第3話 ヤンヤン、コックをクビになる!
「お前は今日でコックをクビだ」
「ガーン! シェフ、なんでですかー!!」
「シェフじゃねえ! っていうかお前、初戦であんなとんでもねえ成果を上げたパイロットにいつまでも芋の皮剥きさせておく方がおかしいだろ……」
「えっ、つまりそれは……」
「格納庫行け! お前はパイロットだ!」
……ということになってしまいました。
私はちょっと燃料を節約しながら、邪魔してくる人たちを払い除けただけなのに。
ううう、敵が邪魔しなければもしかすると少尉は生きてたかも知れないのに。
くそー、許さんぞ北欧純血連邦~。
次の婚活を始めねばならぬ。
でも、そのためにはパイロットというのは案外いい場所かも知れない。
「敵軍の強いパイロットを鹵獲したら旦那さん候補になるかも……? ありうる」
私の呟くのを聞いて、シェフが青い顔をしていた。
「お前、とんでもないやつだったんだな……。いや、俺たちを守ってくれたんだ。お前はこの船の救いの女神だぞ。胸を張って行け!」
「はい、行ってきます、シェフ!」
「シェフじゃねえよ!」
こうして厨房に別れを告げた私。
格納庫に到着したのだった。
「どうもー。今日からパイロットになったヤンヤンです」
「来たな、エース」
整備長が振り返った。
「エース!?」
「一回の戦闘で五機落としたらエースだ。お前、初戦で十二機落としたからな? 前代未聞だぞ。少尉との訓練ではへっぽこだったくせに、なんだ? 手を抜いてたのか?」
「あ、いえ、燃料節約と武器の現地調達を繰り返してたら敵がいなくなってて……」
「天才なのか、バカなのか……? いや、似たようなもんか。スア・グラダート、整備しておいたぞ。あの欠陥機で性能に勝る純血連邦を蹂躙したお前だ。整備された機体でどれだけのことをしでかしてくれるか楽しみだぜ」
「あ、はあ」
「やる気ねえなあ!」
「やりたいのは婚活ですので……!! ロボは別にそこまで……」
できることとやりたいことは全く違うのだ……!!
ちなみに撃墜されたけど、生き残った二人のパイロット。
ウーコンとサーコンの兄弟は元気元気。
今は整備兵に混じって、ノックを修理してるらしい。
……ということは。
「もしかして今、パイロットは私一人ですか? ひええええ」
「なーにがひええええだ! 俺の長い軍隊生活の中でも、初戦で十二機落として被弾ゼロなんてやつはお前が初めてだよ! お前一人いれば、怖いものなしだ!」
バーンと背中を叩いてこようとしたので、私は「うおーっ」と叫びながら前転して回避した。
「整備長、それはパワハラですよーう!!」
「励ましだろうがよ! 凄いアクションで回避するんじゃねえよ!」
「私に親しく触れていいのは、未来の旦那様だけなので……。ああ、素敵な旦那様はどこにいるのか……!」
「そこまでできる女だと、並の男は怖気づいて求婚してこねえだろ」
「えっ!? い、今とんでもないことをおっしゃいませんでしたか!?」
「親方! パイロットのモチベ下げるのはダメですって!」
「お、おう!」
行ってしまった……。
とんでもない爆弾発言したなあの人……。
つまり、パイロットで活躍したらダメなのではないか……?
いい感じに弱さを演出すればいいってこと……?
いやいや、それだとグワンガンが落ちるでしょ。
せっかくあの地元から抜け出したのに、居場所がなくなってしまうのはよろしくない。
やっぱりパイロットはちゃんとやらなければ……。
だがパイロットとして頑張りすぎると普通の男性がドン引きして近づいてこない……。
うぐぐ、な、なんとかして、いい感じのタイミングでパイロットを引退せねば……。
私は心に誓うのだった。
「ってことで、よろしく頼むよスア・グラダート」
ぺちっと機体を叩く。
装甲が強化カーボンとか言うのでできているので、冷たくもなく暖かくもない……。
ペンキが固まった粉が手に付いた。
「うわーっ」
「あー、塗装し直したんだから触っちゃダメ」
整備員の人が走ってきた。
「関節部までペンキが流れ込んでて、不具合起きてたんですよ。適当に艦船塗装用のペンキ使ったらダメですって」
「えへへ、すいませんすいません」
私はペコペコ謝った。
「というか、そんなまともに動けない機体で、しかも自らペンキで塗ってハンデまで背負ってよく勝ったねえ……」
「少尉の教えが良かったんですねー」
「その少尉は撃墜されて亡くなってるけど」
「少尉の魂が私を守ったんじゃないでしょうか! 俺を超えて新しい素敵な旦那様を見つけてくれ! ……と……!!」
「な、なるほどぉ……ポジティブな娘だなあ」
ドン引きされてしまった。
とにかく、ちゃんと整備をされて、ノックの交換用部品で強化されたスアは強くなったらしい。
MCはユニバーサルデザインだから、どの機体もある程度同じ部品使えるらしい。
便利ー。
「そもそもヤンヤン、なんでこんな腕がいいのにコック見習いなんかやってたんだ? というか、まだ若いのに軍隊に参加したのはどうしてだよ」
「それはですねー。話せば長いことながら……」
お話しましょう。
少子高齢化の結果、夢も希望も無くなった私の故郷の村の話。
ひっどいんだから。
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