婚活・ロボ戦記～目指せ最強の旦那さまゲット！ だけど最強パイロットが私だったので詰みました。あーあ～

第14話 ヤンヤン、敵のボスっぽいのを巻き込む！

「ゴモラーからカグンが分離した！？　マリーヤ、勝手なことを！！」

　大統領の甥である男は激怒した。

　ゴモラーは、首長国から下賜された試験用のMC。

　機体が戦闘によって得たデータを、首長国は欲していた。

「ガザニーアの顔に泥を塗るつもりか！　俺が恥をかくということは、大統領が恥をかくということだ！　少しばかり強化されただけの小娘が！　俺が粛清してやる！！　クワヘイム、出るぞ！！」

　町を襲わせて高みの見物をしていた男は、ついに己の機体を出撃させた。

　戦場は既に町の中に移っている。

　ゴモラーは乗り捨てられ、町外れに鎮座している。

　今上空で交差しているのは、虎のような色に染められた機体と、ゴモラーの本体……試験型超高性能MCカグンだった。

　カグンの姿は、まだ塗装が施されていない灰色。

　内蔵火器の無い機体ゆえ、手にしているのはゴモラーから取り外した鉤爪状のナイフのみ。

　街灯が照らし出す空に、火花が散る。

　ぶつかり合う二機のMCが、手斧とナイフを叩きつけあっているのだ。

　勝負がつかない。

　甥はこれを見て、さらに怒る。

「首長国から来た強化兵というのは嘘か！？　たかが一機のMCを落としきれないとは！！　もういい！　俺がやる！　お前ら、援護しろ！！」

　彼は、黒く塗られたMC、クワヘイムのアサルトライフルを構える。

　自分の乗るそれと同じ機体が先程、あの虎の色のMCによって落とされているのだが……彼はそんなことをすっかり忘れていた。

　与えられた資材を存分に使い切るつもりで、曳光弾混じりの弾幕が張られる。

『横から手出し、最低。興ざめした……』

　マリーヤの乗るカグンは、これを見て素早く後退していった。

「ふん、役立たずめ！　マリーヤ、ゴモラーを回収しろ！　お前は戻れ！　あとは俺がやる……」

　そこまで言ったところで、甥の意識は一瞬戦場から外れていた。

　既に、虎縞の機体が視界にいない。

　新型機クワヘイムは高性能レーダーを内蔵している。

　多少距離が離れたところで敵機を見失うことはない。

　もし見失うとしたら……それは、敵が密着するほどの距離にいる時だけだ。

「消えた！？　ステルスというやつか！　純血連邦に少数残っているだけのはずの代物が、どうしてここに……」

　そのコクピットを割って、刃が打ち込まれてきた。

「な、なんだこれは！？　なんっウグワーッ！！　だ、誰か！　助けろ！！」

　ここに来て彼は、自分が超近接距離から攻撃を受けていることを理解したのである。

　一瞬で、敵は間合いをゼロにした。

　そして手慣れたふうに、一撃でコクピットハッチを割ってきたのである。

　まるで機体の強度を完全に理解しているかのように。

『二回目だと完全に覚えてるねこれ。あ、一番いい武器持ってる？　もらいまーす』

　手斧が叩きつけられ、右手を破壊された。

　アサルトライフルを奪われる。

「うおおー！！　やめろ！　全ての武器はガザニーアが手に入れた力だぞ！　俺を！　俺を誰だと思っている！　俺は大統領の甥のウグワーッ！！」

　割れたコクピットの隙間から、虎縞模様の機体が蹴りを叩き込んできた。

　亀裂が入って劣化していたハッチが砕け、中に飛び込んでいく。

　大統領の甥である男は名乗る暇すらなく、二度と口を開けなくなった。

　※

「うひょー、このライフル凄い！　ものっすごい連射力！　これに比べたらマシンガンは原始的だね！」

　私はバリバリとご機嫌で銃を乱射した。

　曳光弾があると、なんか敵が見えるので簡単に当たる。

　一発一発が高いんだろうなあ……。

　ま、どうせこの場で使い切っちゃうからいいか！

　弾倉が空っぽになる前に、三機落とした。

　私は真っ先にコクピットを壊す主義なので、他の機体もバラしがいがあると思う。

　残る敵機は逃げていったみたい。

　振り返ったら、あの大きいのの姿も無かった。

　音も立てずに逃げた！

　できるー。

　そしてイケメンの敵は討てなかったよ……！

　おのれー、今度会ったら絶対に倒す！

　私は決意した。

　それはそうと、今日はもう疲れて仕方ないので、帰ってシャワーを浴びて寝ることにしたのだった。

　死んだイケメンにお経を唱えて、ローラーをぐるぐる回すとありがたい経文を一通り読んだことになる便利アイテムを回してから、私はぐっすりと寝た。

　翌朝。

「ガザニーア軍の上級将校が死んだらしいな。それで連中、夜のうちに逃げ出したらしい」

「ふむ。当方の人的被害がゼロだったことは喜ばしい。優秀なパイロットがいることは実にありがたいものだな」

　食堂で、副長と艦長が食事をしていた。

　話題はもしかして私のことでは……？

　やって来た私を見て、二人がニヤリと笑う。

「通信機の故障を名目に、支部との連絡を断った我々だが……」

「ええ。それを補って余りある戦果を上げてくれた兵士がいるおかげで、大手を振って帰れますな」

　ははははは、と笑い合う二人。

　な、何か企んでいる……！

「あのう、私はごく普通の村娘なので、変な陰謀に巻き込むのはやめてくださいね……」

「ヤンヤン上等兵！　お前はもっと胸を張るべきだぞ！　これから軍の高官に目通りすることにもなるんだからな」

　艦長が妙に優しい声で言う。

　こっわあ。

　朝食が喉を通らなくなる怖さですわ。

　もうこの船を見捨てて逃げようかしら……。

「それに、支部にはヤンヤン好みのいい男が何人もいるぞ。長引く戦争に身を捧げて独身のままの者も多い……」

「なんですって！！」

　私は俄然、この大人たちの言うことに付き合う気になった。

　それは早く言ってちょうだいよ！

　環太平洋連合の東南アジア支部。

　ちょっと楽しみになってきたなあ……。