第23話 ヤンヤン、戦場で死神と呼ばれる!

 スアを起動させて、タイヤをガラガラ転がして街までやって来たよ。

 ガタガタ音はするけど、空を飛んでないと案外発見されない。

 私は堂々と道を行く。


「~~~!? ~~~~!!」


 コサックがいる!

 私を指さしてなんか叫んで、小銃を構えた。

 スアに持たせたライフルで、プチっと潰しておく。


「ウグワーッ!」


 赤い染みになった。

 MCに人間が勝てるはずがないのだ。


 さてさて、コサック基地に続く大通りに出てきた。

 路行くMWが慌てて私を避けていく。

 どうやらここまで来ると、基地を守っていた向こうのMCも気付いたらしい。


 ブーンと飛んで近づいてくる。

 あ、撃ってきた撃ってきた。

 ここはライフルの有効射程圏外だと思うけどなあ。


 私、完全にこのライフルの有効射程を掴んだんだよね。

 あと、コサック軍MCの基本挙動も覚えたし。


 こうやってパーンとライフルをシングルアクションで射つと……。

 ソフト任せだとこっちに逃げるから……。

 ほらあ。


 既にそこには、私が連続して二発弾を撃っている。


 MCは自分から、コクピットに弾丸を当てに行った。

 一発だと壊れないコクピットも、全く同じ箇所に二発受けると壊れる。


 ということで撃墜です。


「飛ばずに近づきたいよね。省エネ省エネ」


 ガラガラタイヤを回して基地に接近しながら、どんどん近寄ってくるコサックのMCを落としていく。

 どれくらいたくさんいるんだろう。

 コサックの強さは、とにかくめちゃくちゃ数が多いことらしいから……。


「百機くらいいるかなー。今持ってる弾だとギリギリだな。倒したのからもらって戦おう」


 ここで私、思い出す。

 そう言えば、一応宣戦布告しないとよろしくないんだったっけ。

 私はスアの通信回線をオープンにした。


 最初はオープン回線しかなかったスアも、最近はちゃんとした味方との通信ができるように進化してるんだよね。


「えーえー、こんにちは。こんにちはー」


 私が挨拶をしたら、基地側からバカスカ砲台が射撃してきた。

 固定砲台だ!

 原始的ー。


 ライフルに設置されている、FM弾を発射する。

 形状が固定された兵器を優先して狙うこの弾丸は、あっという間に砲台に直撃して破壊する。

 この技術は普及していて、全てのMCの標準兵装なのだ。

 だからMCの前では昔の時代の兵器は全く役に立たないのだとか。


「撃たないで下さい、撃たないで下さい。えー、私は怪しいものではありません。環太平洋連合のヤンヤン上等兵と言いますー。えー、皆さんに、これから、宣戦布告しま……」


『ウオオオーッ!!』


 なんか叫びながらコサック軍のMCが基地を飛び出してきたんだけど。


「邪魔しないでね!!」


 連射で腕をふっ飛ばして、タイヤを転がして引き撃ちしつつ、頭をふっ飛ばして……。

 あ、バランスを崩して落ちてきた。

 私は駆け寄りながら、機体を受け止めた。


「えー、宣戦布告します。かかってこーい以上」


 私は宣言しながら、手斧をコクピットに叩き込み、燃料槽をぶっこ抜き、バックパックをかちっと取り外して点火した。


「バックパックミサイル発射!」


 私の姿を見て、何かを喚き立てる基地。

 そこに突っ込んでいったバックパックが、管制塔みたいなところに当たって爆発した。

 へし折れて崩れていく管制塔。


 その後、基地のあちこちから次々にMCが飛び出してきた。

 やる気だやる気だ!


 じゃあここで省エネは終了。

 ちょっと頑張っちゃおうかな……!!


「飛ぶよ、スア!」


 私の愛機が、エンジン音を響かせた。


 ※


 恐らくこれは、コサック軍にとって悪夢のような戦いだったのだろう。

 その光景を見ていた都市の人々はそう振り返る。

 彼らは、都市を解放したMCを虎と呼んだ。


 虎は空に飛び上がり、両手に携えた銃で次々にコサックの機体を血祭りに上げた。

 コサックが構えるよりも、虎が銃を撃つ方が早い。

 コサックが避けようと操縦桿を握るよりも、虎の放った弾丸がコクピットを射抜くほうが早い。

 撃墜されていくコサック。


 武器をある程度使った虎は、コサックの機体から武器を奪ったそうだ。

 あるいは、機体の一部をもぎ取り、自らの物と交換した。

 戦いながら、補給する。


 コサックが機体を出せば出すほど、虎の継戦能力は上がっていくのだ。

 戦いは二時間にも及んだ。

 その間、コサックはひたすらに機体を出した。

 基地の中にいた全てのMCが出撃したことだろう。


 この圧倒的な物量。

 これこそがコサック共和国の強さだ。


 だが、均質な性能。

 これこそがコサック共和国の弱さだった。


 相手が常識の範疇に収まる敵であれば、均質な性能の大群で押しつぶしてしまえるだろう。

 だが、相手が常識では測れない強さを持つ存在であった場合……。

 均質な性能は、ルーチンワークとしての撃墜を意味することになる。


 次々に落ちていくコサック機。

 ただの一機たりと、一矢報いることすらできない。


 二時間が経過し、コサックからは何も出てこなくなった。

 全滅である。

 ただしく、コサック軍華国基地のMC連隊は壊滅した。


「し、し、死神だ……!!」


 最後の機体はそう叫んで、コクピットを正確に射抜かれた。


 残機はゼロ。

 虎は悠然と基地を飛び越え、脱出する幹部連中の車両を射撃した。

 爆発、炎上する車両。


 続いて虎は、逃げ出すコサック兵を見回しながら射撃を開始する。


「眼の前で、コサックの兵士が血煙になったんだ。そいつが叫んでた。死神、死神が来たって……! いやあ、とんでもない。あの虎はわたしらの救うため、天が遣わした仙人だ。だとすると……わしを助けたあのお嬢さんは、天女だったのかもなあ……」


 全てを見ていた老人は、そう言って笑ったのだった。


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