第31話 ヤンヤン、誰だか知らないで激闘する!

「艦長、レーダーには何も映ってませんね。こおりゃ、新型のステルス戦艦です」


「よく気付いたな」


「俺、このオンボロレーダー信用してないんで、ソナー併用するんですよね。コウモリのあれ。いますよでかいの。側面!」


「操舵!! 面舵一杯!!」


「アイアイサー!! 面舵ィーっいっぱーいっ!!」


「吶喊だ!! 前進せよ!!」


「アイ、サー!!」


「オペレーター、外部音声!」


「はい了解でーす!」


 陸上戦艦グワンガンが急激にターンする。

 六本足をザクザクと砂地に叩きつけ、巨大なカブトムシは密かに襲い来るサソリの陸上戦艦に向き合った。

 これにはサソリ側も驚いたようだ。


 隠していた尾をもたげる。

 気付かれたなら、ここから格闘戦を仕掛けようという腹づもりだ。

 長く伸びる尾は通常の陸上戦艦であれば、船首を超えて艦橋を狙うことができる。


 だが。

 グワンガンの艦橋は、せり出す装甲によって覆われていた。

 真正面以外に狙える場所はなし。

 そして正面には……。


『吶喊します。ご注意下さい! 吶喊します。ご注意下さい!』


 外部音声で、オペレーターの警戒を促す声が響き渡る。

 上部から、長く伸びるサソリ型陸上戦艦の尾が襲いかかってきた。


 それを、局面を描く分厚い装甲が弾く。

 サソリの尾は諦めない。

 何度もガンガンと装甲を突く。


 装甲は傷つき、変形するが、核爆発を至近距離で耐えきる装甲を破るには至らない。


 そのうち一度は艦橋の窓ガラスに炸裂した。

 だが……それもまた核爆発に耐えられる設計を施された、強化ガラスである。

 その厚さもメートル単位。


 窓ガラスにすら尾を弾かれ、サソリはさすがに動揺したようだ。

 強固過ぎる。

 冗談のような頑丈さだ。


 これは、装甲の隙間を狙う他に攻撃を通す手段が無い。


『とっかーん!!』


 グワンガンの体当たりが決まり、サソリ型戦艦はもんどりを打ちながら砂を巻き上げ、後退する。

 だが、最新型の陸上戦艦の矜持というものがある。

 六本足を動かして素早く態勢を整え、突き出されるグワンガンの角を二本のハサミで掴み取った。


 拮抗状態になる。

 相手の動きを止めてしまえば、搭載MCを用いてFM弾を叩き込み放題だ。

 これが、陸上戦艦の格闘戦における次の段階である。


 サソリ型戦艦には切り札がある。

 グワンガンの三倍にも及ぶMC搭載量である。

 うち、六機ぶんを使い、超巨大MCを積み込んでいた。


 南部大陸同盟最大のMC、ゴモラーが出撃する。

 そしてゴモラーに付き従う、サバクオオカミの紋章を刻まれた鋭角な印象のMC、アタリ・ディッブンが三機。


 迎え撃つのは……。


『えー、出撃します! ハッチ開かないの? じゃあ手動で……ほいやー!!』


 何か叫びながら、角、兼滑走路に出てきた機体がいる。

 虎縞の装甲を纏った機体だ。


『いた……!』


 ゴモラーが言葉を発する。

 機体の発声機を通した音声はくぐもり、男のものとも女のものとも分からない。

 だが、その声色には明らかな喜びがある。


『やっと再会できた! あなたを待っていた!!』


 ゴモラーの全身に配置された砲口が、ガチャガチャと動き、虎縞の機体に照準する。

 対する虎縞……スア・グラダートは……。

 角に片手を預けたまま、猛烈な勢いでバックパックを吹かしだす。


『判断が早い……!! 斉射!!』


 ゴモラーに搭載された砲口が一斉に火を吹いた。

 だが、一瞬速く虎は空にいる。


 それを追いかけて、サバクオオカミ三機が飛び上がった。

 鋭い機動である。

 機体は強力、乗員は手練。


 昼頃に環太平洋連合の陸上戦艦とMC部隊を相手にして、一機の欠けもない。

 ましてや今回は、敵は一機。


 三方から逃げ道を塞ぐように襲いかかり、一挙に叩き潰すつもりだった。

 だが、今回ばかりは相手が悪い。

 最新鋭機であるアタリ・ディッブンをやすやすと振り切る冗談のような加速力。


 上昇しきって月をバックにした虎が、牙を剥いた。

 止まったかと思うと、まるで人間のようなぬるりとした動きでターンする。


 オオカミが放つ射撃を、螺旋を描きながら急速落下して回避。

 一瞬で格闘距離に達した。


 射撃に真っ向から、最高速度で突撃する度胸。

 そして弾丸を回避する技量。

 サバクオオカミのパイロットは舌を巻いた。

 そして軌道を変えながら引き撃ちに移る。その間に仲間が背後と側方から仕留めてくれる寸法である。

 

 だが……虎は引き撃ちと全く同じ位置にぬるりと張り付くように移動した。


『なにっ!?』


 新型であるオオカミだからこそ可能なはずの急速機動。

 それを謎の機動で完全に上回ってくる!?

 いや、そもそも自分が回避する角度や場所、タイミングまで完璧に……。


 そこでパイロットの意識が途切れた。

 虎が携えていた物騒な武器が火を吹いたからである。

 それは鹵獲機のバックパック推力を応用して、相手に鉄杭を叩き込む短槍である。


 コクピットどころかバックパックの一部まで貫通し、火を吹きながらオオカミが落ちた。


『!!』


『ばかな!!』


 虎が振り返らずに宙返りする。

 さっきまでいた場所を、ゴモラーの砲撃が通過する。


『えー、さっきから何を言っているか分からないわけですが……。強いということは中身はイケメンなのかなあ……』


 虎が上下逆さの姿勢でピタリと停止した。

 バックパックの噴射を器用に使いながら、その位置を維持している。


 オオカミ二機を交互に睥睨している。

 これは挑発されているのか……!?


 仲間を落とされた二機は、腸の煮えくり返る思いだった。

 お互いに専用回線での通信を交わし合うと、彼らは双方に分かれた。


 下方からは、ゴモラーが楽しげに砲を放っている。

 直線的なレーザー兵器ではなく、今搭載されているのは実弾だった。

 無数の弾丸が飛び交う戦場となる。


 その中で、虎は最低限の動きで弾を回避し、『コクピットを外すべきか、外さざるべきか……それが問題だ……』と唸っている。

 オープン回線である。

 もう挑発にしか聞こえないのだが、本人は大真面目だ。


 オオカミ二機が、それを挟撃した。

 虎は悠然と短槍の切っ先を装置の中に巻き戻し……。


 真横に向けて、発射した。

 バックパックを応用した武器である。

 その勢いが虎を押す。


 スア・グラダートが横っ飛びに吹っ飛んだ。


『!?』


 想像を超越した動きに、オオカミの一機は対応できない。

 片腕にスアの蹴りを喰らい、態勢を崩されたところを真上に乗られた。


 発射の勢いで回転する短槍が、オオカミの頭部を激しく叩く。

 頭部が粉砕。

 殴打の勢いで、オオカミは猛烈な勢いで落下を開始した。


『戻れ!! ディッブン三機をここで失うわけにはいかない!! 戻れ!! 相手はゴモラーに任せよ! 今までの連合のそれではない! エースだ! 連合のトップエースが目の前にいる!!』


『りょ……了解……!!』


 最新鋭機三機のコンビネーションを真っ向から迎え撃ち、ゴモラーによる牽制を受けてなお、こちらを圧倒してきた虎のMC。

 あれは明らかに、今まで戦ってきた連合のMCとは別次元の存在だ。


 仲間を一人潰された恨みはあれど、パイロットはプロだった。

 指示の通り、落ちた仲間を回収して陸上戦艦へと撤退する。


 残るのは、悠然と降りてきたスア・グラダート。

 対する巨大MCゴモラー。


『あー、イケメンが行ってしまった……。ところであなた、どこかで会ったことが……?』


『待っていたよ。虎のMC! 私と唯一互角に戦える存在……!!』


 お互いが誰なのか分からないまま、戦いが本番に突入するのである。



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