してガザニーアの機体はピーキーだ。こんなもんを大量配備なんて頭がおかしい。AIによる補助満載で、夜間戦闘特化だな。だが……バックパックが最高だ。今考えられる限りで最高の速度と機動力を両立させている。つまり、コサックの機体とガザニーアのバックパックを合わせ、マイルドな機体動作のためにノックの駆動を組み合わせると……」
「おおーっ!! ……どうなるんです?」
「……まあ難しいから分からんだろうな。つまり強くなるんだ」
「なるほどぉ……」
よく分からないが、部品をペタペタ取り付けてもらっている新生スアは、なんだか嬉しそうに見えたのだった。
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