第53話 ヤンヤン、退職を決意する!

 グワンガンの先端にちょこんと大柄なおじいさんが乗っていたので、スアでつまみ上げて助けてあげた。

 そうしたら、この人が私たちに助けを求めたモンテロ大統領らしいじゃないですか。

 びっくり。


「なんで、グワンガン、先っぽ、引っかかり?」


「話せば長いことながら、俺は命を狙われていた! だが諸君が助けてくれた! ブラボー!」


 おお、この人、連邦語が上手い。

 私も最近、連邦語を覚えてきたところだったのだ。


「おー。艦長、呼ぶ。まつ」


「うむ……」


 スアの足元に座り込む大統領。

 中に入れろと言ってこないんだけど、あれは多分腰が抜けてるんだと思う。


 艦橋に駆け込んだら、艦長も出てくる準備をしていた。

 艦長の部屋って艦橋のすぐ下にあるので、いつでも着替えができるのだ。


 一張羅っぽい軍服を着て、ヒゲをなでつけている。


「よし、行くぞヤンヤン。ついてこい」


「ほーい」


 艦長に付き添ってモンテロ大統領に合う。

 大統領はにっこり笑った。


「写真の通りの男だな! 俺の要請に応えて助けに来てくれた! 本当に感謝する!! ああ、シェルターの奥深くに俺の財産を隠したから、幾らかはくれてやる。残りは俺のものだ」


「ははあ。大統領はこれからどうなさるおつもりで?」


「亡命する……!! 首長国が俺の首を狙っているんでな……」


 とんでもないことを言った。

 艦長が凄い顔をする。


 そしてすぐに、「副長、こいつをつまみ出せ! 帰るぞ! ここにいたら内戦に巻き込まれる!!」持っていた通信機に怒鳴った。

 返事があって、グワンガンが動き出す。

 次にMWが何台も出てきて、モンテロ大統領をつまむと「ウグワーッ! 何をする! 俺は大統領だぞ!」滑走路が低くなったところで、ポイッと外に放り出した。


「ウグワーッ」


 モンテロ大統領がごろごろ転がっていった。


「危ないところだった……」


 艦長、汗を拭う。


「だが、彼の私的財産の一部をもらえるという言質は取った。速攻でシェルターを暴いてもらえるものはもらっていくぞ!!」


 通信機から、うおーっと歓声が響き渡った。

 

 その後、グワンガンはシェルターのあった辺りを角でバリバリほじくり返した。

 すごいパワーだ。

 地面がどんどん掘れる。


 地面だったらギュッと詰まってると掘りきれなかったりするけど、シェルターみたいな構造物があると楽なんだって。

 で、穴を開けたシェルターに副長とウーコン、サーコンがMWに乗って突っ込んでいった。


 こういうの、副長の役割なんだなあ。

 で、ウーコンとサーコンはさっきの戦闘に出なかった分こっちで活躍するのか。


 一時間ほど待っていたら、MWがそれなりにたくさんのお金とか宝石を積み込んで飛び出してきた。


『撤収! 撤収ー!!』


 艦長の声が響き渡る。

 私たちは色々頂いて、ガザニーア共和国を去ることになるのだった!


 戦艦モードになって、ガラガラ走っていくグワンガン。

 私は格納庫でスアの整備をしてもらいつつ……。


「時にスバスさん、どれくらいできるようになった?」


「あ、うん。スアの基本的な整備なら一人でやれるようになったよ。MCの整備ってMWを使うんだねえ……」


「だねー。……ふむふむ、そこまでできるなら、独り立ちはできそうだね……」


「独り立ち……!? それはつまり……」


「スバスさん! 私はそろそろ、軍を退職しようと思っているのです!」


「な、なんだってー!! では俺は……!」


「二人でお店をですね……」


「おおーっ!!」


 盛り上がる私とスバスさん。

 これを見て、整備長が顔をしかめた。


「お前ら、真っ昼間に格納庫のど真ん中で駆け落ちの相談をしてるんじゃねえ! だがまあ、そうだなあ。あちこちの戦力をぶち壊したし、もうそろそろこの世界は、戦争がしたくてもできなくなりそうだ。そうなりゃあ、ヤンヤンも平和に暮らせるようになるんじゃねえか?」


「おおー! そうありたい!」


「そのためには、さっきぶつかったゲルマの連中と、南部大陸の首長国をボコボコにしなきゃなんねえがな」


「やろうやろう」


「気軽に言うな! いや、やっちまいそうではあるよなあ……」


 整備長の言葉に、整備士の人たちが「確かに! ヤンヤンならやりそうだ!」「だけどヤンヤンがいなくなったら寂しくなるなあ」「たまには軍に遊びに来いよ!」

 賑やか賑やか。


 うんうん、たまには連合軍に遊びに行くのも悪くないよね……。


 グワンガンはガラガラと移動し、ガザニーア共和国の国境までやって来た。

 というかこの国、首都以外はめちゃめちゃ貧しい感じなのね。


「永世大統領モンテロがあらゆる富を独占してたっていうのは有名だな」


 副長、よくご存知で!


「ヤンヤンあれか。退職したいらしいじゃないか」


「はっ! スバスさんと駆け落ちを計画してて」


「それ話したら駆け落ちじゃないぞ! まあもうちょっと待ってくれ。ゲルマの連中が面子を賭けてもう一度挑んでくるだろう。それに、首長国もガザニーアを潰すために動く。俺と艦長は、ここらでどでかい混戦が起こると睨んでる」


「ひええ、それはつまり……私の悠々自適な新婚ライフはもうちょっとかかると……」


「かかるだろうなあ。現状、世界にはまだ戦う余力がある。この状態ではヤンヤン、お前さんが独立しても、世の中が放っておかないだろうよ」


「な、なるほどー!!」


 私は納得した。

 つまり!

 残る戦力をボッコボコにしないといけないということなのだ!


 よし、やるぞお。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る