第33話 ヤンヤン、お月見をする!
「グワンガンあんな堅いんですか!? 私いなくてよかったんでは?」
私の第一声はそれだった。
スアで戻ってきたら、わーっと整備士の人たちが集まってきた。
「凄いなヤンヤン! いやあ、MCは細かいところを攻撃できるだろ。グワンガンはでかいから、中に入り込みやすいんだ。そうなったら終わりだよ」
「なるほどー」
やっぱりMCは絶対必要なのね。
ウーコンとサーコンも集まってきた……。
「おいっ!」
「な、なんっすか」
「なんすかー」
「ずっと隠れてて、最後は勝手に引っ込んだでしょー」
「そ、そんなこと言われてもあの異常なバトルに参加したら僕ら絶対死んでたっすよ!?」
「二階級特進はいやす~!!」
「この間は昇進するって言ってたじゃーん!」
「命が助かって命が惜しくなったっすー!!」
わあわあと言い合っていると、整備長がMWで落とした敵の機体を引きずってきた。
「新型だぞ、新型! 胴体は全部ダメになってるが、腕や足はまだ使える! いやあ、こんな作りのMC見たことねえなあ」
整備長の凄い勢いで、ウーコンとサーコンの件は有耶無耶になった。
まあ確かにこの二人なら、あの黒いMCに一瞬でやられそうな気がする……。
それはそれで、パイロットが私一人というのも寂しいし。
ウーコンとサーコンでも華国軍相手には戦えそうだし。
あ、華国は一応同じ連合か!
うちの連合あんなのばっかりだったら、それは負けるよねー。
うんうん頷きながら作業服を脱いで、整備士の人に預ける。
汗びっしょりですよー。
「あ、そうだ! あのね、コクピットにドリンクホルダー増やしておいて下さい! 割りと長く戦ったりすることあるのでー」
この間の華国との戦いは長引いたからね……。
いやいや、華国は本来は味方だって。
……あんなのが味方ぁ?
あれよりは、今日やりあった黒いMCの方がなんとなくだけど理解し合えそうな気がする……!
ガーッとシャワーを浴びたのだ。
そしてふと思い立つ。
「めちゃくちゃ綺麗な月が出てたんだった!」
砂漠の夜は冷えるというので、私はもこもこに着込んで滑走路に出た。
砂漠を渡るグワンガンは、ずっとバトルモードのままだ。
これは六本足の方が歩きやすいからだそうで……。
「おおー、ヤンヤン来た」
「おいでおいで。シェフが団子を作ってくれたから。温かいお茶もあるよー」
メガネさんとおチビさんのオペレーターコンビが先に来ている。
「わーい、ご一緒しまーす」
二人の横に腰掛ける。
おお、滑走路に敷物が……。
これなら金属に触れないから冷たくならないのね。
三人並んで月を見上げ、お団子とお茶をいただくのだ。
「いやあ、いつもどうなるかと思うけど、ヤンヤンがいるとどうにかなっちゃうねえ……」
しみじみとメガネさんが呟くのだ。
「いやいや、私なんてそんな。未だにいい男の一人も捕まえられないちんちくりんですから……」
「そいつはヤンヤン、運がね……!」
おチビさんが肩をすくめる。
みんな、私の目的が婚活で、いい男が見つかったら結婚してさっさと退役してどこかの町でご普通のシアワセな暮らしをする予定だということを知っているのだ。
おお、なんという遠大な目的だろうか……!
最初はそこそこイケるでしょくらいの気持ちだったのに、今ではなんと遠大な計画だったのだろうと思うばかりだ。
「ヤンヤンが気になった男性大体死ぬよね」
「うっ、気にしてたことを……」
「おチビ! 触れてはならんことに触れてしまった……」
「うおおーん」
「ほら、泣いちゃった!」
「あー、ごめんごめん! じゃあさ、ヤンヤンは頑張って好きになった男が死なない世界を目指せばいいんじゃね?」
おチビさん、なんか凄いことを言った。
イケてる男の人が死なない世界……!?
「例えば戦争に巻き込まれて死んでるでしょ? だったら巻き込んでくる戦争を当分起きないようにするとか……」
「おチビ、また無責任なこと言って! どうやるのよ。敵も味方も、戦えそうなのは全部粉砕するとかしないとそんなことには……」
「そ、そ、それだー!!」
私、天啓を得たりー!!
まあ、私は一介のパイロットなのでできる範囲でちょこちょこやるしかないんだけどね。
一つの勢力を壊滅させるなんて、とてもとても……。
「マイペースでやりつつ、いい男は確保する方針で頑張ります」
「おっ、現実的なところに着地した」
「偉い! お姉さんたちは応援してるぞ」
「お二人はその辺りどうなんですか」
「うっ」
「うっ」
………………。
静かになってしまった。
気まずい静寂の中でも、砂漠の月はとても綺麗だったのだ。
※
静かになった艦橋に、不寝番のレーダー手と艦長、そして副長だけがいる。
こちらのレーダー手は、あまり感心できない趣味を持っていた。
それは、ソナー機能を応用しての盗み聞きである。
彼は甲板にいる三人の会話を艦橋に流していた。
「こ、これでお目溢しを……」
「今後は艦内の会話を盗聴するんじゃないぞ。これが規律の厳しい隊なら貴様は銃殺刑だからな」
「ひいー」
艦長の言葉にレーダー手が悲鳴を上げるところを、副長がまあまあ、と抑えた。
これは、二人が部下に言うことを聞かせるやり方である。
厳しい役割を艦長が担当し、それを副長がなだめる。
あるいは逆をやる。
こうして乗組員のヘイトコントロールをしつつ、替えのいない人材ばかりのグワンガンを上手く回しているのである。
「しかし副長、どう思う?」
「ああ、あの与太話ですか? もう、与太という他ないでしょうな。実行は不可能です」
笑い飛ばした後、副長は「普通なら」と続けた。
「やはり副長もそう思うか?」
「彼女は普通ではありませんからね。先程のMC戦、敵の機体全てがスア・グラダートを遥かに超える性能を持つ未知の最新型ばかり。あの四機で、我が軍の一個大隊をなんなく壊滅させられるでしょう」
「だろうな……。止めることができぬ戦力だ。それほど、連合と南部大陸同盟の技術力には格差がある」
人が減りゆく環太平洋同盟は、技術が停滞している。
日国はかつての技術にすがるばかりで、しかし徐々にその知識や技術すら失って行っている。
華国はコサックによって国がバラバラになり、知識も技術も散逸した。
残る国々は、先の二国に及ぶ前に衰退を始めている。
「これは必敗の戦いだ。だが……我々は無敗の快進撃をしている。異常事態だ」
「ええ。彼女は普通ではありませんな。どうして彼女は、連邦と同盟の新型をミックスしたものとは言え、量産型に毛が生えたような機体で、最新鋭も最新鋭の化け物を蹂躙してのけるのか」
「まあ……考えてもムダだろう。一兵が一軍をひっくり返すことはできない。だが、一軍をひっくり返すことができる一兵が現れた。それだけの話で我々の手の中にその兵士がいる……。大事にしよう」
「大事にしましょう」
その話はそこで終わりになった。
正直な話、二人ともヤンヤンをどうしたものか、思いつかなかったのだ。
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