第51話 ヤンヤン、元敵国で早速戦闘する!

 ガザニーア共和国は苦境に陥っていた。

 彼らはダーク大陸の北側寄りにあるごく普通の独裁国家だったのだが、北欧純血連邦所属のゲルマ共和国が攻めてきたのである。


「なにっ! アルゼリー民主人民共和国が三日で降伏した!? 国土ばかりでかいウスノロめ!!」


 永世大統領モンテロは悪罵を吐いた。

 これでガザニーアを守る肉壁……いや、友邦が一つ無くなってしまったことになる。

 心が痛い。


 そしてさらに。


「なにっ! ゴムボール共和国が二日で降伏した!? 民政から軍政になったぜとブイブイ言わせていたのか飾りか! ウスラトンカチめ!!」


 永世大統領モンテロは地団駄を踏んだ。

 ついにガザニーアを守る肉壁……いや、友情を誓った親しき兄弟国が全て無くなってしまったのだ。


 だが、モンテロはこんなこともあろうかと……。


「陥落しそうです。環太平洋連合に伝手を作ってあるので、応援を求めます」


 そう、首長国へ連絡を入れたのだった。

 首長国は、モンテロに貸し出した実験機ゴモラーを破壊されて返却されたので、この独裁者がだめな奴であることをよく分かっていた。

 そのため、何を言っているんだこの男は、という反応をしたのである。


 だが、それはそれとして首長国は自らの守りを固めるため、最新鋭機アタリ・ディッブンを出すわけにはいかない。


『自力でなんとかせよ』


 そう命令を下し、首長国は実質的にガザニーアを切り捨てることにしたのである。

 怒り狂う、永世大統領モンテロ。


「おのれ!! こうなればヤケクソだ! 黙ってやられるのを待つ馬鹿がいるものか!!」


 幸い、ゲルマ共和国は5日間連続の戦闘で疲れ切っている。

 ゴムボール共和国で彼らは休んでいるようだった。

 この隙に、モンテロは環太平洋連合へ応援要請を勝手に出したのである。


 こちらには、グワンガンとかいう角つきスカラベ陸上戦艦の艦長と、モンテロの腹心が握手をした写真がある。

 もうこれは友邦である。

 これをチラつかせて、手伝いに来ないとゲルマ戦に巻き込むぞと穏便にお願いしたのだ。


 そうしたら……。


『私の許可を得ているとか言って彼らに通行を許したようだな』


 かなりキレてる感じで首長国の長……即ち、南部大陸同盟の盟主から直電が来た。


「ヒギィ! こ、これには深い理由が……! 今は環太平洋連合と力を合わせて北欧純血連邦と戦うべき時で……!」


『お前はクビだ』


 それだけ言って、電話が切れた。

 盟主からのクビ宣言。

 即ち、永世大統領モンテロがなんらかの理由で、大統領ではなくなるということだ。


 具体的には暗殺とか。

 だが!

 モンテロは、明日の命よりも今日の命を大事にする男だった。


 ゲルマ共和国の攻撃が始まる。

 モンテロは対抗すべく、子飼いの高性能量産機、クワヘイムを出撃させた。

 彼らはゲルマ共和国のMC、アドラーといい勝負をした。


 だが、その中から突如現れた漆黒のMC、ブンデスアドラーによって一瞬で全機を落とされてしまったのである。


『南部大陸同盟のMCはこんなものかあ! がはははは!! 相手にならんな!』


 ゲルマ語の笑い声がオープン回線で響き渡る。

 黒い鷲を思わせるMC……。


 永世大統領にしがみつく気満々のモンテロは思い出した。


「北欧純血連邦最強のパイロット……!! クーゲルか!! ま、まさかMCバスターが俺の国にやって来てしまうとは!!」


 モンテロは頭を抱えた。

 伝説が本当なら、勝てるはずがない。


 内戦を引き起こしたコサック軍のMCを、たった一人で四十機撃墜したとか、落とされた後、走って基地に戻ってきて一般のアドラーに乗って再出撃して敵を全滅させたとか。

 異常とも思えるエピソードばかりが語られるパイロットだった。


 クーゲルがいるために、コサック共和国は身内に牙を剥く事を止めたとすら言われている。

(実際は華国を手に入れたので、身内の国を襲って不凍港を求める必要がなくなったのだが)


「あわわわわ、た、大変だ……。逃げよう」


 モンテロは決意した。

 自分と腹心がいれば、それ即ちガザニーア共和国である。

 ゲルマ軍も罪もなき民は殺さないだろう。

 殺さないに違いない。

 殺さないんじゃないかな。


 淡い期待を懐き、モンテロは地下に潜伏した。

 そしてガザニーアは一日で陥落。


 モンテロは地下生活をスタートさせたのである。

 地下生活十日目……。


 そろそろ太陽が恋しくなってきて、ちょっと外に出てきたモンテロ。

 彼は見た。


 角が付いたスカラベみたいな見た目の陸上戦艦が、真っ昼間にのっしのっしと歩いて国境線を超えてくるのを。


「き、来た!! 陸上戦艦グワンガンだ!! おーい! おーい! 俺だ! 永世大統領モンテロだ!! おーい!!」


 モンテロは手を振り、飛び跳ねてアピールした。

 どうやら陸上戦艦も彼に気付いたらしく、チカチカと光で信号を送ってくる。

 モンテロはこの信号がさっぱり分からなかった。


 だが、これで勝つる。

 モンテロは確信したのだった。


 そんな彼の後ろに、FM弾ミサイルが炸裂した。


「ウグワーッ!?」


 吹っ飛ぶモンテロ。

 幸い、直撃したのは腹心たちがいる地下のシェルターだった。

 腹心は全滅したがモンテロは無事だった。


「ま、まだだ! まだ俺がいればガザニーア共和国はやれる!」


 吹っ飛んだところで、上手いことグワンガンの角に引っかかったモンテロ。

 己の悪運の強さを喜んだ。


 振り返ると、真っ黒なMCが飛び回っている。

 ブンデスアドラー。

 ゲルマ共和国の最強パイロット、クーゲルのMCである。


 炎天下のガザニーアで黒い装甲は話にならないくらいヤバいのだが、どうやら特殊な塗料を施すことで熱の蓄積を防いでいるらしい。

 クーゲル機は、この古風な陸上戦艦を敵と認めたようだった。


 攻撃が始まる。


「ウグワーッ!! 当たる! 当たる!」


 FM弾がピュンピュン飛んでくる。

 モンテロは必死に暴れた。

 凄く動いたので、FM弾が当たらなかった。


 そして彼の頭上で、スカラベ戦艦の角が鳴動を始める。

 なんぞや、と思ったモンテロ。

 その直後に、彼の頭上を轟音とともに虎縞のMCが駆け抜けていった。


「ウグワーッ!?」


 衝撃波と猛烈な風に翻弄されるモンテロ。

 その勢いで、彼は角の上……滑走路に投げ出された。


 運が強い男だった。


「ぐおお……なんだかわけが分からないが、頼むぞスカラベ戦艦……! 虎のMC……!!」




 

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