第13話 ヤンヤン、巨大MCと対決する!

 うおー!

 私の素敵な旦那様ー!


 あとに残ったのは、凄い熱量でカッスカスになったMCの残骸。

 これはアクバットさん死んでますねえ……。


「ゆ、ゆ、ゆるさーん! 私の輝く未来を邪魔しやがってー!」


 ぷりぷり怒る私の前で、遠く離れた巨大MCがじーっとしている。

 おや?

 二発目を撃ってこないなあ。

 連射できないっぽい。


『ヤンヤーン』


『とりあえず燃料槽と予備のライフルっす!』


「ありがとうー!」


 ウーコンとサーコンが回収してくれた装備をパチパチと装着して、私は巨大MCに向かっていくのだ。

 こんな時、ユニバーサルデザインだとすぐに装着できていいね。

 ライフルは見たことがない型だけど、どうやらマシンガンみたいな動きと狙撃みたな動きを切り替えられるみたい。


 さっきのパイロットは使ってなかったなー。

 とりあえずお得意のマシンガンモードでバラバラとぶっ放す。


 あまりにも相手が大きいし、しかも黒いし、どこを狙ったらいいのかさっぱりわからない。

 昔は暗い中でも索敵できる装備が多かったらしいけど、今の技術だと作れなかったりするそうで。

 特にうちの船のMCはみんな型落ちか鹵獲品ですからね……!

 正規の整備部品もありませんからね……!


 巨大MCの表面で、弾丸がパカパカ当たって火花が散った。

 向こうも動き出す。

 家々をなぎ倒しながらこっちに向かってくるんだけど……。


 高さだけでスアの三倍くらいあるなあ。

 よくこんなのが動いてるなあ……。

 流石に動きは鈍いし、二本の足じゃなくて地面からちょっと浮いて移動してるみたいだけど。


 ぱらぱらとマシンガンを撃っていたら、すぐに弾が切れた。

 かと言って、敵を前にして狙撃モードはありえないし。


 狙撃してるのが相手に発見されると、FM弾で狙い撃ちされるんだよね。

 あれは動きの少ない対象に必中の弾なんで。


 むこうからも撃ってきた。

 ガキガキ音がして、全身から火器が展開したっぽい。

 私目掛けて、バリバリ弾が飛んでくる。


 あっぶな、あっぶな。

 空を飛びながら、回避する私なのだ。

 曳光弾、こういう時はいい仕事するよねえ。


 この大きいのに乗ってるパイロット、ちゃんと腕がいい気がする!


 ※



「一機落とされただと!? どういうことだ! うちのは最新型じゃなかったのか!」


『は、はい! 環太平洋連合の機体も参戦して来まして! そこの、虎みたいな柄のMCに……』


「そいつは連合の最新型か! そうだな! そうに違いない!!」


 ガザニーア共和国は大統領の甥である男は、そう決めつけた。


「だとしたら、そいつを討ったら手柄だぞ! コムラータの旧式なぞいくら落としても意味がない! 他の国の機体も相手にしてる場合じゃないぞ!」


『マ、マリーヤのゴモラーが交戦に入りました!』


「なんだと!? ゴモラーは都市殲滅用MCだろうが。そんな単機などあっという間に制圧される……。いかに最新型だろうとな。ふん、この俺が仕留めてやろうと思っていたが仕方ないか。マリーヤのような化け物に目をつけられるとは運のない……」


『ゴモラー、肩部キャノン損傷!』


「なんだと!? どういうことだ!? それだけの火力を敵の新型が持っていたというのか!!」


『あ、いえ、見ていて私も信じられませんが、あの火線をくぐり抜けて……て、手斧でキャノンを破壊していきました!』


「馬鹿な!? ガゼルが通り抜ける隙間もない射撃だぞ!! そんなものをくぐり抜けるなど……」


『お、おそらく相手は連合の……エースです!!』


「な、なにぃーっ!!」



 ※



 マリーヤはモニターに囲まれたコクピット内で、驚いていた。


「あれは純血連邦のアルバトロス……それを素体にしたカスタム機。そんな旧式でよくゴモラーに食いついてくる……!」


 敵の挙動を予測し、射撃を行うAI管理のシステムが組み込まれている。

 これは昼であればカットされる機能だ。


 現代において、AI機構のみを狙い撃ちにしたアンチAI装備は一般的に普及している。

 視覚や聴覚、振動によってAIを狂わせるそれらは、夜間のみその力を弱体化させる。

 故に、ゴモラーは夜間戦闘時にその真価を発揮できるというわけだ。


「それに……初めてこの機体を見るはずなのに」


 AIが相手の挙動予測を誤っている。

 捉えられない。

 まるで、AIの演算を予測されているかのようだ。


 射撃を掻い潜り、敵機が肉薄してくる。

 AIが警戒メッセージを発する。


 止められなかったか。

 マリーヤは笑ってしまった。


「自信満々で首長国が推してきた機体だけど、大したこと無いじゃない。夜間に初見でこれを掻い潜ってくるパイロットがいるんだもの」


 彼女の手は操縦桿に触れてもいない。

 通常想定されている運用では、彼女がこの機体を動かすことはない。

 AIの挙動を管理するだけだ。


 ただ、例外は存在する。

 AIでは対処ができない場合のみ。


 そんなことはありえませんが、と首長国側のエンジニアが豪語していた。


「ありえたじゃない」


 肩部キャノン破壊。

 警報が鳴り響く。

 相手は火線を抜けただけではなく、手にした手斧で乱雑に攻撃を叩き込み、肩部キャノンを完膚なきまでに粉砕して行ったようだ。


 あわよくば頭部も破壊と思った相手を、どうにかAIは追い払ったようだ。

 なおも行動予測を続けるが、徐々にそれが支離滅裂になっていく。


「AIは追い詰められると、嘘をつき始めるものね。自分を騙すための嘘を」


 ゴモラーが後退を始める。

 開けた場所で敵機と戦うのは不利と判断したのだろう。


 単機で町一つを火の海できる……そんなカタログスペックだったはずの機体が、たった一機の旧式に追い詰められていく。

 つづいて、左腕の速射砲が破壊された。

 相手はずっと、手斧一本しか使っていない。


「やっぱりAIじゃ無理だったんじゃない」


 マリーヤは、ゴモラーの一部操作を切り替える。

 内蔵されているコアマシン、彼女がコントロールする本来のMCを独立させるためだ。


 ガザニーア最強パイロットのマリーヤは、正体不明の虎縞模様MCとの対戦に打って出ようとしていた。



 

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