第32話 ヤンヤン、決着を付ける!

「いやー油の力すごい」


 私はスアの動きがなめらかになっているので感心した。

 色々な部分に油を差してもらったんだよね。

 操作に合わせてヌルヌル動く。


「でもさっきのMC引っ込んでしまったなあ。中の人はどうだったんだろう。割りと強かったから気になる……」


 だけどまあ、今はそれよりも大事なことがあるようで。

 見覚えがあるでっかいのがいる。

 コムラータの町で戦ったやつだ。


 なんか毎回夜に会うなあ。

 私目掛けて、バリバリ撃ってくる。

 以前のAIっぽい決め打ち射撃よりは随分マシな感じ!


 AIは『計算上ここに来るでしょ! パターンもリアルタイムで解析してるからここに来るでしょ!』って分かりやすい攻撃をしてくるので、ぶっちゃけ棒立ちでも避けられるんだよね。

 割りとAI頼みな他のMCの攻撃も当たらないのはそういう仕組です。

 スアにはそんな大層なものは搭載されていないので……。


 私の動きを追尾してくる射撃を、アナログ操作で回避する。

 うんうん、これこれ!


 いやー、上手いなー。

 今にも当たりそうだもん。

 強い強い。


 今回の私は銃器を持ってこなかったので、どうやって近づこうかなーと考える次第なのだ。

 いやあ、暗いとあんまり当たらないんだもの。

 曳光弾は船に積まれてないし……。


 まあ、避けながら近づこう。

 そう決定して、ひょいひょい回避しながらどんどん近づくことにした。


 弾幕が重なって分厚くなってる辺り、そこのちょっとしたスキマを狙って……。

 この整備長と整備士のみんなが暇つぶしで作った謎の兵装、パイルランサーをバカーンと射つと……!

 バックパックを流用した武器だから、普通に推力が増すんだよね。


 ほら、弾幕をくぐり抜けた。

 砲塔を一つ、パコーンと蹴ってぶっ壊した。

 どうやら整備長の趣味で、足の関節とかつま先の装甲をめちゃくちゃ頑丈にしてるらしい。


 使いやすくて助かるー。

 ゼロ距離になってしまったら、射撃に頼り切りの大型MCはまあ丸裸みたいなもんです。


『~~~~~!!』


 なんか外部音声で言ってる。

 何語だかわからないなあ。

 喋り方とか誰か知ってる人に似てる気がするんだけど。


 パイルランサーを相手のお腹に突きつけて、バコーンとぶっ放す。

 多分分厚いんだろう装甲に大穴が空いて、火を吹いた。


 でっかいMCが態勢を崩す。

 うんうん、強かったけどあれね、私とは相性が悪かった……。

 ……あれ? 前も大きいのは倒したけど、それだけじゃ終わらなかったような……。


 そうしたら……バカーン!と音がして胴体の前面が吹っ飛んだ。

 大きなMCの中から、黒くてスマートなMCがにゅっと出てくる。


 あー!

 思い出した!

 中から出てきたこれが強いんだ!


 前よりももっと黒くなってるような……。

 前は夜だから黒く見えてたのかな?


 飛び上がったその機体が、ナイフみたいなのを展開してきた。

 私もパイルランサーで迎え撃つぞ。


「おりゃー!」


『うらー!!』


 空中でガンガン殴り合う。

 うひゃー、お互い全然違うタイミングで加速したり減速したりするけど、ぶつかるタイミングはバッチリ同じ!

 いやー、強いなー。


 中の人はさぞかしイケてるパイロットなのでは……!

 だが残念なことに……。

 今回のスアは関節に油を塗って、とてもパワーアップしているのだ!


 向こうの動きよりもちょっとスムーズ。

 黒いMCの攻撃を凌ぎながら、それでも蹴りを混ぜた私の手数の方が多い。


「ていっ!」


 相手のMCの頭を蹴っ飛ばしたら、尖った耳みたいなのが折れた。

 そうしたら、向こうの陸上戦艦から大きな声がなんか叫んでる。


 その直後に、巨大な衝角付きの尻尾が突き出されてきた。


「でっかー!!」


 これが私と黒いMCを遮るように出てきて、黒いのは何か叫びながらこっちに来ようとしたんだけど……。

 サソリ型陸上戦艦が起き上がり、口を開けるみたいにしてMCを飲み込んでしまった。

 

 あー、残念。

 でも完全に勝ってたな。


 可動を良くする油つえー。

 真下では、隙を見せたサソリ型陸上戦艦を『とっかーん!!』の掛け声とともにグワンガンがひっくり返したところだった。

 うちの船、呆れるほど頑丈だなあ。


 MCに寄ってたかられたら隙をつかれちゃうから危ないけど、こと陸上戦艦同士の近接戦では無類の強さだ。

 原子炉同士だからパワーは変わらないらしいし。


 サソリ型は新型らしくて、足をばたつかせて完全にひっくり返るのを防ぎ、尻尾で砂漠をビターンと叩いて態勢を立て直した。

 うおー! あそこから盛り返した戦艦初めて見た!!


 そして……物凄い速さで後退を始める。

 砂の中にあの巨体が潜っていく……。


 凄いなあ……。


 ここで、グワンガン滑走路に整備士の人が出てきてライトをピカピカさせた。

 あれは戻ってこいの合図!


 通信装置がまあ壊れっぱなしで、個人用しかないうちの船。

 連絡は光によるモールス信号によることが多いのだ……。


 こうして私は帰還するのだった。

 ああ~いい運動をした!

 今日はよく眠れそうだなあ……。


 ※


「なんて化け物だ……。アタリ・ディッブン三機を初見であしらってくるとは……。あれほどのパイロットが連合にいたのか」


「いたんだよ。前も話をしたでしょ」


 漆黒のMC、カグンから降り立ったマリーヤがヘルメットを外す。


「ゴモラーは強くなった。だけど、虎には及ばなかった。カグンも強化しなくちゃ」


「研究所の最高傑作と言われるお前に、そこまで言わせるパイロットか……! あれも強化兵士なのか……?」


「さあ? だけど……前よりも動きが鋭い……? いえ、なんだかこう、ヌルヌルしてた。多分もう、ディッブンの動きは覚えられたと思う。AI制御任せだと勝負にならない」


「そんな馬鹿な……」


「そういう相手なの。私のライバルは」


 マリーヤは笑う。

 分が悪い状態で退却したとはいえ、それはとてもいい笑顔だった。


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