第50話 ヤンヤン、ガザニーア共和国に助けを請われる!
「うわあ、凄く面倒なことになったぞ」
副長が物凄い顔をして食堂までやって来た。
そして伝令管を使ってシェフにお酒を要求している。
これは厨房や機関室まで続いている管ね。
シェフは最近、グエン共和国で新人を雇ったらしく、バリバリ料理が作れるようになってるらしい。
お手伝いさんとみんなに呼ばれている人だ。
その人が、お掃除犬ロボのルクナフを連れてパタパタ走ってきた。
「はい! お酒! これライム! お酒に絞って飲んでね!」
『オソウジシマス!』
「うひょお、こりゃあたまらん! ありがたいぜ! もうやってられなくてなあ!」
副長は水滴のついたお酒の瓶を三つほど抱えると、グラスとライムを持って艦橋に走って行ってしまった。
なんだなんだ。
気になるー。
私はそろーっと艦橋に来た。
スライドドアに耳を当てて音を聞く……。
おんぼろ陸上戦艦は、内部だとまあまあ音がダダ漏れになったりしてるのだ。
「しかし……よりによってガザニーア共和国からの救援要請とはなあ……」
「艦長が向こうの大使と笑顔で握手したんじゃないですか」
「賞金もらうためだったんだから仕方ないだろうがー」
「写真が証拠で残ってて、これで名指しの救援を求められたら……」
「連合の立場上行くしかないなあ……。今の連合が同盟と戦争状態になるのは致命的だからなあ……」
なんだか不穏な事を言っているな……!
つまりグワンガンは……ガザニーア共和国に行くってこと……?
どうやら、南部大陸同盟が純血北欧連邦と戦争状態になったらしく、みんな連合に構ってる状況じゃなくなったらしい。
そんな中で、ガザニーア共和国のモンテロ大統領が、「うち、連合と伝手あるから援軍を要請できますよ!!」とか言ったんだとか!
め、迷惑~!
お蔭でグワンガンは同盟の領土に向かって突き進むことになったのだ。
陸上戦艦モードなのと、加速装置があるので今のグワンガンは結構早い。
時速80kmくらい出てる。
まあ、それでもかなり時間がかかるそうなんだけど。
艦長と副長が酒を飲みながら食堂にやって来て、
「ガザニーア共和国まで8000kmあるぞ? 昼間走るとして、この速度でも一日十時間として十日掛かる。行くか?」
「十日なら行かなきゃいけない距離でしょう……。首長国からも報奨金が出るそうですし」
「金が出るなら行くかあ……」
だらけた会議をしてるなあ。
私がちょこんと横に座って話を聞いていると、二人はじっと私を見た。
「わっ、な、なんですか」
「向こうはヤンヤンに期待してるんだよ」
「えーっ、そうなんですか!? 私なんかただのパイロットなのに」
「ハハハ」
「ワハハ」
お酒で陽気になってるのか、艦長と副長が大笑いした。
絞り終わったライムがコロンと床に落ちる。
そうしたら、部屋の隅で充電していたルクナフがトテテテテっと走ってきた。
『オソウジシマス、マカセテネ』
パクっとライムを咥えて駆け去って行く。
そしてゴミ箱にポコっと入れて、振り返って尻尾を振る。
「あー、かわいいかわいい」
私は駆け寄って、ルクナフをもりもり撫でた。
「見ろ、あの堂々とした態度」
「頼りになりますなあ」
なんか私を見て良からぬことを考えているな!
私はだんだんそういう勘が鋭くなってきたんだ!
これは湧き上がる不満を聞いてもらわねばなるまい。
オペレーター三人娘の人たちもいいんだけど、やっぱりここは……。
「ちょっとスバスさん聞いて聞いてー!」
ルクナフを抱っこしながら格納庫にやって来る私。
ふふふ、ここでスバスさんとおしゃべりする大義名分が……!
って、なんかみんなでスアに群がってるし!
「な、何やってるんですかー!」
「おうヤンヤン!」
整備長が振り返る。
いつも通り、機械油で真っ黒になってるなあ。
「実はな……デスマン-3のバックパックが山程手に入っただろ。あれを使ってだな……どうせスア・グラダートの装甲の下はスカスカだからな、ここに小型推進機として設置して」
「何がどうなるんです?」
「馬鹿みたいに加速できるようになる」
「それ、中に乗ってる私が危ないのでは?」
「作業着だときついだろうな。だが!!」
整備長が目配せすると、奥からスバスさんが満面の笑顔で走ってきた。
何か抱えてる!
「な、なにそれ!」
「ヤンヤンさんの、パイロットスーツです!!」
「えっ! ええーっ!! つ、つ、ついに!?」
なんと、本部から高速便で送られてきたらしい!
高速便は、超高速移動専用のMWで行われるやつ。
動かすだけでめちゃくちゃお金が掛かるやつ。
それがわざわざ、私のパイロットスーツを運んできてくれたらしいのだ。
「私のために高速便出してくれるなんて親切だねー」
「そりゃあお前、環太平洋連合最大戦力をさらに強化する装備だぞ? 最優先で運んでくるだろ」
「はあ、最大戦力最優先?」
「ヤンヤン自覚がないぞ」
「マジかよ」
「あれだけの成果叩き出しておいて」
「そこがヤンヤンさんのいいところなんですよ」
「スバスは本当に変わった趣味してんなあ……」
ハハハ、スバスさんが褒めてくれたので今日はとてもいい日なのだ!
広げてみたパイロットスーツは、やっぱり虎縞模様。
私の体にピッタリサイズで、割とモコモコしてる。
「動きづらそう」
「このモコモコがショックを吸収するんだ。重要だぞ。今まで出せなかった速度を出せる」
「ええっ、今まで割りと速くなかった!?」
「まあ常識的な速度だった。今度は非常識な速度が出るぞ……」
整備長がなんか不敵に笑っている。
いやな笑顔だなあ!
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