第4話 ヤンヤン、限界村を脱出する!

 地元は年寄りしかいなくて、若い娘は私一人だった。

 というのも、あまりに娯楽も未来も無いので若者がみんな都会に出ていくからだ。


「ヤンヤンも村を捨てるのかい」


「人聞きが悪いなあ! 捨てるけど」


 私はジャンク品のモーターワーカー(MW)を使って稲刈りをしていた。

 MWとは、手足がついた労働機械。元々は軍用だったとか?

 私が乗ってるこれ、寄せ集め部品で作ってあるし、整備してるのが最近ボケの始まったじいさまだし、いつ動かなくなってもおかしくないんだよね。


 よろけたり、分解しかけたりするのをだましだまし使い、壊れる前に作業を終える技量が必要なのだ。

 物心付く前からこれに乗って野良仕事の手伝いをしてるんで、私のMW使いはかなりのもんよ。


「そんな、ひどいのう。ヤンヤンがいなくなったら村はおしまいじゃよ! ほれ、村にも若い男はおるじゃろ。裏のポンペンがちょうど奥さんに逃げられておった」


「私より三十歳くらい年上じゃない! ありえなーい。村にいたら私の未来が無いのでー」


「む、村の維持と自分の未来とどっちが……」


「自分の未来だねえ」


「お、恩知らずー」


「知らんがな」


 畑仕事を終えて、あぜ道まで乗り上げたMW。

 ここでプスンプスン言って動かなくなった。

 じいさまを呼びに行かないとなあ。


 見渡す限り、田んぼと畑。

 あちこちに家々があって、ちょっと遠くには赤錆びた電波塔があった。

 あれがあるから、村唯一の娯楽であるラジオが聞けるんだよね。


 テレビは私が生まれる前に見れなくなったって。

 その他、都会と繋がってた鉄道も人員不足とか予算不足で廃止されたし、バスも運転手がいなくなってどんどん減便され、採算が取れないとかでついに廃止された。


 なんもない!

 ラジオだけあって、テレビもないしバスも電車も夢も未来も、おしゃれな服も豪華な食事もなーんにもない。

 私はこんな村いやだー。


「どうにかして村を脱出する方法はないかなあ」


 半分ボケたじいちゃんを連れてきて、MWを整備してもらいつつ、ぶつぶつ呟く私。

 じいちゃんがこれを聞いて、


「はあ、俺が若い頃は、村を出るっつーたら軍隊だったな。軍人になりゃ誰も文句は言わねえからよ。今でも思い出すわ、戦場の風、地雷が蒔かれたとこをよ、戦車でダーッと走って」


「じいちゃん、戦車なんか大昔の乗り物でしょー」


「飛行機が空をガーッとな」


「飛行機も大昔の乗り物じゃん! FM弾ができてから全部廃れたって言ってたのじいちゃんじゃん」


「そうだったかのう」


 ボケて来てるなあー。

 FM弾ってのは、フォームメモリーバレット?とかいうやつで、あまり動かない形をしたものを自動で追尾して当たる弾のこと。

 今じゃ、拳銃の弾にも内蔵されてるから、昔からある乗り物を戦場で使うのはナンセンスになったらしい。


 私が生まれる前の話だから詳しく知らないんだけど。


「そっか。でも軍隊が来たら脱出できるか。いいことを聞いたなあ」


「そうだそうだ。ヤンヤンはまだ子どもだけど、巷には若い女に飢えたろくでもねえ賊がわんさかいるからな……」


「その山賊も高齢化で元気が無くなってきてるって聞いたけど……」


「そうだったかのう」


 ボケて来てるなあ。

 とにかく、世の中子どもが少ない。

 お年寄りばっかり。


 だけど、お年寄りの寿命も昔と比べてずっと短くなってるらしい。

 たまーに村に立ち寄る旅の人から聞いた話だと、あまりにも世界的に閉塞感に満ち過ぎてて、戦争が起きてるんだそうだ。

 で、そこには比較的若い人が集まる。


 つまり……。

 戦場に行けば、年頃の近いイケてる凄い旦那様に巡り会えるかもしれない……!!


「いける、これは」


「いけるのかい」


 こうして私の、村脱出計画が始まった。

 とりあえず近くに軍が来たら、志願する。

 以上。


 正直情報を得る手段がラジオしかないもんね。

 ひたすら待つしか無い……。


 そんな気長に進めていく計画で、せめておばあちゃんになる前に来てくださいよ、軍……!

 と思っていたら、思いの外早く彼らはやって来たのだった。


 ちょっと離れたところで、鳥がやたらと騒いで飛び立つ。

 みしみし、ばりばりという木々がなぎ倒される音。


 村の年寄たちが顔をしかめる。


「あいつら、森を何だと思ってるんじゃ」


「また餌にあぶれた獣が村に来る」


「ほんに迷惑な……」


 やって来たのは、とんでもなく大きな……金属製の甲虫だった。

 三本の角があるカブトムシだ。


 軍人が降りてきて、村から物資を買い付ける相談を始めた。

 そうしたらいきなり、年寄りたちは下手に出て揉み手なんかしている。


 なんだかんだで軍人は怖いんだろうなあ。

 それに、どうせ村で作る食料は老人ばかりで食べきれないんだし、買い取ってもらう分にはいいんじゃないかと思う。


 それはそうとして、私としてはまたとないチャンス!

 作物買い取り交渉中のところに飛び出し、頭を下げながら声を張り上げたのだった。


「軍に志願します! 連れてって下さい!!」


 これで私の運命が動き始めたってわけ。

 そう、素敵な旦那さまと出会うための、果てしなき戦いの運命が……。


 ん? 戦い……?

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